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レインズ・ライフ  作者: Atsu
先輩の遣いと茶封筒
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Side-Black 先輩の遣いと茶封筒 その3(完)

封筒の届け主が判明したが、次の謎が浮かび上がる。一体、先輩は何のために、ここまで細工を加えたのか。そして、この封筒の中身は一体。解決編です。

『司書室』と書かれたプレートを確認し、ドアノブに手をかける。

「失礼します。川窪先輩はいらっしゃいますか?」

「はい、私だけど?」

眼鏡の似合う、低身長の少女。この人が川窪先輩らしい。個人的には、図書委員会の先輩というと、物静かでクールな女性と言うイメージが強かったので、少し意外だった。

「あら、藤島さんじゃない、今日は当番じゃないのにどうしたの?」

「こんにちは、先輩。今日はホントは自習に来たんですけど、この黒川君のなぞなぞに付き合ってて。それで、ちょっと先輩にお話があるんです」

「私に?何の話かしら?」

人差し指を口元に当てて、斜め上を見上げ、何か話すことがあったかと川窪先輩はうーん、と唸る。

「いえいえ、前からのことじゃないんです」

「そうなの? てっきり何か約束事でもあったかと」川窪先輩はおどけた表情をした。「で、話って?」

「新聞部一年の黒川って言います。まず、単刀直入にお伺いします。先輩は〈ハコガワ〉ってあだ名ですか?」

「あら、ということは馬野君の使いの子ね」ははぁ、この子か、と言う表情で俺を嘗め回すように俺を見た。

「馬野…? つまり、このシマヤって言う人と同一人物ですよね?」

俺は茶封筒の文字を先輩に見せる。

「シマヤより、例のモノ。ええ、そうよ。馬野君ね。それにしても、先輩の名前、知らなかったの?」

「恥ずかしながら。てっきりシマヤって書かれてたので、シマヤ先輩って言うのかと」

「それは部員として駄目なんじゃないかしら。まあ、馬野君も悪いけど」

「と、いいますと?」

「ほら、私が〈ハコガワ〉だって知らなかったんでしょ。ちょっと戸惑ったり、分からなかったりしたんじゃない?」

「はい、ここに居る二人と考えてて、先輩なんじゃないかと」

「あら、藤島さんも一緒に?」

「はい、それにこの関野君も」

関野は一礼するに留まり、相変わらず女子相手とあって口を開かない。

「そう。それはご苦労様。馬野君も黒川君にちゃんと教えてお使い頼めばよかったのにね」

「ということは、お使いが来るってことは知ってたんですか?」

「ええ。何でも、適当な一年生にそれを持たせるから、着たら受け取ってくれ、なんてね。何でも、合言葉は私の名前をもじって、〈ハコガミ〉だってね。シマヤなんて自分の名前をもじってるぐらいだから、相当馬野君も心配性なのね」

「ということは、先輩。シマヤっていうのは、馬野先輩のフルネームの漢字をもじってシマヤって言うので間違いないんですよね?」

「そうよ、彼のフルネームは、馬野司うまの つかさ。シマヤってなるでしょう。私の〈窪〉って感じを〈わ〉って読める人、普通居ないから苦労したでしょ?」

「いえ。案外、他の漢字から想定できました」

「あらそう」

フフっと川窪先輩は笑う。

「で、先輩。私達は、馬野先輩が名前を合言葉にしてまで、慎重に細工して封筒をお使いさせた理由、多分封筒の中身に直結するすると思うんですけど、それが知りたいんです」

藤島さんが興奮した様子で、先輩に尋ねる。

「えー。どうしようかな。一応、馬野君との約束もあるし…。まぁ、誰か分からなかったのに、ちゃんと届けてくれたし、内緒に出来るなら、一年生だし、教えてあげてもいいかな。内緒に出来る?」

ふと、関野のほうを見ると、ニコリとした表情で首を激しく上下に振る。怖いよ、お前。

 よし、これで謎は解決するな。大きくうなずいた俺をよそに藤島が先輩を制す。

「ちょっと待ってください、先輩。実は黒川君が中身の推測が出来てるそうなので、まずそれを聞いてから教えてください!」

「分かったわ。面白そうだし、聞かせてもらおうかな」

「え…」

おい、めんどくさいこと言わないでくれ、藤島さん…。俺は苦笑いをする。教えてもらえんだから、俺の高尚でもない推測はもういいじゃないか。その一方で、関野は答えをお預けされ、藤島さんを目を大きく開き、ここまで来てそれはないよ、と言わんばかりに口をあんぐりと開き、呆然としている。

「お願い。問題を解く過程を知るのも私好きで。ねえ、いいでしょ?」

慈悲を乞う天使の姿は眩しく、俺はやむを得ず頷いた。

「わ、分かった。ただ、俺のは答えじゃない。期待はしないでくれ」

「やったぁ。じゃあ教えて、黒川君。その茶封筒の中身の推測」

まぁ、こういう時はまずはゴホン、と喉を整えて。落ち着いて切り出す。

「そうだな。まずは土台固めからだ。まず、馬野先輩が川窪先輩に、合言葉、つまり二人だけしか分からないあだ名を使い、自らの名前も変えて俺に持たせた。このことから分かったことがいくつかある

 まず、さっきから言っているように、馬野先輩は用心深く、秘密が漏れないようにしたかったということ。そして、馬野先輩と、川窪先輩が図書室で会うということを避けたかったと言うことだ」

「なるほどね。黒川君、いいところに目を付けてる。続けて」

「そして、さっき藤島さんと関野に話したとおり、親密ではないけど、内密に話を進めたいこととして、依頼って単語を俺が出したと思う」

「ええ。確かに黒川君言っていたわね」

「それにもうひとつ、俺が気付いたことがあって、この依頼が男から女に依頼しているってことがミソで、多分、男じゃ出来ない、もしくはやりにくい何かを頼みたかったんじゃないか、って俺は推測した。ですよね、川窪先輩?」

「当たり。じゃあ、その、男じゃ、行うのが厳しいことって何だと思う?」

「単刀直入に聞いてきますね。もう少し、推測が合っているか確認させてください」

「分かったわ」

「この、男から女への依頼ということには、さっき言った、馬野先輩と川窪先輩がここで、接触をさけたかったと言う推測が絡んでくるんじゃないかなと、俺は考えました。なぜか? それは多分、川窪先輩のほうに理由があると踏んだんです」

「へぇ、私に」

「それは、一般的に、男には気が引ける、もしくは不審と思われる可能性のある行為だと考えます。そして、その延長線上にあるを行為を馬野先輩がすることは、世間一般、まあ小さく言えばクラス内で、ばれてしまうと、あんまりよろしくないことで、その行為とその延長線上の行為に関して、先輩はクラス内で有名だということだと考えるからです。多分、先輩とここで会うという行為がクラス内では何かを暗示していて、直接ここで会うことで簡単にばれてしまうと言うことになるんです」

「ってことは、黒川君。その行為、もしくは延長線上に行為で、川窪先輩が有名だから、ここで会わずにこの封筒を渡したかったって事?」

「そういうことだ。というより、男女が中身の分からないものを渡していたところを、クラスメイトに目撃されたら、あんまりいい噂はではないだろ。だから、クラス外の人か誰かに頼んでお使いさせたかった。特に、自分のこと、そして川久保先輩のことを知らないようなヤツに。多分それで部活に入って、あんまり時間の経っていない俺にそのお使いを任せた」

「なるほどね。つまり、他人みたいだけど、保証があり、お使いを任せられる都合のいい人…」

うっかり失言とばかりに、藤島さんが口元を隠す。関野はニヤニヤしながら俺を指差す。

「藤島さんでも、それはちょっと癇に障るな…。おい、関野。指をさすな」

「サーセン」

ここに入って初めての発言が謝罪になったが、関野は顔で俺を卑下している。

「とりあえず話を戻しますね。では、その行為と茶封筒の中身は何か。核心についていきます。多分、その行為は女子の間では当たり前、もしくは問題ないされているけれども、男子がその行為を行うことは『ありえない』、とか『ちょっと、どうなの』って思うことじゃないでしょうか」

「うーん、それは人それぞれかと思うけど。まあいいわ。そういうことで推測を続けてみて」

「はい。多分、図書室で、と言うことは、書籍が関連してくるんじゃないかと思います。ということは、茶封筒の中身は書籍に関する依頼。つまり、先輩に借りたい、もしくは借りてきてほしい本のリストなんじゃないかと思われます。そして、その内容は」

「内容は?」

ここで、一息つき、区切る。関野のほうから生唾を飲む声が聞こえた。

「言わなきゃダメ、でしょうか?」

俺は苦笑し、言葉を続けようか悩む。そう、先輩のことを思うと、言いにくいことなのだ。

「おいっ!そこは言えよ、クロ君!」

関野は俺の溜めに、コントのごとく床に転がり込んだ。

「でも、あんまり言うべきでないことなんだ。河窪先輩に対して、失礼なことを言うことになりますけど、いいですか、川窪先輩? それに、馬野先輩のメンツも…」

以外にも、先輩の解答はあっけからんとしていた。

「ええ、大丈夫よ。言ってみて、答えを」

その度胸に俺はたじろぐも、もう一度息を吸いなおし、口を開いた。間違っただろうか。

「馬野先輩が、俺に遣わせ、川窪先輩に渡したその茶封筒の中身は、BL本のリストなんです」

そう言うと、辺りの空気が数度下がった気がした。二人もその言葉が何なのか、一瞬分からずにぼけっとした顔になったが、少しして、藤島さんは表情を赤らめた。

「つまり、突き詰めますと、先輩は世間で言うところの『腐女子』で、そのような本がお好きで、先輩、そして同じクラスメイトの馬野先輩のクラスでも、ブームなのかは分かりませんが、流行っている。そして、その本をよく読むことで川窪先輩、あなたはクラスの中でも代表的なほど有名なんです。ようは、布教者的立ち位置なんです。

 そして。何かのタイミングで、馬野先輩はそれに興味を示していることをあなたに暴露し、先輩は貸そうか、と提案した。多分、先輩はそのような本を数多く持っていらっしゃるんでしょう、有名タイトルなら、大体持っている先輩は、読みたい本を言ってくれれば貸す、と言ったんじゃないですか? それを聞き、馬野先輩は本のタイトルのリストを書き、その中に入れて俺に持たせたってわけです。それなら、辻褄が合います。

 どうでしょうか、コレが俺の推論です」

俺は、最後にため息を吐いた。正直、言いたくなかったのだ。左右を見るとやはり苦笑いを浮かべている。

「確かに、そう言われると確かに不服かな。半分正解、半分不正解ってところね」

「半分…ですか?」

その言葉に、俺たち三人は頭をかしげる。半分正解?

「まず、前半の推論はほぼ満点。正解なんだけど、問題は後半部分。私が腐女子で、BL本のリストが入っているところ。ここが違うわ」

「どう違うんですか?」

「私は腐女子じゃないし、BL本も読まない。それに、馬野君に本を貸すなんていうのも、本人が断ってる」

「ということは、別の本、ってことですか?」

「そうよ、正しくはコレ」先輩が机の上に置かれ、ブックカバーのかかった本を手に取り、カバーを外した。「少女マンガよ」

 現れたその本は、まさしくかわいらしい少女が描かれ、美しく装丁が施された少女マンガだった。

「少女マンガだったんですか! なるほど!」藤島さんが納得した表情を浮かべる。「これ、有名なやつですよね」

「そうよ。で、二つ目に違うところ。開けてみれば分かるわね」

川窪先輩が丁寧に袋を切っていく。中から出てきたのは、一枚の白い紙で、なにやら手書きの文章が書かれていた。

「ほら、ここ。買ってきて欲しいものって書いてあるでしょ」

なるほど。本のリストは、『借りたいもの』、ではなく『買ってきて欲しいもの』だったか。

「馬野くんに、マンガ貸そうか、って言ったんだけど、俺、本を綺麗に扱える自信ないから良いよ、自分で買うって言ったんだけど、いざ買うとなって、そこで彼の心配性って言うのも関わってくるけど、彼、お店で少女マンガを買う勇気ないって言ってね。あんなに、強そうな顔してるのに可愛いでしょ。それで、私に買ってきて欲しいリストを作って渡すって」

「なるほど、確かに男からすれば、少年漫画は簡単に買えますけど、少女マンガを買うとなると、周りの目も気になる人はいますもんね。特にあの先輩なら、男って感じだからなおさらかもしれないですね」

「そうね。それに彼が読んでるなんて言ったら、クラスのみんなはギャップに驚いちゃうかな。でも、少女マンガは女の子向けとはいえいい作品もあるし、なかなか馬鹿に出来ないのよ」

「確かにそうですね。そういえば、関野も読んでなかったっけ?」

「え、そうなの?」

藤島さんが驚く。

「ま、まあ。恋愛小説が好きだから、その延長線上で読んだりするときはあるよ」少し赤くなりながら言った。そして小声で「クロ君、今度ブッ飛ばす」とも聞こえた。

「まあまあ。俺が言いたかったのは、男でも読むことは悪くないって事なんだが」

「それなら許す。辱めを受けたかと思った」

その言葉に女性陣は微笑む。

「そうね、悪くないわ」

川窪先輩のフォローに、関野は更に顔を赤らめて下を向いた。

「ま、そういうことでこれが答え。これで良いかな?」

「はい。納得しました」

「あたしもです」

「くれぐれも口外しないようにね」

「分かりました、先輩」

「了解です」

関野も頷く。

「じゃあ、これで良いかな、二人とも。先輩教えていただきありがとうございました。それでは、失礼します」

こうして、俺達三人は司書室を出た。二十分と言ったいたはずが、図書室に入ってからいつの間にか一時間近く時間は流れ、下校時刻までもうすぐと言う時間になった。

「あ、もうこんな時間。なぞなぞありがとね、黒川君。面白かったよ」

「ま、謎は俺じゃなくて馬野先輩にお礼を言って」

「そうね。じゃあ、時間も時間だし、この辺で。また明日ね、関野君も」

藤島さんは自習をあきらめたようで、荷物を取りに教室へと向かって行った。

「関野も帰るんだろ?」

「うん、帰る。それにしても、クロ君の口からBLなんて単語、出てくると思わなかったわー。妄想って怖いわー」

「お前が言うな!」

すかさず鋭い突込みを入れる。さすがにこれは突っ込まないほうがおかしい。

「ゴメーン」

ニヤニヤしながら、舌を出す関野の肩を出口側へ回転させる。

「帰れ。じゃあな」

関野の背中をとん、と押す。

「うん。また明日。おもしろかったで」

関野は手を上げ、生徒玄関へと向かって行ったのだった。

 俺も、部室へとお使いの任務完了を言わなければならない。遅れて、出口へと向かう。と、その時、後ろから声が掛かる。

「黒川くん、だっけ。ところでなんだけど、ここに来たのはお使いだけ、かしら? 何か目的あったんじゃない?」

心配したように、河窪先輩が言う。次の瞬間、先に言葉が漏れた。

「あ!」

そう、俺にとっては、お使いはあくまでも『ついで』だったのだ。調べ物をするという本来の目的を換算に忘れていたのである。

「やっぱりね。なんか、申し訳ないことをしたわね」

「まぁ、またこればいいですから。なんだかんだ、楽しめたのでコレはコレでありだったのかもしれません」

自然と言葉が出た。あれほど最初は面倒だと思っていたのに、事が済んだあとは、お使いをなしとげたという達成感が確かに俺の中にはあった。

「それなら、無駄ではなかったってことね、このお使いも」

「馬野先輩には一杯食わされましたけどね」

 部室へと、復路を歩く。そう言えば、ネタに困っていた雨乃は見つかっただろうか。朗報が聞けるといいんだが。そんなことを思いながら、不思議な放課後は幕を閉じたのだった。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。自分の中では、割と好きな話です。

 中身のわからないものを想像するのって、面白いですよね。当たり外れが分かるまでは、色々と思考を凝らすものです。特に、今回の「おしい(といっていいのか分かりませんが)」という黒川の推測に、その楽しさが現れていたりするんじゃないかと思います。

 自分は、マンガ自体は読まないですが、アニメだったりで少女漫画が原作のものは何度か観たことがあり、素敵な作品もいくつかありました。割りと今は、男でも少女漫画を買うということが世間的には、認められているように思えますが、やはり、少年漫画の単行本と比較して、装丁が男にはちょっと手に取りづらいという人も結構いるんじゃないかなと確かに思います。ゴリマッチョ体型の人が、少女漫画買ってる姿をイメージしたら分かりやすいと思うんですが、どうしても違和感がつきまとってしまいます。

 そんなことも考えつつ書いたりもしたんですけど、実際の所、BLオチでは面白く無いなと、あとから出てきたものが、このような形となりました。

 もしかしたら、この次の短編は、この話の続きから始めようかな、なんて思ったりもしています。折角、同じ放課後を 二人(雨乃、黒川)のSideから書いたのですから、合流させてもいいんじゃないかと。それなら、その先に二人に解かせる謎も用意しないといけませんね笑

 一応、すでに、何種類かの別の短編の構想が出来上がっていますが、時間の都合上、もう少しゆっくりになるかもしれません。あしからず。


 感想、コメント等いただけるとありがたいです。より、この世界観を楽しい物にしていきたいので。


 では、また次回!

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