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レインズ・ライフ  作者: Atsu
先輩の遣いと茶封筒
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Side-Black 先輩の遣いと茶封筒 その2

先輩が渡すよう封筒。しかし、届け主である「ハコガワ」という人物が図書室には居なかった。それがが意味することとは?

箱川はこがわという人物が居ない…・」俺は藤島さんの断言にきょとんとする。「じゃあ、今日の当番って誰なんだ?」

河窪かわくぼ先輩。二年生の女の先輩よ」

全く名前が違う。箱川ではないことは明白だ。

「ということは…。どういうことなんだ?」

先輩から託されたものを渡す相手が存在しない。俺は混乱する。

「なんか面白いことになってきたぁー。封筒の中身の謎の前に、渡す人が居ない謎があるなんて!」

関野はにやつき、嬉しそうな顔をする。

「面倒なことになったな。仕方ない、部室に聞きに戻るしか…」

無理に面倒な方向へ持っていきたくない俺は、出口の方へとひるがえし、部室へと帰還しようとした。しかし、その時だった。急に、腕にやわらかい感触を感じた。藤島さんに掴まれた。…しまった。

「ちょっと待って。コレって、なぞなぞよね? 私、こういうの結構好きなの。だから、聞きに行くのは待って。解かさせて」

俺を見つめる瞳は輝きを放っており、眩しい。吸い込まれそうになり、目線を逸らした。

「藤島さんってこういうの好きなのか」

できることなら手身近に済ませたいものだが、そうさせてはもらえるのだろうか…。関野との遭遇と言い、悪いものはタイミングが重なるのだなと、頭をかく。

「うん!」

微笑みは素敵なのだが、なんと言えばいいのものか。

「長引くのは、あんまり好きじゃないんだ」

俺は本音を吐露し、少し不快そうな表情を浮かべてみる。これで、退いてもらえないだろうか。

「そんなこと言わないで、黒川君。お願い、二十分くらいでいいから一緒に考えてみましょうよ」

そのきらきらと眩しい視線、できればやめていただきたい。こうなったら妥協するしか無いか。女の子を困らせるのは、あまり周りからの印象も良くない。ましてや、人気者である、藤島さんを困らせたなんて噂が広がれば、穏やかな今後は保証されかねない。こうなったら仕方ない、後々の関係を考えると、急がば回れ、か。俺は元の向きにもどる。

「分かった、二十分だけな。それで解決しなかったら先輩に聞きに戻るって事でいいか」

「ありがとう! 関野君も一緒に考えてくれるよね?」

関野も無言で頷く。

「じゃあ、そこのテーブルで。話を整理しよっか」

 木製の、白灰色の長テーブルを俺たちは囲った。早速、ここまでの流れを整理する。

「じゃあ、ここまでの出来事を順を追って話そう。まず、俺は図書室へ調べ物をしに行くついでにシマヤ先輩から茶封筒を届けるお使いを受けた。

 封筒の厚さは薄いが、口がセロハンテープで一直線で封されていた。そして、表面中央には、『シマヤより、例のモノ』と書かれていた」

「そして黒川君が、箱川って人が図書委員に居ないかを私に尋ねたんだけど、居なかった。ここまでの流れはおおまかにはこんな感じよね?」

「そうだ。でも、この情報だけじゃ分からないな」

「クロ君、シマヤ先輩は『箱川って人に渡せ』って言ったんだよね。じゃあさ、単純に考えて、まずは藤島さんが言ったカワクボ先輩が、箱川って人と同一人物じゃないか推測するのが妥当なんじゃない?」

「そうは言っても、明らかに苗字が違う」

「でも、関野君の言ったことは確かに考える必要があるわ。…だとしたら、それなら何で河窪先輩が箱川なんて名前になるのかしら?」

「ちなみに藤島さん、そのカワクボ先輩のフルネームは?」

「たしか、かわくぼようこ、だったと思うわ」

「かわくぼようこ…」俺は発音しつつ反芻する。「ちなみに、かわくぼようこって漢字でどう書くんだ?」

「大河の河に、窪みの窪。葉っぱの葉に、子供の子だったと思うけど、それが何か関係あるのかしら?」

これに、箱川の『は、こ、が、わ』というひらがなが当てはまらないだろうか。苗字も四文字なら、漢字と相関しないだろうか。まさか。俺はひらめく。

「関野、ノートパソコンのメモ帳使わせてくれ」

「いいよ、クロ君」

関野はカバンからピンク色のノートパソコンを取り出して起動し、俺に渡した。

「外側、こんな派手な色だったんだな」

「そのほうが存在感あるし、無くさずに済むかなーって思って」

「こんな大きいもの無くすほうがおかしいだろ」

「関野君って、面白いね!」

「ま、まあ…ね」

お世辞に関野は若干うつむき、まんざらでもない表情をする。

 その間にも、俺はメモ帳を開き、文字を入力し、スペースキーをしばらく押していく。

「で、何を調べてるの、黒川君は?」

俺はノートパソコンを反転させ、ディスプレイを二人に見せる。

「これだよ。俺がぱっと閃いたのは」

変換をかけたのは、たった一文字。それは〈わ〉。羅列する、 〈わ〉と読む漢字の中で、目的の漢字は、反転色で表示された。この文字さえそう読めてしまえば、同一人物であることは明らかだったからだ。

「ほら、コレを見てくれ」

藤島さんが漏らした一言は、へぇー、知らなかった、だった。

「まさか、窪って漢字を〈わ〉と読むことが出来るなんて」

「ってことは、どういう事なのクロ君。説明お願い」

「つまり、俺はとんだ勘違いをしていた、というか、先輩から大事なことを教えてもらっていなかったってこと。ハコガワって、てっきり苗字かと思っていたんだ。でも、実際は…」

俺はポケットからメモ帳を取り出し、四つの漢字を横一列に書いた。

「葉子河窪〈ハコガワ〉…。」

藤島さんは文字を見た後、顔を上げ俺に驚きを表情で伝えた。

「見て分かるとおり、名前と完全一致するなんて、偶然なわけ無いよな。だから、多分関野の線は合ってると思う。これでかいけ…」

と、これで落着かと思い、気が抜けた瞬間、関野は直ぐに話を続けた。

「それは分かったけど、じゃあ何でそんな偽名みたいなことしたの?」

せっかく、ひとつ謎をといたと言うのに、感動が薄いな、関野は…。好奇心先行型は、解決しても、直ぐに次を見るものなのか。

「ちょっと凝ったあだ名とかじゃないか?」

「普通の人が分からないような文字を使って名前を作るって事は、何か暗号みたいよね。これって中身のものと関係するのかしら?」

「そこまでは分からないが…」

腕を組んで悩む俺をよそに関野が動く。

「もう、ここまで来たら中身、開けてみようよ。そうすれば全部分かるだろうし。綺麗に開ければばれないでしょ」

テーブルの上に置かれた茶封筒に手を伸ばす。

すかさず俺と藤島さんが一瞬の間もなく腕を伸ばし、止めに入る。

「おい! それは駄目だろ」

「駄目だって関野君。人としてやったいけないことでしょ」

藤島さんが封筒を関野が触れる前に取り上げる。女子が苦手な関野はそれ以上手を伸ばすこともせず、うつむき、うなだれた。

「そんなぁ…」

「当たり前だろ」

「そうよ。当人に聞くならまだしも」

藤島さんは頬を膨らまし、関野を制した。藤島さん、怒っているのにかわいいとはこれいかに。

「とりあえず、話戻すぞ。わざわざ読みにくいような呼び方をするってことは、何か暗号めいたものがあるんじゃないかっていうのが藤島さんの考えだな?」

「うん」

「俺が考える限りでは、多分、当人達以外の人には秘密にしておきたいことではあると思う。藤島さんの言う、普通は読めない〈ハコガミ〉しかり、封筒の開封口にしっかりテープでとめてことしかり、そう考えていいと思う。ただ、俺なんかにお願いするってことは多分、ばれると本当にマズイ事とかって言う類ではではないか、バレても大丈夫な加工がされているんじゃないかと思う」

「ってことは、愛の告白とかじゃないってこと!?」

関野が少し残念そうな表情で言う。

「ああ。それに、あの先輩は恋愛とかの類はオープンにしなさそうなタイプだろう。思うに、ある程度隠したいけど、大っぴらにはしたくないことかもしれないな」

「大っぴらにしたくないことねぇ…。どんなことがあげられるかな?」

「秘密裏に進めてる計画の内容とか?」

「なるほどね。それは考えられるかも。でも、単に秘密の共有だけしたいのなら、メールすればいいじゃないかしら?」

と、藤島さん。

「二人はそこまで親密じゃないから、アドレス交換とかしてないって言うのは?」

と、関野。

「でも、親密じゃないんだったら、あんな暗号めいた秘密事なんて無いってことになるんじゃない?」

それに反論する藤島さん。

「ふたりで矛盾してるぞ」

「え!?」

二人の声が揃った。俺は固まった雰囲気に、なぜか笑いがこみ上げるが我慢する。そして、雰囲気と時を同じくして、ひとつの仮説を思いつく。

「でも、その矛盾がヒントかもしれないな」

「どういうこと?」

「親密過ぎなくても、二人で秘密裏に進めることもあるだろう?」

「イケナイ関係の計画とか?」

「もう、そんなわけないだろ」関野の妄想に苦言を呈す。「不純なことをするような人たちじゃなだろ。な、藤島さん?」

「うん。河窪先輩はそんな人には見えないわ」

「じゃあ、何をあげられるの?」

「一つ浮かんだのが、依頼の類だ」

「依頼?」

二人の頭にはてなマークが見える。

「そうだ。もし、シマヤ先輩が他人に知られたくないような依頼を河窪先輩にするのなら、つじつまが合う」

「そうね。それなら親密じゃなくても秘密にして進めることがあるかもしれないわね。それに、そういうことなら偽名って言うのも、確認の為の合言葉として使ったとも考えられるわ」

「うん、そうだね。それに、それならもうひとつ分かる。合言葉を使って確認を取らせるって事は、シマヤ先輩は心配性、もしくは慎重派だってことだ。念を押して、他の人に自分であることを気付かせないように…あ」

自分で言っておいて、気づく。あの先輩、そんなことまで計算していたのか。

「どした?」

「どうしたの?」

「もうひとつ分かったことがあるかもしれないな…」

あの先輩、俺にお使いに行かせたのは、たまたまじゃなく、決めていたな。

「推測なんだけど、シマヤ先輩も偽名かもしれない」

「え?」

「俺、正直なところ、あの先輩の名前覚えてなかったんだ。この封筒を見て、シマヤなのかって知ったんだ。それに、シマヤは島に谷ってだと思って、〈ハコガミ〉みたく、苗字だと思い込んでいたかもしれない。もし仮に偽名だったら、他にも先輩が心配性だとわかる事がある」

「どんなこと?」

「先輩が偽名を使うことで、仮に河窪先輩に茶封筒が渡らずに、どこかで他人に開封されたとしても、偽名であれば、自分であることがばれない。それに、『俺が面倒ごとに突っ込まない性格で、中を開封しない可能性が高いこと』、『俺がまだ先輩の名前を覚えないこと』を踏んで、俺にお使いさせることで、さらにその安全性を高めた」

「つまり、二人の間以外だったら、中身を見ても、何だコレってなるものが入ってるって事ね?」

「ってことは、誰が見ても分からないってことでしょ。それなら中身を隠す必要ないんじゃない、クロくん」

「いいや、暗号にはなっていない。暗号ならば、そのまま裸で渡せばいい。暗号は、他の人には解読できないわけだからな。

 封をして渡したことから分かるように、中身を隠す必要はあった。なぜなら、お使いをする俺は、名前を知らないとはいえ、先輩と接点があるからだ。お使いでない人間が見れば、先輩の素性が分からないから、問題がないかもしれない。だが、名前を知らないとはいえ、俺は同じ新聞部の知り合いだ。きっと中身を見れば、俺には依頼内容が意味することか分かってしまうような内容なんだろう。だから、封をして渡した」

「じゃあ、それら条件を満たす、封筒の中身は何になるの?」

「『親密でない人間に、秘密裏に渡す依頼書』。図書委員に所属する河窪先輩に渡すってことは、『河窪先輩のような人にしか依頼できない』ってことがキーだな」

「えー教えてくれないの?」

「ひとつ、浮かんでいるものがあるんだ。藤島さん、河窪先輩のところに案内してくれ。そこで答え合わせと行こうか」

俺達は席を立ち、河窪先輩のいるであろう司書室へと向かった。

Side-Black 先輩の遣いと茶封筒 その3に続く。

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