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レインズ・ライフ  作者: Atsu
気分転換と入部届
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Side-Rain 気分転換と入部届 その2

ネタを探しに部室を飛び出した雨乃は教室にて、クラスメイトの真田と出会う。彼は所属する部活動に悩んでいるらしく、雨乃はネタ探しも兼ねて、部活探しに協力することになった。向かった先で謎が…。

 廊下に出ると、むわりとした空気が身体を包んだ。多くの文化部が部活の活動教室として使用している特別教室棟へと私達は向かった。

「真田くん、どの部活の見学に行ったの?」

「コンピュータ部、文芸部、天文部。それから囲碁将棋部も行ったかな。あとは、いくつか行ってみたけど…」

真田君が指折り数えた。折られた指は両手で数えられる数だった。

「合いそうな部活はなかったの?」

「うん。残念ながら」

真田君の苦笑の中には、悲しさが垣間見えた。

「そっか。となると、特別教室棟で活動している他の部活ね」

名前の出ていない部活といえば、手芸部、茶道部、書道部…。思い出しながら、真田君に繋がりそうな部活を考えてみた。そして、ある部活が頭をよぎる。

「そうだ、園芸部には行った?」

「園芸部?」

「そう。確か、真田君に合いそうなことやってたかも」

「僕に合いそうなこと?」

「うん。まぁ、行ってみてのお楽しみってやつね」

「雨乃さんがそう言うんだったら、そこに行ってみよう」

こうして私達は、目的地を園芸部とすることとした。


 入学して間もない四月の早い段階から、私は新聞部に入部している。しかし、最初から新聞部と決めていたわけではなく、入部前には他の部活動を見て回って、自分に一番合う部活として選択した結果だ。そのときのこともあり、文化系の部活の活動場所は覚えていた。

 生徒玄関のある廊下を通り過ぎ、廊下を挟む保健室と校長室を抜けた先にある突き当りを右に曲がる。すぐに〈選択教室Ⅲ〉のプレートが見つかった。確か園芸部はここで活動していたはず。

「ここが園芸部の活動教室。活動日だと良いんだけど」

ドアをノックする。中から男子生徒の返事が聞こえたので、ゆっくりとドアを開けた。

「失礼します」

教室内には、男子生徒が窓の奥に見える中庭に向かって座っており、こちらに顔だけを向けていた。男子生徒をよく見ると、棒付キャンディーを咥えているのだろうか、口から白い棒がぴょこん、と飛び出ていた。

「何か用?」

パーマ気味の黒髪、眠たそうなにまぶたの開ききっていない目。男子生徒は立ち上がり、こちらに向かってくる。華奢とまではいかないが、すらっとした長身なので学ランが似合っている。若干袖口がぶかぶかで、気だるそうな印象を受ける。

「あの、園芸部の活動教室で合ってます?」

「ああ。そうだけど」

男子生徒は、まるで寝ぼけているかのように後頭部を掻きながら答えた。

「見学に来たんですけど、今日は見学できますか?」

「あー、今日は活動してない」手を左右に振りながら答える。「俺、二年の坂上って言うんだけど、ここでぼけーっと中庭の植物を見てるのが好きで。んな訳で、今日もたまたま居るだけ。一応、部活の説明だけなら出来るけど、二人とも見学希望?」

「いいえ、私は雨乃って言うんですが、私のほうは付き添いで。見学はこっちの彼、真田君です」

「こんにちわ」軽く真田君が礼をする。

「あぁ、これはどうもご丁寧に。こんにちわ」ふわっとした乱雑な頭を掻きながらも、坂上先輩は礼を返した。「じゃあ、立ち話も何だし、その辺に座ってくれ。大体のことを話す感じで良いかな?」

「はい、大丈夫です。活動内容とかが分かればいいので」

「わかった」

私達は、普段の授業のように黒板に向かう形で着席しようとする。

「ここでいいですか?」

座ろうとしたその時、坂上さんに制止される。

「ああ、ゴメン。中庭が横目に見える感じで座りたいから、君達は黒板を背にするような感じでもらっていい?」

「わ、わかりました」

何かこだわりでもあるのだろうか。私たちは不思議に思いつつ、並んで椅子に座った。

「えーっと、まず何から話そうか。そうだ、活動日。週二回、火曜日と木曜日。それと、それぞれ学校菜園で育ててるものがある人は、植物に朝の水遣りをやってる。火曜と木曜の放課後の活動は、集まって好きなように話す感じだな。そこまでガッツリ活動はしてない。それと、野菜とかが取れたら、調理室を借りて料理したりすることもあるよ。活動内容はこんな感じ」

「どう、真田君? ウサギ飼ってるんだったら、ニンジン作って、ウサギにあげるのもいいかなと思って園芸部に来てみたわけなんだけど、どうかな? きっと喜ぶと思うんだけど!」

私が園芸部を真田くんに紹介したのは、ウサギの関係することなら、真田くんも楽しくできると思ったからだった。さて、真田くんはどう反応するだろう。

「実はね、うちのウサギ、ニンジン食べないんだ。なんでなのかは分かんないんだけど、嫌いらしいんだよ」

「うそ、意外。てっきりウサギはみんなニンジンが好きだと思ってたよ。そんなウサギも居るんだ」

ウサギといえばニンジンを好むという印象が圧倒的に強かったので、私は驚いた。そして、紹介した意味、とりわけニンジン栽培の必要性がなくなってしまい、少し残念な気分になった。

「君のウサギ、珍しいね。じゃあ、他にウサギが食べる野菜といえばレタスとかキャベツか。どうだろう? その二つも学校菜園で作れるよ」

「たまには食べますけど…。申し訳ないんですが、結論をいっちゃいますけど、うちのウサギ、基本リンゴしか食べない偏食家なんです」

申し訳なさそうに真田君は言った。それに反して、坂上先輩は好奇を含んだ笑みを浮かべた。

「そんなウサギがいるのか。…さすがにリンゴの木は作れないなぁ。リンゴしか食べない理由って分かってるのか? 例えば、最初に食べたニンジンが腐ってたとか」

「流石に、腐ったニンジンを与えるほど酷い飼い主ではないですよ。数年間一緒に暮らしてきたんですけど、未だに良く分からないんですよね…、って先輩、話聞いてます?」

真田君をよそに、先輩は中庭に目を向けていた。再びこちらに向き直り、頭を掻きながら謝罪する。

「ああ。わりぃ、わりぃ。面白いウサギも居るもんだな」

注意散漫な先輩に、私は、不快感と不信感を少し覚えた。

「そういえば、真田くんのウサギってなんていう種類なの? 普通のウサギ?」

「ネザーランド・ドワーフ」

「ネザー…何?」

「ネザーランド・ドワーフ。ピーターラビットのモデルって言えば分かる?」

「あーあれか」

先輩は分かったらしく、パチンと指を鳴らした。しかし、私は頭の中で薄茶色のウサギを浮かべるのが精一杯だ。確か、ピーターラビットが絵本って事は覚えてるんだけど。

「子供向けの絵本だったよね? えっと、どんな感じのだっけ?」

「女子なのに知らないって珍しいね。結構ちっちゃめで、こげ茶色っぽい体毛で、黒目の」

「あー。なんとなくイメージ出来た」

「今度写真持ってきて見せてあげるよ…ってあれ、先輩聞いてます?」

またしても先輩は私達の話をから意識を遠のかせ、中庭のほうに目を向けていた。

「先輩ひどいですよ、また話すっぽかすなんて」

「悪い。ちょっと気になってな」

そう言いながら、先輩は窓の方を見た。

「気になって?」

私達も中庭のほうに目を向ける。窓からは、いくつかの草花と樹木が整備されて植えられた花壇と、その奥には反対側の校舎が夕日に照らし出されているのみで、いたって不自然なところは無く見える。

「話をあいまいに聞いてしまっているのは申し訳ない。ここは一時中断して、どういうことか話すとするよ。そこの窓際に、キュウリなんだが、苗が置いてあるのは分かるよな?」

窓のアルミ格子の下の少し飛び出た部分には、まだ小さな芽の苗がちょこん、と置かれていた。

「実は、その苗のことで、窓の外から目を離せない理由があるんだ」

「理由…、ですか」

先輩は、改めて椅子に座り直し、着き出した両手に顎を乗せ、口を開いた。

「ある人が現れることを待っているんだ」


Side-Rain 気分転換と入部届 その3に続きます。

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