ライケン抱道
適当に夕飯でも食べていくと言いはしたが、実のところあまり食欲はない。
理由は単純だし大方察しがついているだろうと思う。
コーラの飲みすぎだよ。
大体一・五リットルのコーラの熱量は、
成人女性の一日の摂取熱量目安の40%とほぼ同等だ。
熱量換算でいけば、夕飯抜きでもやや制限過多だろうね。
「ところで、左後ろのキミは一体どちら様で?」
振り向きざま声を掛ける。見たところ十代後半くらいの若い男だ。
「人を尾けるなら、底の硬い靴は履いちゃダメだよ、
特にこんなセメント地の上では。
音が響いてしょうがないじゃないか。誰からの依頼かい?」
そこまで言うと男は目に見えて狼狽した様子だった。
そして一度うつ向いたあと私に再び視線を向けるや否や、
いきなり私の手首を掴み、すぐそばの小路に引っ張り込んだ。
「痛いじゃないか。女性はもっと丁重に扱うべきだよ、まったく。」
「うるさい!黙れ!黙らないとこうだぞ。」
そう言って男はナイフを取り出し私の目の前に掲げた。
見るからに焦っていて少し滑稽でもある。
「黙れもなにも叫び声一つあげてないじゃないか。
どうしろと言うんだい?」
「いいから黙れッ、何も喋るんじゃない!」
私は気だるげな表情で両手を上にあげた。
彼の怒鳴り声の方がよほど周りに聞こえるとは思うんだけどね。