シンテイ決間
目の前に横たわる男の肉体。
既にその息は絶えかけている。
まぁ、あれほど精力を吸い付くしたのだから、
当然と言えば当然でもある。
しかし、死の淵にいるにも関わらず男の表情はどこか幸せそうだ。
「まったく、君は男の欲求を、見事に体現したとも言えるね。
ある意味、とても男らしい?けど。
どうせなら、他の事にそれを生かすべきだったよ。
もっと違う方法があったんじゃないかい?」
男が聞いている筈がないのは分かっていたけれど、私はそう呟いた。
大体察しがついていると思うけど、何があったか知りたい人は
18歳以上に限り、Xの方を見てくれると良い。
とは言っても、自分自身の痴態を紹介するのはやはり気が引ける。
出来れば見ないでくれると嬉しい。
改めて男に目をやる。彼の印象としては、やっぱり荒っぽさが一番かな。
いろいろ鑑みるに、よほど性欲旺盛なんだろうね。
脳が理性と本能の配分を間違えちゃったのかなぁ、それもかなりの割合で。
モノのサイズとしてはそこそこだけど、持久力に問題アリ。
いや、例え少しくらい早くても、回数がこなせれば良いと思うんだけど、
そこも難ありって感じ。
何だかな、性欲と下半身が比例してないんじゃない?
技術も中の下クラス、何と言うかアレだね、AV脳?かな。
力み過ぎ、責めるポイントズレ過ぎ、あとうるさい。
余計なことせずに、黙って前後運動しといた方が良いと思うんだけどね。
後半はあっちが精を搾り尽くされてもうマグロもマグロ、
冷凍状態完璧って感じだった‐。
むぅ、えっと、比べる対象がおかしいかも知れないけれど、
やっぱりKにかなう男は、私が今まで会った中ではいない。
というかダントツで彼が最高だ。
彼は憎らしいほど女の転がし方を心得ているといって良い。
私もそんなに弱い方ではない、むしろ強いと自負しているのだけど、
どうしても彼の前では、女として嬌声をあげてしまう自分がいる。
情けないとは思うが、その抗う事が出来ない状況を
受け入れている私が存在する事も事実だ。
彼が現れる前は、どちらかというと私がリードするのが専らだった。
それは彼以外の男に対しては今も変わりない。しかし、
エスコートされる愉悦、リードされる快感も初めて味わってみると
中々良いものだと感じた。もちろん彼以外ではありえないが。
何だかこんな事ばかり書いていると、
いかにもわたしがKに惚れ込んでいる様に感じてきてしまった。
まぁ多分事実なんだろうけど、
それを素直に認めるほどには達していないのかな。
今の関係は、ビジネスパートナーと
緩い彼氏彼女関係が混ざった様なものだ。
お互いに束縛はしないが相手からの要件には適確に素早く応じる。
そして個人的な用件にも可能な限り応える。
だけどお互いに相手の負担になるような事はしない。こんな感じかな。
正直、今の関係がベストなのかどうかも分からないが、
そうでないとの確信もない。
それより何より、向こう側のアクションが全く不明だから、
迂闊に現状変更を試みる事が出来ないというのもある事には違いない。
現状にこれといった不満を抱いているわけではないのだから、
リスクを冒して変更する必要はないとの考えもある。
要は怖いんだろうね、失うのが。
だから私は、Kに惚れ込んでいると言う事を
素直に認めざるを得ないほど、その気持ちが顕著になるまで、
リスクを回避し続けてきた。
だが私は、どうも近いうちにこの状況を変える事になるだろう
という予感がひしひしと足下に迫り来るのを感じていた。
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