5:東の海岸-2
「いたいた。」
俺の目の前を蟹が一匹で歩いている。
ちなみにこの東の海岸に居る蟹は蟹は蟹でもシオマネキの様に片方の鋏だけ(この蟹は右手)が大きいタイプの蟹である。
で、この蟹なのだが、こうして目の前で見ているとやはりその甲殻は非常に堅そうであり、初期武器ではどうやっても切る事は出来なさそうである。
「さて、まずは様子見からだな。」
俺はゆっくりと蟹の後ろから近付いていく。そして蟹が気づいて振り向いた瞬間にメイスを抜いてそのままの勢いで殴りつける。
が、先程のフライフィッシュと違ってノックバックはせず、手に伝わってくる感覚はまるで岩でも叩いたような感じである。
「っつ!」
俺は反転しつつ振るわれる右手の鋏をメイスで受け止める。
その衝撃で危うくメイスを持って行かれそうになるが、≪握力強化≫のおかげなのか偶然なのかは分からないが、何とか持っていかれずに済む。
「なんつーパワー…って危な!」
続けて蟹は右手の鋏を3度突き出して攻撃してくるが、俺は先程と同じようにメイスでその攻撃を受け止める。が、一撃だけ受け止められずに体の端に掠ってしまう。
すると体感だがHPゲージが5%程減ったような気がしたため、俺は慌てて距離を取る。
「掠っただけで5%か。直撃すると拙いな。」
距離を取った俺を蟹は泡を吹きつつ怒りに満ちているっぽい目で睨んでくる。
さて、ここまでで蟹が取った攻撃のモーションは二つ。
一つは反転からの鋏攻撃。もう一つは正面に向かっての連続突きだし攻撃。ただ、この二つで終わりだとは思えないし、警戒はまだ保つべきだろう。
そして、この二つの攻撃に対する対抗策は……
「さて、折角だし。色々試してみるか。」
俺は一気に蟹に駆け寄っていく。
蟹はそんな俺の動きを見て、右手の大きな鋏を後ろに引き、大きく広げる。そして、鋏の射程に俺が入り込んだところで鋏を閉じながら勢いよく振りかかってくる。
「ふっ!」
それに対して俺は左に飛んでわき腹にかすらせ、HPゲージを10%程減らしつつも回避、続けて左手で蟹の鋏の付け根を掴み、鋏を開けないようにする。
で、ここで少し思った。この蟹は食えるのだろうかと。仮に食えるとしたらどんな味がするのだろうと。
「いただきます。」
まあ、物は試しである。序盤の魔物だし、≪鉄の胃袋≫もあるから死ぬことはないだろうと俺は勢いよく蟹の関節に噛みつき、暴れる蟹の大きいほうの鋏は≪掴み≫と≪握力強化≫で抑え込み、チクチクと攻撃を仕掛けてくる小さいほうの鋏は≪噛みつき≫を行う合間合間にメイスで殴りつけていく。
というか、堅いよ!
まるで石か何かを食べている気分だ!
でも≪噛みつき≫と≪鉄の胃袋≫があるから無理矢理でも食べる。それに少しだけ歯が甲殻を突き抜けて身を食べれたのか口の中に蟹独特の旨味が広がっていくのも分かる。
うまい。毒も無さそうだ。というか滾ってきた。
「!?」
俺は蟹に向けて歪な笑みを浮かべる。蟹はそんな俺に嫌な何かを感じたのか先ほどよりも強い力で暴れようとする。が、しっかりと抑える場所は抑えてあるし、抑え切れなくなりそうになったところで口が空いていれば噛みつき、咀嚼中ならメイスでボコボコに殴りつけて抵抗をさせないようにする。
「いいいぃぃぃやっほおおおぉぉぉ!!」
早い話がマウントポジをとって、その身に食らいついては殴りつけ、殴りつけては食らいつく。その繰り返しだ。というか、この上なくダーティな戦い方をしている気がするが、それでこそのバーバリアンプレイだと思う。
「ーーー………」
「ん?落ちたか。」
やがて何回殴って何回食らいついたかは分からないが、蟹が抵抗をやめる。どうやらHPが無くなったらしい。
「じゃ、剥ぎ取るか。」
俺はメイスをしまってナイフを取り出して剥ぎ取りをする。
「何が出たかなー?」
そして、蟹の死体が消えたところで剥ぎ取ったアイテムを確認する。
△△△△△
オオシオマネキの甲殻 レア度:1 重量:1
オオシオマネキから剥ぎ取れる甲殻。堅さと強度を生かす形で用いられることが多い。
▽▽▽▽▽
なるほど。オオシオマネキという名前だったのか。確かにシオマネキみたいに片方の鋏だけ大きかったしな。
後、またレア度1か。別に構わないけど。肉美味しかったし。何となくだけどメイスの強化に使えそうな素材の気もするし。
でだ。とりあえず東の海岸に出現する魔物を二種類倒し、そのどちらも問題なく倒せることは分かった。となれば、ユフに言われた通りまずは両方から技能石を回収するべきだろう。
俺は二種類の魔物の効率のいい倒し方を考える。
まずフライフィッシュは耐久力がないから速攻を決めるといい、加えてこちらの攻撃に対する動きからして体の向きと水平になるように攻撃すれば避けられずに済む事だろう。
オオシオマネキに関しては安全策を取るならカウンターのように放たれる反転からの攻撃に気をつけつつヒットアンドアウェイで攻めるのが良さそうだが、これだと時間がかかるので、大きいほうの鋏を≪掴み≫で抑えつつ乱打する方が時間とスキルのレベル上げとしては良さそうである。
「ま、何はともあれ、狩れるだけ狩らせてもらうか。」
俺はそう呟き、自らの気分が高揚しつつあるのを感じつつも新たな獲物を探し始めた。
カニうまうま