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「ふぅー……」
俺は頭の中で『電子の女帝』の話を精査していく。
はっきり言うが『電子の女帝』は決して信頼できる相手ではない。そもそも『D』と『電子の女帝』の間にどのような因縁があるかも俺には分からないのだ。
最悪、実は今さっき言った『D』の能力は全て『電子の女帝』の能力であり、『電子の女帝』が本当は世界を滅ぼそうとしていて、『D』がそれを阻止しようとする側の存在。という考え方だって出来るのだから。
「話を続けましょうか?」
「ああ、よろしく頼む。」
ただいずれにしてもまだ真偽を判断できるほどの情報は無い。もう少し『電子の女帝』から情報を引き出さなければ俺の取るべき行動は分からない。
「さて、この先はまず何処から話すべきでしょうかね……?」
『電子の女帝』が悩むような素振りを見せる。
「なら、何で俺含めHASOのプレイヤーを巻き込んだかの理由とお前自身の目的を教えてくれ。さっきまでの話を聞く限りではお前より強い『D』を俺たちが何とかできるとは思えない。だが、実際には俺たちを巻き込んだのだからその辺りの理由はしっかりあるんだろう?」
さっきまでの話は言ってしまえばただ知識を授けられただけの話だ。
そこには『電子の女帝』自身の思惑は一切絡んできていない。
だから情報の真偽を判断するためにもまずはそれを知らなければならないと俺は思う。
「そうですね。ではまずはそこから。」
そう言うと『電子の女帝』は一回手を叩く。
すると周囲を飛び交っていたビー玉やテーブルの上に転がっていたぬいぐるみと人形が跡形も無く消える。
「まず私の目的ですが、それは『D』の完全抹殺となります。理由については話せませんが。」
「理由は別に言わなくていいよ。どうせ話してもらえると思ってなかったしな。それよりも完全抹殺と言う事はだ。」
「ええそうです。無数に存在している『D』の複製も含めて全て倒します。」
全部倒す……ね。相手がいくら居るのかとかは把握してんのかねぇ。
「心配なさらずとも把握していますし、現在はとある空間に全個体逃げ出されない様に隔離もしてあります。少々予定よりも数が多かったので一時逃げられそうにもなりましたが。」
隔離……もしかしなくても、あの黒い月が浮かんでたあの場所か。
となると何で俺はあのタイミングで入れたんだろうな?それに今の俺が何でゲームの中と同じ格好をしているのかも謎だし、そもそも俺だけこうして呼ばれた理由も分からないな。後で聞いておくか。
「Hunter and Smith Onlineと言うゲームを利用したのはとにかく数が多い彼女に対応するためにはそれ相応の人数が必要だったことに加え、腐っても神である『D』を討伐出来るほどの実力にまで一般人を育成する手間をゲームと言う形で行えるからです。ゲームの中と同じ肉体に装備を作りだしてアバターにし、そこにヤタさんたちの意識を繋ぐくらいは私にとっては朝飯前ですからね。」
なるほどな。一応の筋は……通っていると思う。
尤もそうなると今度は『電子の女帝』が俺の世界で起こしていた他の事件はどうなるんだとか、この部屋に来る途中の通路と遺跡の通路が酷似している理由とかまだまだ分からない部分の方が多いんだが……
「その辺りは私の能力にも繋がりますので詳しくは話せません。ただ、HASOと言うゲームは私にとっては人材もその育成も、『D』の捕獲にも、とにかくあらゆる部分で都合がよかったという事です。」
「都合がよかった……ね。」
「ええ、都合がよかったんです。」
まあ、この場ではそう言う事にしておくとしよう。
実際には推測じゃなくて確実に作成時点で『電子の女帝』か『電子の女帝』に関わりのある人間が製作に携わっていたんだろうがな。でないと都合がよすぎる。
「で、そうなれば最終イベントってのはやっぱり『D』との戦いか。」
「ええ、ただしヤタさん以外にはゲームの一環としか思われていないでしょうし、私としてもそう思われていた方が都合がいいですからそうさせてもらいますけど。」
無自覚の兵隊ね。何ともエゲつない作戦だな。正に兵を指揮する“女帝”って事か。
ただ、俺の今入っているこの体がアバターってことは例え死んだとしても現実の身体にはなんら影響はないはずだが、仮に何かの拍子で戦っている相手が本当の生物だとバレたら確実にトラウマになる人間も出て来るぞ。
「心配しなくてもそんなヘマはしませんよ。そもそも本当ならヤタさんにも無自覚の兵隊の一人として動いてもらうつもりでしたし。」
「どういう意味だ?」
俺は片方の眉を吊り上げながら『電子の女帝』を問いただす。
「そのままの意味です。ただ、ヤタさんは『D』に何度も接触してしまったために幻想と現実の境界が薄くなっていますし。説明しない方が危険だと判断してこの場を設けたんです。」
「薄くなっている……?」
意味が分からない。アバターは何処までいってもアバターであり、仮に木端微塵にされたって現実には何ら影響を及ぼさないはずだ。
「普通はヤタさんが今考えている通りですし、今ここでヤタさんの首が刎ねられても命は助かるでしょう。ですが、ヤタさんはゲーム中に何度もゲームでは有り得ない様な幻痛を感じていましたよね。そして人には肉体が死んでから精神が死ぬパターンだけでなく、精神が死んだために肉体が死ぬパターンも有るんです。」
「それで……?」
俺は冷や汗を内心で流しながら『電子の女帝』に続きを話すように促す。
「勿論、それを防止するためのパッチはヤタさんに一度渡しましたが、効果は無し。おまけにお母様曰く今のヤタさんは『D』が世界に干渉し始めるための取っ掛かりとして認識されているので、仮に異世界に逃げてもその異世界を征服するための橋頭堡として精神を壊されてから『D』にとって都合のいいように身体を操られるだけだそうです。」
「つまりこういう事か……助かりたければ『D』を滅ぼせと。」
俺は『電子の女帝』を睨み付ける様な形でそう言う。
それに対して『電子の女帝』は僅かに目を逸らす事も無ければ、瞳孔も動かさずに真正面から俺に言い返す。
「ええそうです。少々いくつかの事情を飛ばして説明することになりましたが、他の方ならともかく貴方には既に選択肢はありません。」
「くっ……」
俺は歯ぎしりをしつつ『電子の女帝』を睨み付ける。
「神仕烏さん。貴方が貴方のまま貴方の現実に帰りたいのなら貴方は『D』に打ち勝ち滅ぼすしかないのですよ。」
そして『電子の女帝』はまるで裁判官が死刑の宣告を下すように俺に対してそう言った。
難しい話を専門用語とか使わずに簡単な話に出来る人は凄いと思う。
01/16誤字訂正




