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Hunter and Smith Online  作者: 栗木下
第Ⅹ章『電子の女帝』と『D』

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243:???-3

「まっ、とりあえずこちらへどうぞ。長い話になるでしょうし。」

「そうだな。そうさせてもらおう。」

 俺は『電子の女帝』の言葉に頷いてテーブルに近づくと荒っぽく席に着く。

 そして席に着くと同時に何処からともなくメイド服の女性(ただし目の部分にはバイザーが有り、額からは一本の角が真っ直ぐに生えている)が現れて、お茶と茶菓子を置いて何処かに消え去る。

 ちなみに茶菓子はあんこが混ぜられたラスクで、お茶の方は紅茶のカップに入っているにも拘らず臭いから察するに昆布茶系統の何かである。

 訳が分からん。


「コンプレ茶なんて珍しいですね。と、まずはヤタさん。」

「何だ?」

 『電子の女帝』が茶を無駄に優雅な所作で、しかしごく自然な様子で飲みながら問いかけてくる。

 この飲み方から察するにやはり『電子の女帝』はそれ相応にこの手のマナーなどに詳しい立場に居ると見るべきなのだろう。


「ヤタさんは“並行世界”と“異世界”と言われてその差は分かりますか?」

「差って言われても……どっちも今居る世界とは別世界と言う認識程度しかないが?」

 俺はラスクを食べながら『電子の女帝』の問いに答える。

 本当は小説とか漫画とかそう言うフィクションの中限定の話だとは思っているが、こうして今俺が居る場所は明らかに俺にとっての現実(リアル)とは別の世界だしな。

 今更存在しないだなんていう気にはなれない。

 ついでに言うなら電脳世界とかも考えようによってはその辺の括りに含まれるような気もするが、実際は微妙なラインだと思う。アレは一種の幻覚の様な物だし。


「了解です。そう言う事ならその辺りから話すべきですね。」

 『電子の女帝』は何処からともなく人形の様な物をいくつか取り出す。


「一先ず今回は出来る限り分かり易く説明するために世界を生物に例えて話すとしましょう。ただ、これはあくまでも例えなので、実際の物とはズレていますし。私たちの捉え方で見た場合の話なのでそこはお忘れなく。」

 そう言って注意事項を伝えた上で『電子の女帝』の説明が始まる。


「まず、世界と言うものを一つの細胞と捉えてください。」

 人形の中から教科書によく載っているような細胞の模式図の様な形のぬいぐるみを出す。


「一つの世界を一つの細胞と捉えた場合、並行世界と言うのは同じ生物の別な細胞だと捉えればいいでしょう。そして異世界と言うのは自分が所属しているのと別の生物に含まれている細胞だと考えれば分かり易いです。」

 そう言って『電子の女帝』は先程一つぬいぐるみを取り出した人形から別のぬいぐるみを取り出したり、別の人形からもぬいぐるみを取り出す。

 うーん。同じ人形から取り出されたのが並行世界で、別の人形から取り出されたのが異世界だと考えればいいのかな?


「と言うかだ。生物に例えるなら体細胞と神経細胞なんかは結構差が有ると思うんだが……」

「それは確かにそうでしょうね。」

 『電子の女帝』は俺の言葉に尤もな疑問ですねと言う顔で頷く。


「ただ、その程度の差ならライトノベルでもよくあるじゃないですか。現代社会を舞台にした超能力物とか伝奇物とか、私の様な立場の存在からすればそう言う事なんです。」

「むう。」

 それはまあ、確かにそうなのかもしれない。

 確かにどれも根幹になる部分は同じであると言えそうだし。


「ちなみに今回の話にはあまり関係ありませんが、植物の株分けの様に元々は同じ世界だったものでも差異が大きくなりすぎると異世界になったりもします。」

 そう言って『電子の女帝』は人形を二つに分裂させる。

 まあ、確かに今回の話には関係無さそうではあるな。


「さて、並行世界と異世界の定義が終わったところであの少女についての説明を始めましょうか。」

 『電子の女帝』は今までの人形やぬいぐるみとは別に小さなビー玉の様な物を取り出し、空中で指も触れずにくるくると回す。


「まずあの少女は私たちの定義では“神”の一種……いえ、一柱と言うべき存在です。」

「神……ね。」

 また随分とスケールのデカい話になるな。

 神とか完全にファンタジーの領域だと思うんだが。


「ヤタさんにとってはそうかもしれませんが、私たちの定義だと神と言うのはとにかく方法は問いませんから個人の能力で異世界間を自由に行き来する能力を所有しているだけの存在に過ぎないのですよ。その行き来する能力に付随する能力のおかげで大抵の神は尋常ならざる力を持っていますが。ちなみに神様を先程の生物での例えで表すなら微生物やウィルスと言ったところですかね。神はそれ単体で最小スケールの世界でもありますから。」

「何と言うか世界中の宗教家に怒られそうな例えだな……」

 そう言って『電子の女帝』はビー玉の様な物を人形の間で行き来させる。

 恐らくはあのビー玉の様な物が神なのだろう。

 と言うかだ。この定義だともしかしなくても……


「ええ、私もここで最初にヤタさんが会ったイヴ姉さんもこの定義だと分類上は神になります。と言っても私は神の中でも最底辺に属するような実力しかありませんし、イヴ姉さんは並の神程度なら笑いながら嬲り殺しに出来る様な化け物ですから、一言で神と言ってもその実態は様々なんです。」

「……。」

 あの女性そんなにヤバい存在だったのか……。

 ん?てかそうなるとあの例の少女ってのは……?


「話がズレましたね。あの少女……と言うか一々あの少女と呼ぶのも面倒なので仮称『D』と呼んでおきましょうか。『D』は単純な実力で言えば私よりも上位に当たりますが、イヴ姉さんやお母様に比べれば数段実力は劣ります。」

「それでも俺から見れば十分に人知を超えているとしか思えないんだがな……。」

 『電子の女帝』の言葉に俺は苦笑いをしつつ茶を飲む。

 正直に言って神様でもどうしようもない相手を俺を含め普通の人間にどうこう出来るとは思えないんだが。

 てか、この昆布茶美味いな。ちょっと癖があるけどその癖が中毒になりそうな感じでいい。


「そこの説明はまた後でします。その前にまずは『D』の考え方と能力について説明してしまいましょう。」

 『電子の女帝』がいつの間にか無数に飛び交っているビー玉の内の一個を掴んで砕く。

 するとあの少女……『D』が封印されていると思われる赤い水晶が映し出された半透明のウィンドウが空中に展開される。


「『D』はまずどのような手段を用いても自分が生き残る事を優先する考え方をしています。そしてその考え方に基づいて彼女が取ったのが自分自身を複製すると言う方法であり、そのために彼女は様々な方法を用いて世界に入り込む能力を持っています。」

 俺の前で一つのビー玉が一つの世界を現したぬいぐるみの中に吸い込まれていく。


「ただ、ここで先程“神”をウィルスだと例えた理由が出てきます。と言うのも彼女が自分を複製する際にはその時自分が居る世界ごと複製する必要があり、これはウィルスが自分を増やすと同じ原理……つまりは世界を自分にとって都合のいい様に動かして複製するからです。」

 ビー玉を中に取り込んだぬいぐるみが中のビー玉ごと二つに分裂する。

 ふむ。これでビー玉も世界も複製されたわけか。


「問題はここからです。本来ならば世界が複製されるにはそれ相応の理由……ひいてはエネルギーが必要になります。ですが『D』はこれを無理やり行ってしまうため、『D』に感染した世界はどこからかエネルギーを得なければいけません。」

「おい……それってまさか……」

 『電子の女帝』の言葉に俺の脳裏では最悪な予想が駆け巡る。


「そのまさかです。」

 『電子の女帝』の言葉と共にビー玉を取り込んだぬいぐるみがゆっくりと動きだし……


「『D』はそのエネルギーを他の世界に求め、他の世界を食い潰すことでエネルギーを確保します。」

 別のビー玉を取り込んでいないぬいぐるみを何個も取り込んだ後にビー玉ごと再び分裂する。


「まるでガン細胞だな……」

「その例えで正解ですが、ガン細胞よりも遥かに性質が悪いですよ。なにせ最初に取りついた世界に連なる全ての並行世界を喰らい尽くすまで『D』は止まらないだけでなく、全ての並行世界を喰らったら次の異世界に飛ぶために必要なエネルギーは自分を分裂させるのに使った世界を利用しますから。」

 俺の前でビー玉入りのぬいぐるみが次々とビー玉の入っていないぬいぐるみを食べ、人形の中身であるぬいぐるみが全てビー玉入りになったところでいくつものビー玉が勢いよく飛び出してくると共にぬいぐるみが跡形も無く燃え尽きる。

 詰まる所これが……


「これが『D』による世界の滅びです。」


「……。」

 俺は目の前の光景に思わず息を呑む。

 どこまでが真実であり、どこまでが虚偽であるかは分からないが、仮に全てが事実だとすれば……あの少女……『D』は決して放置できない存在という事になる。


「さて、『D』の考え方を説明した所で少し休憩を挟みましょうか。ヤタさんにも落ち着いて考える時間が必要でしょうから。」

 そう言って思考がこんがらがっている俺を余所に『電子の女帝』は茶を一口含んだ。

今回の話がよく分からない人は三回回ってワン……ではなくSFって凄いね!という事で流しておいてください。

作者にはこれ以上分かり易く説明するとか無理です……


なお、今回の話基準で行けば前作は今作の世界から派生した異世界となります。


01/15誤字訂正

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