224:VS樹巨人-1
平常運行なので2話更新。
時刻が大体夜になったころ。
火山が噴火して地面が揺れる度に色が変わるボスゲートを俺たち6人は紫の状態でくぐった。
ボスゲートの先に広がった今回のインスタントエリアは樹海の中でも不自然に開けた土地で、倒木の一つすらない平原だった。
ただ、周囲は壁代わりの木々に一部の隙も無くしっかりと囲まれている。
ドオオォォン……
遠くで火山が噴火するような音が聞こえて軽く地面が揺れる。
ドオオォォン……!
だが、普段ならすぐに治まるはずの揺れが今回は治まらずに定期的に鳴り響き続ける。
ドオオォォン!
それどころか徐々に音の出所は近くなり、揺れも立っていられない程に大きくなる。
「……。」
そして俺たちの身体の上に影がかかり、俺たちは頭上を見上げる。
そこに居たのは高さ30mは下らないであろう巨大な樹。だが、その樹はまるで人の様に腕があり、脚があり、頭があった。
直前の振動は恐らくコイツが歩いてきたためだろう。
ピシッ……
樹の頭の部分にヒビが走り、それと同時にヒビが走った場所の近くの洞に赤い光が宿る。
「ーーーーーーーーーーーーーー!!」
そして巨大な樹の人間……樹巨人の頭のヒビが口の様に開き、最早振動としか感じられない声を張り上げた瞬間に戦いが始まった。
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「ーーーーーーーーーー!!」
「っつ!全員退避!」
戦闘開始と同時に人の耳では聞き取れないほどの重低音の声を発しながらプレイヤーが行動できる範囲外に居た樹巨人がゆっくりと脚を振り上げる。
それと同時に樹巨人が何をするかを察した俺とフェルミオは素早く駆け出し、それ以外の面々もミカヅキの指示を受けて急いで逃げ始める。
「くうっ……!?」
「キャ……」
そして全員が逃げ切ったところを樹巨人の脚が轟音と共に踏みつける。
直接踏みつけられたメンバーは居ない。
だが、その莫大な質量故にか踏みつけた部分以外でも地面が捲れあがって凶器の様に鋭く尖った面を表に出し、逃げるのが若干遅れた上に移動補助のスキルを持たないアステロイドとハレーと二人は踏みつけと同時に発生した振動で動けなくなっていた。
「……。」
「【ロングエッジ】!」
「んミャア!」
樹巨人は踏みつけを行ったところで動きを止めていた。どうやら巨大な分だけ普段の動きは鈍いらしく、動きが止まっている間に捲れあがった地面の間を縫ってハレーとアステロイドが逃げる。
そこで入れ替わりに俺とフェルミオは樹巨人の脚に接近、同時に脚へと攻撃を仕掛ける。
「……。」
「堅っ!?」
「ニャ!?」
だが、脚を狙って放たれた俺とフェルミオの攻撃は樹巨人の堅い表皮部分で止められてしまい、僅かにヒビのようなものは入ったが明確なダメージを与えた印象はしない。
そして俺とフェルミオがそれに戸惑っている間に樹巨人は脚を上げて元あった場所まで戻してしまう。
「これは厄介ですね……。」
ミカヅキの言葉に全員が頷く。
なぜなら樹巨人が普段居るのはプレイヤーが行けないエリア外の場所であり、樹巨人は攻撃の際に体の一部だけをこちらに出してくる。
となれば当然の帰結として一部の遠距離攻撃を除けばこちらの攻撃を当てる機会は樹巨人の攻撃中かその前後に限定されることになる。
「撃ちましょうか?」
「使うかニャ?」
ハレーが武器の弩を、フェルミオがキャプテン・ハッソウの珠が付いた鍵付きの首輪をミカヅキに見せる。
両者ともインスタントエリア外に居る樹巨人まで届くであろう遠距離攻撃が可能な方法を所有しているので、今の質問はそれで攻撃するかと言う問いかけだろう。
だが、ミカヅキは頭を横に振ってそれを拒否する。
「いえ、あれだけの巨体です。矢鱈滅多に撃ち込んでも効果は薄いでしょう。ヤタ、ブルースカイ。」
「何だ?」
「……。」
再び樹巨人がゆっくりと動き始める中でミカヅキが俺とブルースカイさんに問いかける。
「あれほどの巨大生物に対する常套手段となると何がありますか?」
「常套手段ね……。」
俺はミカヅキの質問に対してすぐさま今までのゲームと戦いの経験からあれほどの巨大生物に対する対抗手段を考える。
そして俺がその答えを導き出す前にブルースカイさんが機械的に口を開く。
「対人型巨大生物の基本は脚部の破壊による転倒から急所攻撃。もしくは体内に侵入してから脆い部分を突く方法がある。いずれにしても弱点への攻撃以外はよほどの数を重ねなければ効果が薄い。」
「「「……。」」」
で、異常なまでに饒舌なブルースカイさんに一瞬俺、ハレー、フェルミオの三人が停止する。
「ーーーーーーーーーーー!!」
「来ます!攻撃後に残った部位に全力で攻撃してまずは弱点を探りますよ!」
「「「ハッ!」」」
が、樹巨人の咆哮と右腕を振り上げた姿。それにミカヅキの叱咤で思考能力を復帰させた俺たちはすぐさま回避行動を開始する。
「ーーーーーーー!!」
そしてインスタントエリアのおよそ半分を薙ぎ払う様に振るわれる樹巨人の手。
モーションが大きいために回避は容易だが、周囲に巻き起こる風圧から考えると全プレイヤーの中でも上位の防御能力を持つアステロイドでも直撃すれば厳しい威力を持っていることは容易に想像がつく。
だが、端まで薙ぎ払ったところで一度樹巨人の動きが止まり、ゆっくりと引き戻し始める。
この動きから察するにやはりカウンターを狙って攻撃するべき相手らしい。
「全員攻撃!」
そしてミカヅキの号令と共に樹巨人の腕に向かって威力よりも手数を重視した攻撃を俺たちは当てる。
が、やはりと言うべきか何処を攻撃しても効果は薄く、そうこうしている内に樹巨人の腕は引き戻されてしまう。
「さてどうしますか……」
「今は弱点を探してひたすら攻撃するしかないニャ。」
「ハレちゃんは抑え目でー」
「分かってます。チャンスが来るまでは節約モードです。」
「……。」
「まあ、殴り続けるしかないか。」
ここで一度樹巨人の次の狙いを絞らせる意味も含めて集合し、先程の攻撃での成果と状態をそれぞれに伝え合う。
その結果として出された結論は関節部なら若干ダメージが通りやすいという事だった。
そして、次の踏みつけのタイミングで祝福も使って一気に攻める事を打ち合せておく。
「ーーーーーーーーーーーー!!」
「「「げっ……。」」」
「あらぁ。」
と、ここで樹巨人が動き出す。
だが再び動き出した樹巨人の行動はインスタントエリアの上に身を乗り出して体を震わせ、体に実った大量の果実を降らせると言う新たな攻撃パターンだった。
大きければ強い!




