22:南の草原-2
ビッグラットとグリーンスライムを狩りつつ俺は南の草原を進み、夕方ごろにはセーフティポイントに俺は到着していた。
南の草原のセーフティポイントは四方の地面から青い岩が生えており、セーフティポイントと外の境界として青い光の線が引かれている。
昨日ユフに聞いた話では、このセーフティポイントから更に南に進むと、南の草原のボスエリアにPTまたは同盟ごとに突入できるそうだ。
恐らくだが今日も昨日と同じように攻略組がボスと戦っているだろう。決着は……判断基準が無いから無視する。
「さて休むか。」
俺はセーフティポイントの中に入り、隅の方で座り込んで休憩をして消耗したHPとBPを回復させつつそう呟く。
ポーーーーーーーーーーン!
と、そんな事を考えていたら突然システムウィンドウが音と共に開かれた。
「何だ?」
俺は画面を弄って音の原因を探る。
するとどうやらメッセージが誰かから送信されていて、俺が非戦闘区域であるセーフティポイントに入ったことによって受信されたらしい。
まあ、戦闘中にメッセージとかが受信されても困るから当然の仕様と言えば当然の仕様だと思う。
俺はメッセージを開く。
『システムメッセージ
このメッセージはシステムプログラムによって現在HASO内に居る全プレイヤーに送られています。』
システムメッセージ?運営からだろうか?ただ干渉は出来ないと言っていたし、こんな数日で解除できるような甘い防衛プログラムを『電子の女帝』が組んでいるとも思えない。
となると、このメッセージの送信者は……
『初めましてプレイヤー諸君。私の名前は『電子の女帝』と言う。』
やっぱりか。
俺はメッセージを読み進めていく。
『今回は私の開発した新しいプログラムの被験者として諸君らとこのゲームを選ばせてもらった。ただ、このシステム。私が自分で言うのも何だが、出来が良すぎて普通の人間が解除するには年単位の時間がかかるプログラムになってしまい、このままでは被験者である君たちは中々に危うい事になってしまいそうである。
というわけで、特別サービスとして被験者諸君がゲーム内でボスを一種倒すごとにプログラムの警備を甘くするように設定しておいた。つまり諸君らがボスを倒すたびに現実が一歩近づいてくるわけだ。
うん。私は随分と優しいな。そういう訳なので、被験者諸君。早く現実に戻りたいのなら攻略を進めるといいよ。
ではまたメッセージが送られる機会があるまで御機嫌よう。』
なーにが優しいだ。全然優しくねえっつうの。
ただまあ、ここまで明確に言われた以上俺のやるべきことは定まったな。サービス開始直後の事態だからどこまでフィールドとボスが用意されているかは分からないがHASOの攻略を進める。ただそれだけだ。
と、ウィンドウを閉じようとした俺はメッセージに続きがあるのに気づく。
『追伸:このメッセージはボスが1種類討伐される際に送るよう仕込んでおいたものである。』
「……。」
そうだな。事前の情報や流れから考えるとあれだ。ユフたちは無事に南の草原のボスを倒した。そう言う事だろう。
どれぐらいの被害が出たかとか、ボスのドロップがどんなのだとかは俺の関知する所では無いので分からないが。
と、気が付いたらすっかり日は暮れて、周囲は闇で染め上げられ、何処からともなく狼の遠吠えの様な物が聞こえてくる。
「ま、それはともかく日が暮れたならここからが本番だな。」
俺はHP等が回復したのを確認すると立ち上がる。
さて、これから南の草原の夜間限定モンスターである狼を狩るわけなのだが、ここから村まで戻ろうとすると村に着くのは朝頃になる。
そして死んだ際のペナルティは一部アイテムのロストに、一定時間の間(1,2時間ほどらしい)最大HP,BP,SPが低下し、その間全身が倦怠感に包まれるというものである。
うん。どうせ今日は大した素材は剥ぎ取れてないしな。このままボスの所まで行ってもいい素材が出なかったら死に戻りするのも有りだろう。それでボスの情報が手に入るなら十分元は取れる。
それにHASOはPSが十分にあるならば準備が不十分でも戦闘は何とかなるゲームだとトップハント社の社長がインタビューで語っていたし、あわよくばボスといい勝負をするぐらいはできるかもしれない。
「というわけで、このまま南下で決定だな。」
俺はそう考えてセーフティポイントの外に出る。
すると、早速俺の≪嗅覚識別≫が俺に向かって駆け寄ってくる複数の匂いを感知する。というか、ビッグバットもそうだったが夜間限定モンスターはプレイヤーを感知する範囲が広いのだろうか?ビッグバットもセーフティポイントの外に出たらすぐに襲い掛かって来たしな。
「まっ、どちらにしてもこの数とやり合うなら使っておくか。【ディフェンスライズ】起動。」
俺はクラブメイスの祝福【ディフェンスライズ】をBPを一割ほど消費して起動し、防御力を気休め程度にだが上昇させる。
と、一番近くにいた狼が俺の下に到達し、走ってきた勢いそのままに噛みつこうとしてきたため、俺はクラブメイスで狼の頭を叩くことによって迎撃、地面に叩き伏せた所を左手で掴んで後続の狼たちに向かって投げつける。
「「キャイン!」」
さて、この時点で俺に向かってきている狼は全部で4匹。どうやら狼らしく集団で狩りをするモンスターらしい。
「ま、関係ないけどな。」
だが、集団戦は既にビッグバットで経験済みな上にあの時の方が状況は悪かった。
「とっとと狩りきってボスに挑ませてもらうぜ!」
「「!?」」
つまり、滾りもせずに≪掴み≫≪投擲≫≪噛みつき≫を生かした一方的な蹂躙プレイで終了である。
ちなみにボスの所に着くまでの剥ぎ取りの総計はエーシウルフの毛皮×4、獣の骨×2、エーシウルフの尻尾×1、グリーンスライムの体液×3、グリーンスライムの核×1だった。
ごっつあんです。
デスペナについては軽いか重いか意見が分かれそうですが、失うアイテム次第では相当の絶望感が味わえますし、デスペナを軽減するスキルも実はあったりするので、これぐらいでいいかなと思っています。




