196:王都ミナカタ-41
さて、外に出るのは良いが掲示板の炎上っぷりを考えるとそのまま行くのは得策ではないだろう。
と言うわけで効果があるかは分からないが今着ているウルグルプシリーズの防具はしまって、代わりに『イッシキ』で買った普段着を着用してからプライベートエリアの外に俺は出る。
「相変わらず賑わってんなぁ……」
で、神殿前の広場はいつも通りにうプレイヤーたちで賑わっている。
ただ、どことなく落ち着いていないと言うか苛立っている感じもする。気のせいかもしれんが。
「まあ、とりあえず急いで『イッシキ』に行くか。」
しかし俺が気にしてもしょうがない事だと判断して、俺はプレイヤー街の『イッシキ』に向かう事にした。
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「お邪魔しまーす。」
「ん、その声は!?」
『イッシキ』の中に入ると店の奥からガントレットのオッサンが慌てた様子で出てくる。
「ヤタであるか!」
「どうもです。」
「あら、本当に!?」
続けてアーマさんも出て来て二人とも俺に驚いた顔を見せる。
まあ、俺がすぐに『イッシキ』へ向かう事は知らせてないし普通はそういう反応だよな。
「で、素材を持って来てますけど……」
「奥で見せて頂戴。それと何人か私たちが信頼できるプレイヤーを呼ぶけどいい?」
「別に構わないです。」
疾しい所とかは別にないしな。
そして俺は二人に連れられて奥の部屋に案内され、そこで待つ事30分。
「ようやく全員集まったである。」
「おお、マジで戻って来てたんだな。」
「ヤタ!心配したんですよ!」
そう言ってガントレットのオッサンが部屋に入って来て、その後に何人かのプレイヤーが入ってくる……と言うかだ。入ってきたメンバーについて突っ込みたい人物が一人居る。
まず、軍曹とユフが入ってきたのは戦闘面での話し合いの為だろう。
ハレーは≪矢玉職人≫持ちでアステロイドはその付添い。
ミカヅキは今回の件で散々心配をかけていたようなのでこれも納得。フェルミオはその付添いだろう。
文屋さんは情報班のトップなので当然居るべきだ。
ホリラーは金属関係の専門家と言ってもいいし、( ゜д゜ )は食べ物関係の専門家だ。それに二人とも知り合いでもあるので居るのは別におかしくない。
そして名前は知らないがロトンキマイラ戦で一緒になった黒髪長髪の格闘家っぽい女性。
で、完全に俺が見知らぬ男性プレイヤーが一人居て、その男性は左右で髪も服も色が分かれた独特な格好をしている。
ただ、この男女に関してはガントレットのオッサンが呼んだという事で信頼はしても問題ないだろう。
問題は……
「何でお前が居る。」
「何の事でしょう?」
何で『電子の女帝』が居るのかという事だ。
俺は『電子の女帝』を睨み付けるがどこ吹く風と言った様子で『電子の女帝』は受け流す。
本音を言えばこの場で今すぐこの女の正体をぶちまけてしまいたいところだが、そんな事をしようとすれば一言目を発する暇も無く対策を取られるだろうから黙っておく。
「知り合いですか?」
「ええ、以前一緒に食事を。」
「へぇ……。」
『電子の女帝』貴様あああぁぁぁ!!
『電子の女帝』が投下した爆弾のせいでハレーを始めとする女性陣が俺の方を睨んでくると共にミカヅキが見るからに頑丈そうな紐を両手に持って詰め寄ってくる。
くっ、俺は悪くないのに……本当に悪くないのに……!
「ゴホン。その辺りの話はまた後で当人同士でするである。ヤタ。」
「俺は悪くぬぇ!じゃなかった、とりあえず机の上にアイテムを出すわ。」
俺はガントレットのオッサンの指示に従って机の上に遺跡で回収したセンケンジンキの珠以外の各種素材を出す。
「ほう。」
「ふむ。」
「へぇ……」
「これは中々……」
素材を見たメンバーの反応は驚きや関心など様々だ。
「では、ヤタ。いろいろと説明してくれるであるか?」
「ん。了解。」
そして俺は手に入れた素材についてその効果や説明文、入手経路を一つ一つ説明していった。
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「と言うわけだ。とりあえず用途とかについては分からないからそっちで話し合ってくれ。」
俺の説明が一通り終わったところでそれぞれがそれぞれに話し合いを始める。
で、俺は( ゜д゜ )に適当な料理を作ってもらってやる事の無いアステロイドと一緒に軽く食事をする。
ちなみに説明の最中に幾つか判明した事実が有る。
まず黒髪長髪の女性はカグヤと言い、普段は格闘家として前線に出ているがそれなりに高レベルの≪薬職人≫をサブで持っている他、俺と同じく≪掴み≫≪投擲≫を持っているという事も有って今回はガントレットのオッサンが呼んだらしい。
次に見知らぬ男性プレイヤーについてだが、こちらはヤルガバッハと言う名前のプレイヤーで純生産職だそうだ。
ただ、≪なめし職人≫や≪設備職人≫などの生産職が必要とするアイテムを専門的に作っている所謂縁の下の力持ち的なプレイヤーであったために攻略組の間での認知度は低く、そのために俺も掲示板で名前は見てもその姿は知らなかった。
後、服装だけでなく喋り方も独特だった。微妙に訛ってる。
最後に『電子の女帝』についてだがこちらはプレイヤーとしての名前はE.E.と名乗っているらしい。『Electron Empress』の略称と言ったところか。
呼ばれた理由としては全プレイヤー中でも屈指の≪解析≫や≪鑑定≫を持っている識別のプロであるため。出す情報をレベルに合わせて限定しているあたりに上手く一般プレイヤーに擬態しているなとは思う。いやらしい。
「結論が出たである。」
「おっ、早いな。」
と、食事が一段落したところでガントレットのオッサンがこちらに声をかけてくる。
さて、どういう結果になるのやら。
「とりあえずまとめるとですね。」
文屋さんが要点をまとめた形で一つずつ発表してくれる。
・敵の戦闘能力としては入口の殺人機械2号さえどうにかして遺跡の中に入れれば、気を付けて戦えば雑魚モンスターは狩れる。
・ただ、全体的に素材のレベルが高過ぎるため現状では生産組のトップでもアイテムの作成確率はそこまで高くない可能性が高いとのこと。
・センケンジンキの素材に至ってはどう足掻いても手に負えない。レベル云々以前に設備の強化が必須。
・設備の強化については宝箱から得られる素材が一定量有れば恐らく出来る。
「なるほどなぁ。」
「まあ、要するにお前は有り得ないぐらい先取りしちまった訳だな。」
「と言うか本当によくセンケンジンキを倒せたものですよね。」
「やっぱり『蛮勇の魔獣』……いえ、『剣聖』は有り得ないわ。」
「本当にとンでもねえよなぁ……」
文屋さんの説明に俺は素直に頷き、他のメンバーは呆れ顔が殆どである。
ん?てか『剣聖』って何の話だ?
まあ、後で誰かに聞けばいいか。
「しかしだ。そうなると武器や防具の強化には新しい設備が必須なのか。」
「ンだな。素材さえ持って来てくれれば格安で請け負う。」
俺の言葉をヤルガバッハが肯定する。
となると俺がもう何度か遺跡に潜ってアイテムを集めるべきだな。
で、その際に≪メイス職人≫≪酒職人≫も含めてスキルのレベル上げをすれば遺跡の素材も使えるようになるだろう。
ついでに新しいエリアへの道とか技能石とかを探してもいいかもな。
「では、この場は解散という事でいいであるか?」
「「異議なし。」」
そしてこの場は解散となった。
流石に『電子の女帝』=E.E.に気づかれている方は居なかった模様。
むしろ気づけた方には『覚り』の称号が必要ですね。
12/17不具合修正




