189:遺跡-6
「はぁ……はぁ……ただの人間がここまでやるとは……」
「ははっ……流石は世界屈指の迷宮だな……」
これは夢だと思う。
だって、俺は真っ黒な剣を握って目の前の女性と切り結んでいるのだから。
「悪いがここまでだ。」
「貴方は……!」
けれど夢にしてはやけに現実味が有り過ぎる気がする。
だって、俺の前に突然現れた全身を黒い衣で覆ったその人から感じる威圧感は只ならぬものだったから。
「消え去れ!」
「くっ!?」
まるでそう。過去に一度俺が経験したことを夢にしたかのような感じだった。
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「ん?ここは……?」
そして場面は切り替わり、いつの間にか俺は無数の石柱が乱立する真っ白な砂に表面が覆われた荒野に一人佇んでいた。
空には黒く染まった月が浮かび、月の周囲には赤紫色のダイヤモンドリングの様な物が放たれている。
また、遠くにはスノクワイバーンを倒した後のイベントで見た覚えのある赤い水晶が微かにだが見えていた。
「はぁ……だからまだ来るには早いんですって。」
背後から『電子の女帝』の声がする。
だが、振り返ることは出来なかった。
「今はまだアチラで鍛えていてください。」
振り返る前に光に包まれて俺が意識を失った為に。
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「ここは……」
俺はゆっくりと瞼を上げ、周囲を一通り見渡してからここが何処なのかを思い出す。
「ああ、ここは遺跡か。まだ探索の途中だったな。」
俺はそう呟いて微妙に覚醒しきっていない頭にゆっくりと現状を把握させつつ立ち上がる。
さっきの夢や妙な場所については……気にしないでおく。気にしてもどうしようもないし。
「ん……。とりあえず飯食うか。」
体をほぐしつつ俺はアイテムポーチから適当なアイテムを取り出して普通に食えるものは普通に食い、普通に食えない物は≪噛みつき≫≪鉄の胃袋≫込みで無理やり食う。
微妙に鉄の味がしてHPが減っているが気にしない。後で、【ダークヒールⅡ】か【ダークキュア】でもかけておけばいいだろう。
「えーと、武器とかは……」
食事が終わったところで俺は装備の状態を確かめる。
防具はそもそもの被弾が少なめなのでまだ問題ない。
が、シッコクノキョロウに関しては今日の探索が終わるころにでも一度直すべきだろう。
「と、そんな風に考えておくと直す暇が無かったりするから今の内に直しておくか。」
ただまあ、余裕があるうちに直すべき物でも有るので俺はシッコクノキョロウを修復し、修復が終わったところで俺は探索を再開した。
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「むう……。」
で、探索を再開したのはいいのだが俺は道に迷っていた。
いや、そもそも出口がどっちにあるのかも俺は知らないんだけどな。とりあえず≪方向感覚≫を使って方角を確かめつつ出来る限り同じルートを通らない様にしつつ東に向かっているだけだし。
「げっ……。」
と、ここで俺の前にとんでもないものが見える。
「一応行けるけど……。」
そこは巨大な棘付きの鉄球が細い通路の上で左右に高速で揺れており、その進路上に居た者を弾き飛ばして橋の下へと付き落とす橋の形をした処刑場だった。
「下は……罠がびっしりか。」
ただ、橋の高さはそれほどでもなくHPが残っていれば落ちても即死はしないと言える程度の高さであった。
ただし橋の下が真っ赤に染まっているのを見たら間違っても落ちようとは思わないが。
「とりあえず進むか。」
ただ幸いな事に棘付き鉄球のスピードは落ち着いて見れば十分避けられるスピードだったため、俺はゆっくりとけれど時には素早く進むことにした。
「ん?」
そして鉄球を2,3個躱して橋の終わりが見えた頃に俺の鼻がこちらに向かって飛んでくる何者かの匂いを嗅ぎつけた。
どうやらまだ出会っていないモンスターがいたらしい。
「アレは……蝙蝠か。」
飛んで来たものは銀色の皮膜に金属的な光沢のある毛皮を持った蝙蝠だった。
それが3匹同時に俺に向かって飛んでくる。
「この場で戦うのは拙い……『な!』」
俺は急いでスキル構成を変更すると牽制として蝙蝠たちを≪大声≫で怯ませ、動きが止まったところで複数の矢を投げて1匹を撃墜する。
どうやらフロートアームズと違って飛行系モンスターの常を守って耐久度は低めらしい。
と言うか、フロートアームズが例外的に堅すぎるだけか。
「2匹目!」
俺は≪四足機動≫を使って急いで接近し、ギリギリ手が届くところに居た蝙蝠の羽根を掴むと橋の下に向かって投げ落とす。
これだけで倒れるとは思えないが時間稼ぎにはなるだろう。
とにかく、逃げる場所が無い橋の上で戦うのは拙いだろう。
「『ギキィ!』」
「【ハウリング】『喰らうか!』」
と、ここで残った一匹の蝙蝠が口から何かを放とうとするのを見て俺は咄嗟に≪大声≫でその何かに対抗する。
だが、完全には打ち消しきれずに俺のHPが僅かに減る。
全身が震えるような感覚と蝙蝠と言う外見から察するに音波による攻撃と言ったところだろう。
しかし、蝙蝠の方も俺の≪大声≫を受けてただでは済まなかったようで橋の下に向かって墜落していく。
うん。やっぱり蝙蝠だけあって音波攻撃を使ってくるが、自身も音波攻撃には弱いらしい。
「とりあえずこの橋を抜けちまおう。」
が、まだ最初に落とした一匹以外は死んでいないのが臭いで分かったので、俺は鉄球を避けつつ急いで橋を渡りきる。
「さあ来い。」
「「キキィ!」」
そして橋を渡りきったところで片方が音波攻撃、もう片方が突進攻撃の態勢を見せてくる。
「すぅ……『ぐらぁ!』」
「『ギキィ!』」
「キキィ!?」
俺は音波攻撃を≪大声≫でやり過ごしつつ突進してきた方の蝙蝠の翼を噛み千切った後に地面へと叩きつけ、そこへ踏みつけを加えてトドメを刺す。
「キキー……」
と、ここで残った一匹が不利を悟ったのか逃げ出す。
うーむ。普段なら追いかけて倒すところだが今は節約時だしなぁ……しょうがない。見逃すか。
「とりあえず剥ぎ取るか。」
俺は足元に転がる蝙蝠からアイテムを剥ぎ取る。
剥ぎ取れたアイテムはミスリルバットの牙と言う名称だった。
うーん……。やっぱりここのモンスターはミスリルに関係が有るっぽいなぁ……。
「さて、次の部屋は……」
剥ぎ取りが終わったところで俺は自分の背後にある扉を少しだけ開けて次の部屋の中を見る。
「うわぁ……。」
そしてその部屋の中は一部の隙も無く罠がある事を示す赤に染まっていた。
夢と幻想と現実が交錯する遺跡
12/14誤字訂正
 




