176:王都ミナカタ-36
王都に戻ってユフに案内され、最初に帰還用のゲートを見た時の驚きは驚きと言う以外には表現のしようが無い物だった。
ただ、そのゲートから伝わってくる力を感じて何となくあのゲートを通れば現実に帰れるのだという事は本能的に理解できた。
だが、それと同時に感じた圧倒的な量の忌まわしい何か……恐らくはあの蘇芳色のコートを着た少女の気配だろう。それが俺の胸に一抹の不安を覚えさせていた。
その後俺はユフたちに別れを告げ、プライベートエリアで眠った後にメイスの修復を行ってからプライベートエリアの外に出た。
ただ、神殿の外に出て宙に浮かぶ白塗りで扉に黒い十字架に絡み付く六本足の龍の絵が描かれたゲートを見て俺は思う。
あの門の奥を見てはならない。あの門の奥に行ってはならない。あの門の先には深淵より深く、混沌より混ざり合い、地獄よりも禍々しい何かが潜んでいる。
もしも行くのならば……人としての死を願い、人ならざる者の生を願わなければならない。
あそこにあるのは俺たちの望む現実ではなく、俺たちの滅びをもたらす何かだ。
「心配なさらなくてもそこまでの危険な状況にはなりませんよ。」
「!?」
と、宙に浮かぶゲートを眺めていた俺に突然声が掛けられる。
その声に驚いた俺が振り向くとそこにはこうして目の前に居ても何も感じとれない美人……『電子の女帝』が居た。
「何の用だ……」
「ちょっとした様子見です。その様子だと添付ファイルの方の効果も薄かったみたいですね……となるとやはりお母様に診てもらう必要がありそうですね……ああ、でも……なると……続き……面倒……ブツブツ」
俺の質問に『電子の女帝』は一応答えるが、独り言のように言葉を続ける。
と言うかお母様?
いやまあ、『電子の女帝』にもそりゃあ母親ぐらい居るだろうけど今の口ぶりからすると『電子の女帝』以上にヤバい匂いしかしないんだが……。
「うん。今日はこのぐらいで失礼しますね。」
「お、おう。」
一通りブツブツ言い終えると『電子の女帝』は突然立ち上がって別れを告げる。
「ああそれと。頑張って生き残ってくださいね。」
「へ?」
そしてなぜかサムズアップをするとその場から消え去った。
え?と言うか頑張って生き残れ?どういう意味……ひゅい!?
「ヤアァ……タアァ……」
俺は突然背後に血赤のボスですら比較対象にならないレベルの殺気を感じとる。
「あ……あ……」
恐ろしいと感じつつも俺はギギギとまるで錆びついた人形のようにゆっくりと首を回して振り返る。
「ミ……ミカヅキ……」
そこに居たのはミカヅキだった。
ただその手には鋭い戈が握られ、防具からは瘴気の様な物が漂っている。いや、実際には殺気が濃すぎて瘴気のように見えているだけなのかもしれない。
だが、そんな事がどうでもよく思えるぐらいヤバい気配がミカヅキから漂っている。
「ど、どうしたんだ?」
俺は理由は分からないがとにかくヤバいオーラを放っているミカヅキを刺激しない様に気を付けつつ問いかける。
と言うか気が付けば俺たち2人の周囲からはプレイヤーの姿が一切無くなり、遠巻きに事の推移を見守る状況になっていた。
「ふふ。それを今更問いかけますか……?」
「ひぐぅ!?」
ミカヅキから発せられる殺気がさらに強くなる。
気のせいだと思いたいが既に物理的な重圧も伴い始めている気がする。
「一つ質問しておきますが。」
「な、何だ?」
ミカヅキがゆっくりと無表情に抑揚が極端に抑えられた声で語りかける。
本音を言えばすぐさま逃げたい。でも逃げられない。もしここで背中を見せたらその瞬間にあの戈が俺の首筋に叩き込まれる未来が俺には既に見えている。
てか、何だこれ?何このボス戦?何が起きてるの!?ねえ、誰か教えて!?ねえ教えてってば!!?
「今無くしたら拙いアイテムなどは持っていますか?」
「い、いや持ってない。貴重品は全部アイテムボックスに預けて朝飯を食べに行くところだったから。」
俺の返答にミカヅキは「それは良かったです。」と満面の笑みで返す。
そして……
「【ハイディング】【ファーストアサシネイト】【フルスイング】」
「ぐふあああぁぁ!?」
次の瞬間ミカヅキの姿は俺の視界から一瞬にして消え去り、その直後に俺は首筋にとてつもなく強い衝撃を受けて地面を転がる。
もちろんPKを防ぐ防壁はしっかりと発動しているためHPは減っていない。しかしその防壁を超えて襲い掛かってきた衝撃波の為に俺は吹き飛ばされたらしい。
いや、と言うか本来なら衝撃波も防壁が防いでくれるはずなのだが、地面を転がっている間にメッセージの着信音が有ったので『電子の女帝』がまた何かしたのかもしれない。
「さて、ヤタ……。何か申し開きは有りますか?」
ミカヅキが戈をブンブンと高速で振り回しながら近づいて来る。
いや、と言うかそもそも何でミカヅキがこんなに怒っているのかが分からないんですけど!?
「ああそうですか。なら分かるまで躾けてあげないといけませんね。」
「ひっ……あっ……あああぁぁぁ!!?」
そして俺の返答に更に気を悪くしたミカヅキの手によって俺はその後1時間にわたって地面を転がされ続け、その後落ち着いたミカヅキに理由を問いただしたところ昨日のフノトモシビ戦での俺の行動が女の敵認定するのに十分な事案であった為にこのような事になったのだと教えられた。
「本当にすみませんでした。」
「まったく。ヤタは有名プレイヤーでその影響力は自分で考えているよりもよほど大きいんですよ。今後は気を付けてくださいね。そもそも以前からヤタは……」
「はい……。」
で、現在俺は地べたに直接正座させられた状態でミカヅキに説教されている。
ちなみにミカヅキがこうして来なければ今頃俺の元には最前線組を中心としたフルPTが押しかけて決闘を仕掛けていた可能性も有ったらしい。
ああうん。それならミカヅキにひたすら転がされて締め上げられた方がよっぽどマシだわ。
流石にそんなメンバーは相手に出来ない。
「ふう。言いたいことは言えましたから、それでは私はこれで失礼しますね。」
「おう……。それじゃあな……。」
そしてミカヅキは去って行った。
さて、それじゃあ俺も朝飯を食べたら武器と酒を作るために職人街に向かうとするか。
っつ……足が……痺れる……
オチも着いたところで『第6章:魔除けの灯と灯台守』終了です。
明日からは新章ですよー




