172:VS灯台守-1
俺たち6人がボスゲートに突入すると同時に鎖で吊られた足場がゆっくりと上昇を始める。
足場は直径が40m程で、壁のように気の利いた物は無いため落ちたらそのまま死に戻りだろう。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。」
と、ここでセイントが呟く。
マンティドレイク、オオゴンズワム、スノクワイバーンという今までの流れを鑑みるに竜系の何かだとは思うけどな。
それとどうやらこうやって自由に喋れる辺りまだイベントは始まっていないらしい。
というかだ。ボスゲートに入った直後にイベントが始まらないってことはまさか……
「軍曹!」
「分かっている!全員中央に集まって周囲を警戒しろ!」
俺は嫌な予感に従って声を張り上げ、軍曹も警戒の指示を出す。
そして俺たちが中央に集まったところで足場の外周部に三つの巨大な黒い炎が出現する。
「これはもしかしなくても来ますかね。」
「来るでしょう。既に嫌な感じがしているもの。」
中央に集まった俺たちはその光景に武器を抜いて警戒を強める。
ボスゲートに入ってもボス登場のイベントが始まらない。それはつまりボスが登場する前に何かがあるという事。
「「「グガァ……」」」
「レッサーデーモンですか。」
と、ここで3つの黒い炎の中からそれぞれレッサーデーモンが出現する。
匂いからして灯台の中に普通に出現するものと強さなどは変わらないようだが、この狭い足場で3体同時出現は中々に厳しそうである。
「セイント、ヤタ。すまないが二人は時間を稼いでくれ。残りの4人でまずは一体を速攻で落とす。」
状況を見極めた軍曹がそう指示を出す。
まあ、それが妥当な所だろうな。下に出てきたのと同じ強さなら俺一人でも倒せるし、セイントも問題なく耐えられるだろう。
セイントもそう考えたのか既に武器を自分に一番近いレッサーデーモンに向かって構えていつでも戦いを始められるようにしている。
「「「グガアアァァ!!」」」
「全員行くぞ!」
「「おう!!」」
そしてレッサーデーモンが咆哮を上げると同時に軍曹の指示が飛び、俺たちはそれぞれの相手に向かって駆け出す。
「行くぜぇ!」
「グガッ……」
俺はその中で≪四足機動≫を使って真っ先に駆け出し、勢いそのままにレッサーデーモンの顔面に飛び蹴りをかます。
が、レッサーデーモンはそれを眼前で腕を交差することによって防御する。そしてその目には明らかに俺を敵視する光が宿っている。
まあ、ここまでは予想の範疇内だし、コイツの注目を俺に集められたのだから問題ない。
「グガァ!」
「おっと。」
と、レッサーデーモンが腕を振るって俺を弾き飛ばすと同時に口から炎を吐いて攻撃してきたため、俺はそれを左右に細かく動いて回避する。
うん。他のメンバーに流れ弾が行かないようにすることを考えると大きく動けないから普段よりも攻撃を避けづらいな。
「まあ、問題は無いがな!」
「グギャ……」
俺はレッサーデーモンの攻撃が止んだところでスライディングをするような形でレッサーデーモンの脚を蹴り、続けて体を起こす勢いを利用してレッサーデーモンの背中にメイスを打ち付け、更に首の後ろに噛みついてその肉を食い千切ってやる。
「『ふふん。所詮はレッサーか。』」
「グガアァ!!」
攻撃を終えた俺が≪大声≫で挑発してやると、それを真に受けたのかレッサーデーモンが突撃を仕掛けてくる。
だが、その攻撃は大振りも大振りであり……
「温いわ!」
「グ……ギャ……」
俺の≪蹴り≫によって難なく跳ね上げられ、そこから頭を俺のメイスによって滅多打ちにされたことによってレッサーデーモンはゆっくりと倒れ、消え去っていく。
「よし。さて、軍曹たちはっと。」
俺は軍曹たちの援護をするためにその戦闘の様子を窺う。
「今だ!一斉に攻撃しろ!」
「グギャアァ……」
どうやら既に一体のレッサーデーモンを倒し、セイントが相手をしていたレッサーデーモンを集中攻撃しているらしい。しかも戦いの様子を見る限りではもう間もなく終わりそうだ。
とりあえず、セイント含めて多少の手傷は負っているようだし回復はしておくか。
「加勢する!【ダークキュア】!」
「かたじけない!」
俺が回復を行うと共に軍曹の攻撃がレッサーデーモンの胸に大きく真一文字の傷を作って打ち倒す。
うん。流石の火力だな。
「さて、次は……来そうだな。全員構えておけ。」
と、レッサーデーモンの死体が消えた所で再び黒い炎が燃え上がる。今度は6つでしかも既に腐臭が漂ってきている。
「さて、ボスまでに何セット来ますかね?」
「さあな。ただ血赤だったら前座だけでも相当酷そうなことになりそうだ。」
さて、一体ボスの前にどれだけの数のザコラッシュが来るだろうな。
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「ふむ。終わりが見えてきたな。」
「長かったすねぇ。」
さて、結局ザコラッシュは全部で5回あった。具体的には……
1戦目:レッサーデーモン×3
2戦目:ゾンビ×6
3戦目:インプ×2+ディムトーチ×2+ゴースト×2
4戦目:レッサーデーモン+ゾンビ×3
5戦目:レッサーデーモン+インプ×2+ディムトーチ×2
と言った感じ。恐らくはこちらの人数に合わせた部分やランダム要素も有るのだろうが、中々にキツかった。
そして5戦目が終わったところで足場は周囲が壁に覆われた場所に入り、そしてイベントが始まった。
そこはかつて外から見たようにガラスが張られ、その外にはテラスが設置されている場所だった。
ただ、以前下から見た時には見えなかったが天井の部分では魔除けの灯と思しき炎が煌々と燃え盛っている。
「来ましたか……。」
と、ここでテラスの方から以前ハレーと一緒に下から見た灯台守の女性がこちらに向かって歩いてきて、ガラスをすり抜けて室内へと入ってくる。
「やっと……やっと……この時が来た……」
灯台守の女性は感極まった様子で涙を流す。
だが、その涙の色は……
紅い
「やっとこの忌まわしき灯から解放される。」
俺がそれに気づいた瞬間。灯台守の女性の姿に変化が生じ始める。
「『私は役立たずの灯台守。』」
灯台守の女性の手足が黒い竜の鱗ような物に覆われていく。
「『闇に喰われ、闇に堕ち、闇と一つになった灯台守。』」
額からはオオゴンズワムの棘を思わせるような黒い角が一本天に向かって生える。
「『その役目は闇の灯を主の意思に従って広める事。』」
背中からはスノクワイバーンの翼を思わせるような黒い翼が勢いよく伸ばされる。
「『されど、忌まわしい魔除けの灯によってその役目を果たす事は叶わない』」
腰からはマンティドレイクの尾を思わせるような先端が蜂の針の様になった黒い尾が何処からともなく出現する。
「『だから、貴方たちに宿ったその灯を寄越しなさい。』」
周囲に先程の前座が出現するのに利用されたのと同じような黒い炎が無数に生み出される。
「『私はその灯の力を持ってこの灯台の外に出る!』」
そして灯台守であった彼女の叫び声に呼応して周囲に存在する黒い炎がその火勢を大きく強めるのと同時に戦いが始まった。
血赤ではザコラッシュが総計で50体以上出現します。
12/01ちょっと改稿




