169:灯台-6
エレベーターが上昇しきったところで俺たちの目の前に黒い炎の柱が立ち昇っている光景が見えた。
階段迷路の上層部から剣戟の音や喧騒、爆発音が聞こえていることから察するに他にも多くのPTが来ているようである。
「ふむ。中々に賑わっているな。」
軍曹がアイテムポーチから≪耐暑≫付与のアイテムと思しき丸薬を取り出しながらそう言う。
「じゃあ、全員で事前の打ち合わせ通り慎重に行くってことでいいですかね。」
「とりあえずゴーストは任せたぜ!」
ユフに片手槍の男性も丸薬を飲み干しながらいつ戦いが始まってもいいように準備を整える。
「それで『蛮勇の魔獣』はこちらに同行するのですか?」
杖使いの男性が俺に問いかけてくる。
「とりあえずは同行させてもらうよ。まあ索敵は任せとけ。」
「それは私の仕事なんだけどねぇ。」
ハイクールカクテルを呑みながら答えた俺に対して鞭使いの男性がそう返答する。
うん。今まで感じてた暑さが問題の無いレベルになったな。ステータス画面を見る限りでも問題は無さそうだ。
「いずれにせよ全員準備完了です。」
「うむ。それでは行こうか。」
そうして俺たちは階段迷路踏破に向けて進撃を始めた。
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「オラァ!」
「ゴオォ!?」
ユフの両手剣がディムトーチの体を真っ二つにし、ディムトーチの身体が地面へと落ちる。
「キキィ!」
「おっと。」
そしてインプの魔法弾が放たれるが、それを難なく片手槍の男が片手槍に付属品の盾で防ぐ。
「ふッ。」
「……。」
しかもゴーストが現れても人数が多いために隠れてゴーストが攻撃できるような死角はほぼ存在せず、現れた瞬間に軍曹が一太刀で切り裂いている。
「何と言うか仕事ねえなぁ……【ダークヒールⅡ】」
「いや、しっかり仕事有るじゃないですか。【ライトヒールⅡ】」
で、他にも違う階段からインプやディムトーチが攻撃を仕掛けてくるが、片手槍の男性が攻撃を防いで杖使いと鞭使いの二人が反撃の遠距離攻撃で撃墜してしまうため俺とメイス使いの少女の仕事はまるでない。
まあ、それでも僅かに減ったHPを≪闇属性適性≫がレベル20になったことで出現した【ダークヒールⅡ】を使ってレベル上げの為に回復していたりするのだが。
「と、いかんな。レッサーデーモンが次の踊り場に居る。」
そう言う軍曹が指し示す先には以前俺が倒すも剥ぎ取る前にやられてしまった為に名前も分からなかった悪魔が居た。
「うーん。俺倒した事ないんで譲ってもらっていいですか?」
「構わない。が、こちらも早く先に進みたいから手早く頼む。」
「アイツの爪に触れると何かしらの状態異常を喰らうから気を付けろよ。」
「了解。」
さて、ここで同じPTに入っていたり同盟を組んでいたりすれば素材を剥ぎ取れるのだが、今回の俺はただ同行をしているだけなのでそう言う恩恵には授かれない。なので俺が自分の力で悪魔改めレッサーデーモン倒す必要があるわけだ。
にしても何かしらの状態異常か。攻撃を喰らったらランダムでってことでいいのかもな。
「じゃあ、一気に行きますか。」
「グガアアァァ!」
俺が≪四足機動≫を使ってレッサーデーモンの感知範囲に入るのと同時にレッサーデーモンも雄たけびを上げつつ爪を振り上げる。
「はん!【アイススイング】!」
「グギャ!?」
「ほう。」
が、その爪が俺に触れる前に【アイススイング】をレッサーデーモンの腕に当てて腕を凍りつかせながら弾き飛ばす。
「【ブリザード】!」
「ガ……!?」
そこに更に【ブリザード】を俺は起動し、レッサーデーモンを起点に吹雪が吹き荒れさせる。
「ガンガン行くぜぇ!!」
氷属性攻撃の追加効果によって凍りついたレッサーデーモンに肉薄した俺は≪噛みつき≫、≪蹴り≫、メイスによる連続攻撃を行って一気にレッサーデーモンのHPを削り取っていく。
「ガ……ガアッ!」
「おっと。」
と、ここで体に着いた氷を引き剥がしつつレッサーデーモンが大降りに爪を振るうが、俺はそれを距離を取る事によって回避する。
「トドメだ!」
「ガッ……」
そしてその大ぶりな攻撃の隙をついてレッサーデーモンの懐に入り込んだ俺は山羊っぽい味のレッサーデーモン肉を口に含みつつその胸を思いっきり蹴り飛ばす事によってレッサーデーモンにトドメを刺した。
「ふぅ。」
「相変わらず人間とは思えない動きしてんな。」
倒したレッサーデーモンからレッサーデーモンの角を剥ぎ取ったところでユフが近づいて声をかけてくる。
軍曹たちは……俺が戦っている間に寄ってきた雑魚たちを処理しているのか。ご苦労様です。
てかユフよ。
「別にこのぐらいならまだ人間の範疇だと思うぞ。人間を辞めている動きってのはああいうのを言うんだ。」
「ん?」
俺はよく知った臭いが下から近づいてくるのを察してそちらに指を向ける。
「…………マジか。」
そこにあったのは時に階段から階段へと飛び移り、時にモンスターをも足場にして階段迷路を飛び上がっていくミカヅキの姿。
迷路なんて完璧に無視である。
というか、ミカヅキの奴有り得ない事に階段→インプ→インプ→階段とかで移動して行ったりもするんだよな。いくら高い隠密能力のおかげで気づかれて逃げられることが少ないとは言えよく出来るわ。
「ふう。『月戈の暗殺者』もとんでもない攻め方をするな。我々も急ぐとしよう。」
「そうですねー。」
ミカヅキの行動にさすがの軍曹も呆れ気味である。と言うか今回はアステロイドは一緒じゃないのか。
で、俺たちもミカヅキを追って襲い掛かってきた敵を打ち倒しながら階段迷路を順調に昇っていき、やがて次のエレベーターへと到達する。
なお、ミカヅキはとっくに次のフロアに移動している。
「さて、ここからは我々にとっては未知の領域だ。気を引き締めてかかるぞ。」
「「了解!」」
そして俺たちはエレベーターに乗って次のフロアへと移動した。
さて、軍曹たちのおかげで消費が抑えられたが次は俺たちにとって未知のエリアである火粉迷路か。一体どうなっているのやら。
ミカヅキも順調に人間辞めてます。
ちなみに普通のプレイヤーがやろうとすると踏もうとする前に移動されて下に落ちます。
11/28誤字訂正




