166:王都ミナカタ-35
さて、一通りのアイテムを作って≪酒職人≫の店の外に出た俺だが、当然のように今回の作業中に≪酒職人≫のレベルは20を超えているのでイベントを起こしておく。
「おおっ、いいところに来たな!お前にちょっと話があるんだ。」
はいはい。テンプレ乙。
と言うわけで、話をまとめるとこんな感じの条件を出された。
①レア度4以上
②神より祝福を授けられた素材を使用する事
③水に『狩人の水』より上のランクの水を使用すること。(ただ、霧水はダメだと言われた。アレは本来酒造りには適していない水なのだとか。)
④漬け込むアイテムはレア度4以上の物を使用する事。
とりあえず、①はスルーしても構わない。いい酒を造れば自然にそうなる。②に関しても①を満たそうと思えば自然にそう言う素材を使う事になるだろう。
と言うわけで問題なのは③という事になる。
うーん。灯台で回収できる水にそう言うのが含まれていれば楽なんだけどな。
④?気にするほどの事じゃないでしょ。
「まあ、とりあえず防具を受け取りに行くか。」
一先ず≪メイス職人≫のイベントと同じで今はどうしようもないと判断して俺は一度プライベートエリアによってから『イッシキ』へと向かう事にした。
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「ヤタ君いらっしゃい。」
「良く来たである。」
『イッシキ』に入るとアーマさんとガントレットのオッサンの二人に出迎えられた。
「防具の方出来てます?」
「問題なく出来ているである。」
俺の問いにガントレットのオッサンが自信を持って答える。
ふむ。これは期待して良さそうだな。
「それじゃあ、今から送るから着てみて。」
「分かりました。」
そして俺はアーマさんから送られてきた新たな装備を身に着けていく。
「おお。」
新たな装備と言っても基本的な外見は変わっていない。
ただ、細かい部分。例えば腕防具なら以前はキリウミの傘が使われていた部分が黒霧鋼製の肘当てになっていたり、指の先端部分にまるで爪の様な形で黒霧鋼が使われていたりする。
その鋭さは敵を掴んだ際には追加ダメージが期待できそうなぐらいだ。
これと同様の処理が脚防具の方にもされており、こちらは地面を蹴るのに良さそうな感じである。
また、胴防具や頭防具なら裏地に使う事で見た目には変化がない様にし、腰防具なら一見何処に使っているか分からないようにするなど見た目にも気が使われている。
そして極めつけは首防具である巨大狼の首飾りなのだが、これに至っては黒霧鋼の色も相まってまさにウルグルプの顔そのものな感じになっている。
「ふふふ。外見だけじゃないわよ。」
「性能の方も見てみてみるである。」
と、外見の方に驚いていた俺に向かって二人が性能の方も見てみるように勧める。
「んな!?」
そして実際に見た俺は驚いた。
防御力が上がっているのは予想できた。だがそれ以上に驚いたのが闇耐性の高さだ。黒霧鋼が闇属性特化の金属だと言うのは理解していたがまさか全ての部位で合わせるとここまで行くとは思っていなかった。
「ふふふ。驚いたであるか。」
「当然よ。私たちの中では間違いなくここ最近では最高傑作ですもの。」
「いや、普通に驚きました。」
で、実を言えば驚く点はまだある。
こちらもブラックミストリングにそれが付いていることから考えれば予測できて当然なのだが、実際目にしてみれば驚く他無い。
と言うか、うん。ちょっと傍目にはこれをやったら実際どう見えるのか試してみたいな。
「ガントレット。アーマさん。ちょっと祝福とか使っても大丈夫な場所とかありますか?」
「ん?それなら店の裏手の広場がいいである。」
そう言ってガントレットのオッサンが店の奥に案内してくれ、そこから店の裏手の何も無い広場に通される。
「こんなところあったんですね。」
「普段は職人たちで話し合いをする時の会議場に使われている場所なのよ。」
俺の感想にアーマさんが本来の用途を教えてくれる。
「で、何を試すつもりである?」
「まあ、それは見てからのお楽しみで。」
さて、そうして広場に通されたところで俺は必要になるであろうアイテムを予めアイテムポーチの外に出しておく。
「じゃあ、始めますね。【獣人化:ウルグルプ】」
俺はこんな事も有ろうかと持ち込んでおいたクロノキョロウで【獣人化:ウルグルプ】を発動し、全身が黒い毛に覆われた狼男に変身する。
「おお。実際に見てみると迫力があるであるなぁ。」
「あらあら。本当に狼男なのね。」
二人も驚いているが、ここからが本番である。
と言うわけで今更使わないであろう祝福酒を2本ほど呑み干したところで第2段階へと移行。
「【ダークエンチャント】全部位起動。」
俺は【ダークエンチャント】をゲコドロリング以外の装備している武器防具全てで発動させる。
すると、ゲコドロリング以外の全ての装備から大量の闇が噴出して俺の体を覆う。
恐らくだが傍目には赤い目を持った黒いモヤモヤに包まれた狼状の何かに見えているだろう。
「これはまたとんでもない姿になったであるなぁ……」
「何も知らない人が見たら新種のモンスターに見られそうね。」
二人の感想に関しては俺もそうとしか思えないので黙っておく。
さて、恐らくだがこの状態で戦闘を行えば≪噛みつき≫≪蹴り≫≪掴み≫には当然のように闇属性の追加ダメージが入るだろうし、闇属性の耐性に関しても相当高まっているだろう。
で、ここから先は殆どネタの部類に入るだろうが一応試しておくべきだろう。
「ゴクゴク……いえ、まだこの先が有りますんで。」
「そうなのであるか?」
「あら、それは楽しみね。」
俺は祝福酒をさらに数本呑み干してBPを回復させる。
そして一度深呼吸をして、心を落ち着かせてから首飾りのそれを発動させる。
「【獣人化:ウルグルプ】起動!」
「「!?」」
起動した瞬間俺の全身はさらに膨れ上がり、それに合わせて俺の体を覆っていた闇もその量を大きく増す。
ただ、二重起動の状態を見せたのはミカヅキとアステロイドだけなので、俺としては今自分がどのような状態なのかはいまいちよく分からない。精々目線の高さ的に体のサイズが2mぐらいになっていると分かる程度だ。
「ツッ……変身解除。」
と、変身が完了した所でやはり無視出来ないレベルの飢えが襲い掛かってきたため俺は慌てて変身を解除する。
何と言うか二重起動は火力だけを見るなら相当強力だと思うが、やはりこの強烈な飢えのせいで扱いに困るな。出して敵が倒せなかった場合がヤバすぎる。
「はぁはぁ……どうでした?」
俺は二人に感想を聞いてみる。
「完全にボスである。」
「明らかに血赤のウルグルプの強化版としか思えないわね。」
二人は若干頬を引き攣らせながらそう言う。
うーん。傍目にはそんなにヤバい容姿になっているのか。これは普通のプレイヤーの前では迂闊には使えないかもしれん。
「と言うかヤタ。」
「どうしたガントレット?」
ガントレットのオッサンが気まずそうな顔をしつつ近づいてくる。
「今の状態でもモンスターにしか見えないである。」
「えっ……」
ガントレットのオッサンの言葉に思わず俺は固まったが、考えてみれば【ダークエンチャント】は効果を発揮したままで、今の俺の姿は全身が黒いモヤモヤに包まれて目だけが赤く光っている人型の何かである。
うん。確かにモンスターにしか見えない気がする。
そして、俺は思わぬ事実にちょっと悲しくなりつつ『イッシキ』を後にするのであった。
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Name:ヤタ
Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.25 ≪メイス職人≫Lv.23 ≪四足機動≫Lv.25 ≪噛みつき≫Lv.25 ≪嗅覚識別≫Lv.24 ≪大声≫Lv.24 ≪闇属性適性≫Lv.20 ≪投擲≫Lv.23 ≪BP自然回復≫Lv.10 ≪蹴り≫Lv.22 ≪掴み≫Lv.23 ≪方向感覚≫Lv.22
控え:≪酒職人≫Lv.21 ≪握力強化≫Lv.22 ≪鉄の胃袋≫Lv.23 ≪器用強化≫Lv.20 ≪筋力強化≫Lv.23 ≪嗅覚強化≫Lv.23
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Equipment:攻撃力:195+光25+闇10 防御力:120+闇20 (全防具に黒霧鋼(+闇2)使用)
武器:キツネトリイ 【ヒール】 【スモールサンクチュアリ】
頭:ウルグルプヘッド 【ハウリング】 【ウルフファング】 【ポイズンバイト】 【ダークエンチャント】 (クエレブレの素材使用)
首:巨大狼の首飾り 【ダークエンチャント】 【獣人化:ウルグルプ】
胴:ウルグルプベスト 【ダークエンチャント】 (ショットフロッグの皮使用)
腰:ウルグルプベルト 【ダークエンチャント】 (クエレブレの素材使用)
腕:ウルグルプアーム 【アイアングラップ】 【ダークエンチャント】 (ヌマヒトガタの素材使用)
脚:ウルグルプグリーヴ 【ダークエンチャント】 (クエレブレの素材使用)
指輪1:ブラックミストリング (闇8) 【ダークエンチャント】
指輪2:ゲコドロリング (HP・BP回復 2/h)
控え武器
Rシザーメイス 142+水15 【ディフェンスライズ】
レッドコークメイス 135+火40 【ファイアスイング】 【ウォームゾーン】
マンティメイス 165+雷15 【サンダースイング】 【スイングダウン】
スノーミストメイス 180+氷35 【アイススイング】 【クールゾーン】 【ブリザード】
クロノキョロウ 190+闇25+毒20 【ダークスイングⅡ】 【ベノムスイング】 【獣人化:ウルグルプ】
≪闇属性適性≫+メイス祝福 【ダークヒールⅡ】 【ダークエンチャント】 【ダークキュア】
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どう見てもボスです。
というかどう足掻いてもボスにしか見えません。
11/25誤字訂正
11/26誤字訂正




