165:王都ミナカタ-34
さて、王都に戻ってきたのはいいが時刻は夜で、今から≪酒職人≫の店に行っても途中で店が閉まってしまうだろう。
と言うわけでまずは『イッシキ』に行って黒霧鋼の鉱石を卸す。
「あら、随分と大量ね。これならインゴットに精製しても大抵の武器や防具は作れそうだわ。」
「現地でBPが有る限り≪BP自然回復≫と≪闇属性適性≫のレベル上げも兼ねて作ってましたから。」
でまあ、大量の黒霧鋼の鉱石をアーマさんに見せたところこんな事を言われた。
「で、これでどのくらいになります?」
俺はアーマさんにこの大量の鉱石がどの程度で買い取ってもらえるかを聞く。
「そうねぇ。今の情勢だと銀貨数十枚近くにはなると思うけど。でも、珍しいわね。ヤタ君がお金で求めるだなんて。」
「あー、≪酒職人≫の店で長時間設備を借りる予定なんですよ。なんでそこまで大量のお金は必要ないんですけどそれなりにはお金が必要なんです。」
実際のところ今回の用分だけでも銅貨30枚は欲しい所で、今後の事を考えると銀貨数枚は欲しい所である。
というか、黒霧鋼ってやっぱり今は需要が高いんだな……まあ、闇属性特化金属だから灯台に出てくる敵の種類を考えたら防具として求められてもおかしくは無いか。
「ふうん。そう言う事なら物は相談なんだけど。」
と、ここでアーマさんが俺の話を聞いて提案をしてくる。
「報酬を増やすのと報酬を少し減らして防具を更新するのとヤタ君はどっちがいい?」
「む。」
うーん。これは悩みどころ……。とりあえずどっちを選ぶかは防具にどういう強化を施すかによるかな?
「えーと、アーマさんとしては俺の防具にどういう強化を施すつもりなんですか?」
「私としては精錬した黒霧鋼を使いたいと思っているわね。それも1ヶ所2ヶ所じゃなくて全身に。もちろんベースは変えないから見た目の変化は気にするほどには起きないわ。」
なるほど。全身ウルグルプ+黒霧鋼製防具になるのか。
そうなるともしかしなくてもアレが出来るかな……うん。そう言う事なら頼むか。ただこの後の予定もあるからその辺はちゃんと伝えておかないとな。
「それじゃあ、防具強化の方でお願いします。ただ、防具を渡すのは明日の朝でいいですか?ちょっと今から肝集めをしようと思っているので。」
「了解したわ。こっちとしてもこれだけの量となると精錬に時間がかかるから明日の朝に渡してくれれば問題ないわ。」
そう言いながらアーマさんは黒霧鋼の鉱石の報酬をトレード画面に乗せてくる。
「えっ……!?」
そして俺は固まる。
「あらどうしたの?」
「えーと、銀貨20枚とか本当に良いんですか?」
その報酬……職人銀貨20枚。言うまでも無く俺にとっては持ったことも無い大金である。
「今ならこれでも十分利益が出るから問題なしよ。」
「そう……ですか。」
うーん。この辺りの金銭感覚はどうしても分からん。
もしかしなくても最終的には神月貨とかがプレイヤー同士の交渉なら使われるようになるんだろうけどさ。
「えーと、それじゃあ。今日は失礼しますね。」
「ええ。また明日の朝よろしくね。」
「分かりました。」
そして俺は持ち慣れない大金にちょっとビクビクしつつ『イッシキ』を後にした。
で、その後念のためにアイテムを預けてから赤ウルグルプを数回倒してからメイスを修復して、その後に眠って翌朝。
ん?赤ウルグルプとの戦い?いや、最初のボスとか血赤でもなければ祝福無しでも余裕で倒せるぐらいだから。最早新しい武器の試し切りをする相手としても使えるぐらいですから。
と言うわけで翌朝、再び『イッシキ』を訪れた俺は指輪以外の防具を全てガントレットのオッサンに預けると前に買ったコートとツナギを着て店の外に出る。
なお、このコートとツナギは外見重視の装備の為、防御力は雀の涙程度で祝福は無しである。
「さて、集中力を切らさない様に気を付けないとな。」
そして俺は一度プライベートエリアに移動して持てるだけの素材を持ったところで職人街に移動して≪酒職人≫の店を訪れる。
「いらっしゃい。今日はどんな用事だ?」
≪酒職人≫の店の店主が俺に声をかけてくる。
そう言えばまだ俺の≪酒職人≫のレベルは20未満だからイベントが発生しないんだよな。まあ、今日一日アイテムを作っていれば20ぐらい余裕で到達するか。
「上位設備を貸してくれ。銅貨30枚だ。」
「あいよ。5時間だな。」
さて、今回は本当に長時間の作業になるな。
そして俺は≪酒職人≫の店に入った。
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「あー、流石にこれだけ長時間の作業になると精神的に来るものがあるな。」
作業開始から3時間ちょっと。
スキル構成を変更して様々な酒を造りつづけていた俺は流石に多少疲れていた。
何と言うか戦闘と生産はやっぱり違うな。使う筋肉とか頭の違いだと思うけど、戦闘ならもう数時間はスイッチが入れば行ける自信はあるけど生産はそろそろキツくなってきた。
「でもまあ、おかげで必要なアイテムは大体揃ったか。」
俺はアイテムポーチの中身を覗く。
その中にあるのは上薬草酒、上祝福酒、霧吹水、ハイクールカクテル、職人栗鼠種のブランデーを初めとした様々な酒だ。
中には完全に飲料用の酒なども有ったりするがそれはまあ置いておいて。
「折角だし漬け込みもやっておくか。」
俺はウルグルプの肝などを取り出して相性の良さそうなものにそれらを漬け込んでいく。
「そう言えば灯台で採取できるアイテムで向日葵の花以外は独自のアイテムってまだ見つかってないよな……」
俺は灯台では他の三神殿に有ったようなその場所の名を冠した独自アイテムがまだない事を思い出す。
何と言うか、灯台なら何かしら有ってもおかしくないとは思うんだけどその辺りどうなんだろうな。まあ、階段迷路から先だと探してる暇とかほとんど無いだろうけど。
ポーーーーン!
『ヤタ様。レンタル終了時間まで残り3分になりました。退出準備をお願いします。』
と、ここで時間が来てしまったために俺は≪酒職人≫の店の外に出た。
ついに省略扱いです。でもしょうがないよね。赤だし。




