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Hunter and Smith Online  作者: 栗木下
第6章:魔除けの灯と灯台守

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156/249

156:VS合成獣-1

 ロトンキマイラとの戦闘用に作られたインスタントエリアは足元が妙にやわらかく、壁面も含めて所々から動物の骨のような物が突き出しており、中には俺の身長ほどの高さが有る大腿骨の様な骨もある。


ドン!


 と、ここで地面の下から継ぎ接ぎの巨大な豚の足が飛び出して地面を掴む。


ドン!


 続けて先程の豚の足と対を成すように継ぎ接ぎの馬の脚が飛び出して地面を掴む。

 何と言うか、既にこの時点でロトンキマイラと言うボスに対して嫌な予感しかしない。


「ブコピヒメバアアアァァァ」

 そして地面の上に出て来た両足に力が込められると、霧の湖の海月に通じる様な奇怪な鳴き声と共にそいつは地面の上に飛び出してきた。


「フュラアアァァ……」

 そいつの名はロトンキマイラ。

 プレイヤーたちに殺され食われた幾万の同朋の恨みつらみを晴らすために闇の灯の力を受け入れて生まれた化け物であり、その体高は4m程。

 右前脚は豚……スタンプボア、左前脚は馬……シュートホース、右後ろ脚は羊……クロスシープ、左後ろ脚は山羊……スペルゴート、背中から生えた翼は鶏……カットチキン、胴体と尻尾は様々な動物が入り混じっていてよく分からない。

 ただ、全身にある継ぎ接ぎの部分からは酸と思しき黄色い液体が漏れ出ておりとても痛々しい。まあ、地面に落ちた黄色い液体は明らかに何かを溶かすような音と共に消え去っていくのだが。

 そして頭部。そこは牛……ランスビーフの角と思しき物を軸として丘陵地帯に出現するモンスター6種の頭が付けられていた。


「ブコピヒメバアアアァァァ!!」

 そして6つの頭が一斉に叫び声を上げると同時に戦いが始まった。



---------------



「全員事前の通達通りに行動開始!」

 戦闘開始と同時にウラジオストさんの声が辺り一帯に響き、その声を受けてプレイヤーたちが動き出す。ミカヅキなんかは声がかかる前にはすでに消えていたが。

 さて、今回の俺の役目は回復役なわけで、味方を即座に回復できるがロトンキマイラの攻撃は届かないと言うポジション取りをするべきなのだが……動けなかった。

 何でかって?


「くさあああぁぁぁ!?」

「ヤタさん!?」

 俺の声に驚いたハレーがどうしたのかと聞いてくる。

 ただ、俺にとってはそれどころではない。


「≪嗅覚識別≫≪嗅覚強化≫のせいで匂いのレベルが耐えられる限界を振り切ってる……これ無理……助けて……」

「あああぁぁぁ……ヤタさんはそう言えば……」

 ロトンキマイラの身体から漂う大量の腐敗臭。それが俺の嗅覚を直撃しているのである。

 アレだ。シュールストレミングスってあるだろ。アレを数倍ヤバくしたような感じの匂いが辺り一帯に立ち込めているように俺の鼻は今感じてる。

 気絶しそう。てか、いっそ気絶できたら幸せなんだろうけどボス戦で俺の役割も有るから気絶できない……何この苦行……。


「これしか僕には言えないですけど……頑張ってください。」

「ううううう……。」

 ハレーの慰めすらツラい。

 本能に直撃するこの臭いは感じ取れてしまったプレイヤーにしか理解できない物なんだろうけどさ……。


「【プロボック】」

「【アタックライズ】」

「【ファーストアサシネイト】【クレセントスイング】!」

「【ジャンプ】【アイススラストⅡ】」

「【ライト】」「【ウィンドショット】」「【フレイムショット】」

「ブコピヒメバアアアァァァ!?」

 と、俺が悶え苦しんでいる間にも戦いは進み、タンク役がロトンキマイラを引きつけている間に楽器使いが同盟全体を強化し、強化が及んだところでミカヅキの一撃が鶏頭の後頭部に直撃。

 それによって6つの頭が中央の角を軸に回転した所に紫鎧さんの氷を纏った突きが当たってさらに回転が加速。

 そしてトドメと言わんばかりにハレーたち遠距離組の攻撃が炸裂して体勢を崩す。

 ああうん。これ俺いらないんじゃね?ほら、匂いのせいで動けないしさぁ……


「回復役!回復してくれ!」

 ですよねー。タンク組から回復要請が普通に来ましたよ。ええ。


「こうなりゃ、息止めて回復したら即離脱だ!」

「コケエエェェェ!」

 俺は≪四足機動≫を使って前線まで一気に移動する。

 と、同時にロトンキマイラが立ち上がり、一番上に鶏の頭が来てから一啼きした後に背中の翼を使って一瞬飛び上がってから即座にその巨体を生かしたプレス攻撃を仕掛けて近くに居たプレイヤーたちにダメージを与える。


「ぐっ……」

「【ダークキュア】!」

 が、近くに居たのがタンク役だけだったために被害は少なく、俺は一番ダメージを受けていると思しきプレイヤーに【ダークキュア】を発動して前線に居たプレイヤーの半分ほどを対象に回復する。

 【ダークキュア】は≪闇属性適性≫がレベル15になった際に出現した祝福で、指定した味方とその近くに居る味方のHPを回復できる祝福である。なお、回復量そのものは単体回復よりも少ない。

 で、回復エフェクトが出ると同時に俺は一刻も早くこの臭いから逃れるために離脱を開始しようとする。


「ウメエエェェ!」

「へっ?」

「いかん!急いで誰かカバーに入れ!」

 が、その前にロトンキマイラの一番上の顔が山羊になり、一啼きした後俺の方を向き、それと同時にウラジオストさんの指示が飛ぶ。

 あー、もしかしなくてもやっちゃったか?

 てか、よくよく考えたらこれだけの人数の味方を一斉に回復すればそりゃあ一気にタンク役たちの稼いだヘイトも振り切るぐらいヘイトを稼ぐよな。

 となればだ。


「いらん!自分のミスは自分で何とかする!」

「ヤタなら大丈夫です!それよりも戦列を維持する方が大切です!」

「ウンメエエエェェェ!!」

「くっ……分かった!『蛮勇の魔獣』!自分で何とかしてくれ!」

 山羊の頭から黄色い液体……酸が山羊の姿を取って2匹こちらに向かってくる。

 さて、ソロプレイヤーなら自分のミスは自分で何とかする物。そしてこのぐらいなら俺でも何とかなる。ミカヅキもその辺分かっているから戦列を維持するように言ってくれた。

 なら、その期待に応えないとな。匂いとかもう鼻を麻痺させちまえばいいわ。


「ふっ……」

 俺は突撃してきた酸の山羊を横に跳んで避ける。


「なるほどね。」

 が、酸の山羊は俺の居た場所を駆け抜けると一度ストップした後反転して再び俺の方に向かってくる。

 どうやら動物型の定番としてホーミング性能付きのようだ。


「それなら、定番ホーミング対策心得の1!」

「メエエエエェェェ!!」

 俺の後ろから羊の鳴き声が聞こえ、それと同時にロトンキマイラの身体から複数の酸っぱい匂いを持った物体が飛んでくるのが分かる。

 俺はメイスをしまうとその酸っぱい物体……酸の塊を避けつつアイテムポーチから2本の投げ矢を取り出し、俺と同じように酸の塊を避けつつもこちらに向かって突撃してくる2匹の酸の山羊に狙いを付ける。


「先に他の物をぶつけてぶっ壊しちまえ!」

 そして、ここだと思った瞬間に両手で1本ずつ投げ矢を放ち、酸の山羊に当たった投げ矢は酸の山羊を爆散させる。

 と、同時に俺の方に向かって落ちてくる酸の塊にも適当に投げ矢を投げて当たる前に爆散させる。


「凄いですねヤタさん。普通は2方向からの攻撃何て対応できませんよ。」

 時の引鉄が近くでは避けきれないと判断したのか俺の居る辺りにまで下がって振り続ける酸の塊を避ける。


「こんなもんただの慣れだ……よ!」

 俺は適当に時の引鉄の言葉に返しつつ、アイテムポーチの中からハレーがとにかく火属性を強化する形で作った特製の投げ矢を一本取り出して羊の頭に投げる。


「メエエエェェェ!?」

「今です!【ファイアゾーン】【ファイアショット】!」

 羊の頭に当たったそれは爆炎を上げてダメージを与える。

 と、同時に酸の雨が止んだ一瞬の隙をついてハレーたち遠距離組が一斉に攻撃を加えていく。


「拙い。」

「ヘイトを早急に稼げ!」

「カバー入ります!」

 ハレーたちの攻撃によってロトンキマイラの頭が回り、牛の頭が一番上に来てハレーたちの方を向く。

 それと同時にタンク班がヘイトを稼ぎに走り、アステロイドが万が一の備えとしてハレーたちの周りに戻ってくる。


「ブモオオオォォォ!」

「くっ……【カバーリング】」

 牛の頭が一啼きし、ロトンキマイラが突進を開始すると同時にアステロイドが【カバーリング】を発動してハレーたちを守る。


「念のために……」

 アステロイドならば恐らく大丈夫だろうが、万が一という事もあるだろう。

 それを考えて俺はロトンキマイラの進行方向、次に右前脚が来る部分に狙いを定める。


「【スモールサンクチュアリ】」

 そして発動したのはキツネトリイに付いている祝福の一つである【スモールサンクチュアリ】。

 【スモールサンクチュアリ】の効果によって俺が狙い定めた場所に直径1m程のセーフティエリアの様な物が発生する。


「ブモッ!?」

 さて、俺としては突進が止まればいいな程度の気持ちで使った【スモールサンクチュアリ】だが予想外の効果が出てしまった。


「へっ?」

「チャンスよ!!」

 【スモールサンクチュアリ】を踏みつけたロトンキマイラが右前脚を弾かれてバランスを崩したのである。

 そして、それを好機と捉えた長い黒髪の女性プレイヤーがロトンキマイラの脚の一本を掴んで背負い投げでもするような体勢に入り、


「彼女に続けえぇ!」

「「「おおおぉぉぉ!!」」」

 その意図を察したウラジオストさんの指示に従って近接組の攻撃が一斉に飛んでロトンキマイラの巨体が僅かだが宙に浮き、


「僕たちも続きます!」

 ハレーたち遠距離組の攻撃によってその巨体は完全に宙に浮く。


「おらあああぁぁぁ!!」

 そして、その勢いを生かす形で黒髪の女性がロトンキマイラを投げ飛ばし、轟音と軽い地震と共にロトンキマイラが地面に叩きつけられる。

 いやー、まさか【スモールサンクチュアリ】一つでここまで状況が一変するとは……。


「ブコピヒメバア……」

「まだ終わってないぞ!この機に乗じて一気に攻め抜け!」

 と、俺は一瞬気を抜いたところにロトンキマイラの呻き声と、ウラジオストさんの叱咤が届いて俺は気を入れ直す。

 うん。戦闘終了が表示されるまで油断は禁物だ。

 ただまあ、俺の前では各人による最大攻撃が次々に繰り出されているために、今回マトモな攻撃用祝福を持たない俺の出番は無さそうである。


「ブコピヒメバアアアァァァ!」

 と、ここでロトンキマイラが立ち上がり、羊の顔が一番上に来る。

 となると次に来るのはまたあの酸の雨か。


「【竜人化:スノクワイバーン】」

「なっ……!?」

 が、それを厄介と感じて俺が再び投げ矢を取り出そうとする前に前衛組から飛び出す影が有った。

 プレイヤーたちの頭上に跳躍したのは紫鎧さんだったが、その姿は空中ですぐさま変化した。


「……。」

 紫鎧さんの全身は鎧が鱗のような物に変化してボディラインがはっきり出る様な形で覆われ、背中からは立派な竜の翼が1対生え、頭からは青白い角が髪飾りのように2本生えて腰からは先端が雪の結晶の様な形になったスノクワイバーンの尻尾が生えていた。

 何故か腹や背中の辺りが微妙にエロい感じで鱗が無いけどそれは置いておいて、それよりも重要なのは鎧が無くなった結果として見えている紫鎧さんの顔と体型は……


 どう見ても女性だった。


 ああうん。アステロイドの変身でも思ったけど女性が変身するとエロくなるのは俺の気のせいなのかな?


「【アイスブレス】」

 と、そんなくだらない事を考えていたら周囲の気温が急激に下がったような感覚がするのと同時に【竜人化:スノクワイバーン】の効果なのか宙に浮かび続けている紫鎧さんの口腔内に青白い炎が溜まっているのが見えた。


「かぁ!」

「ブコピヒメバアアアァァァ!?」

 そして次の瞬間紫鎧さんの口から青白い炎が放たれ、その炎を受けたロトンキマイラは一瞬のうちにその全身を凍らせ……砕け散った。


△△△△△

取得アイテム(ヤタ)

ロトンキマイラの角×1

ロトンキマイラの皮×1

ロトンキマイラの体液×1

▽▽▽▽▽

基本的に女性が変身すると露出が増えます。


11/18 脱字訂正

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