148:VS狐-2
「じゃ、今言った感じで行きますか。」
「分かったわ。」
「了解ですよぉ。」
打ち合わせを済ませた俺、ミカヅキ、アステロイドの三人は紫色に輝くボスゲートの中に入っていった。
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インスタントエリアに入ったところで俺が一瞬何かが縮むような感覚を感じた後に百目狐との戦闘が始まる。
恐らくだが百目狐と戦うのが2回目である俺と、初めてであるミカヅキとアステロイドの間でムービーが発生することによる時間差を埋めたために妙な感覚を俺が感じたのだろう。
ま、それは置いておいてだ。
「コオォーン」
「やっぱり見られているか?」
俺はすぐ隣に居るアステロイドとの比較によって存在感を薄くしたミカヅキに問いかける。
「しっかりと見られていますね。暗殺は無理かと。」
俺の質問にミカヅキは残念と言った様子で答える。
しかしまあ、仮にミカヅキが百目狐に知覚されなければ簡単に倒せる可能性も有ったんだが……まあ、それはいつも通りの無い物ねだりか。
「それじゃあ、予定通りいきますかぁ?」
「だな。」
俺は≪四足機動≫を発動させて一気に百目狐に接近する。
「『最初っから飛ばすぜぇ!』」
「コンコンコーン」
そして≪大声≫によって注目を集めつつ接近した所でクロノキョロウを右手で振りぬき、続けて左手で掴みかかろうとすると同時に≪噛みつき≫による連続攻撃を行う。
が、当然のように百目狐は俺の攻撃を最小限の動きで回避していく。
「私も行きますよぉ。【プロボック】」
「コン」
と、俺が攻撃を加えていく中にアステロイドも【プロボック】によってヘイトを稼ぎつつ攻撃に参加する。
だが、俺とアステロイド二人の攻撃だけでは密度が上がったと言ってもまだまだ隙間だらけであるため百目狐は難なく避けていく。
「『相変わらずの回避能力だなぁ!』」
「全くですね!」
「ココーン」
もちろん、ここまで避けられるのは想定内だ。
想定内でもこうして攻撃がまるで当たらないのは中々に辛いものがあるが。
「でも、これで詰み一回です。」
「コン!?」
だが、ここで突然アステロイドの影から伸びる様に戈が突き出されて百目狐の体を薄くだが傷つけ、百目狐は慌てて距離を取る。
そう。俺たちが当たらないのを承知で攻撃を続けてヘイトを稼ぐことによってただでさえ薄いミカヅキの気配はさらに薄まり、結果として百目狐の目でもミカヅキの攻撃を捉えられなくなったのだ。
「うし。当たったな。」
「ですねぇ。これは朗報です。」
「いいえ、攻撃が当たる直前に見られて攻撃に備えられてしまいました。どうやらもっとヘイトを稼ぐ必要がありそうです。」
体勢を整え直しつつ俺とアステロイドは喜ぶが、ミカヅキの言葉が確かならあれだけの猛攻の中でも百目狐はミカヅキの攻撃に直前で気づいたらしい。
なんつう目をしてるんだよあの狐は……
「まあいいさ。なら次はこれを使いつつ猛攻を仕掛けるだけだ。」
俺はメイスを収納すると、アイテムポーチから霧吹水を取り出す。
「目には霧ですかぁ。」
「私たちも目視出来なくなりますからその辺りの補助はお願いしますね。」
「分かってるよ。【ダークエンチャント】」
俺は【ダークエンチャント】によって腕に闇を纏った状態で≪四足機動≫によって勢いよく百目狐に接近する。
「『行くぜええぇぇ!!』」
「コンコン」
当然のように俺の攻撃を百目狐は難なく回避していく。
そんな俺の後ろではアステロイドがこちらに接近し、ミカヅキは再びその姿をくらませている。
「コ……」
「今だ!」
そして俺の右ストレートを百目狐が飛び上がって避けた瞬間に俺は手首のスナップで右手の霧吹水を地面に叩きつけて霧を発生させる。
「コン!?」
百目狐の視界が突然発生した霧によって覆われた瞬間俺は左手を伸ばして百目狐の体を掴む。
そしてその体を掴むと同時に【ダークエンチャント】の効果によって生じた闇が百目狐の体を蝕み、視界がほぼ0の霧の中であってもその位置をミカヅキとアステロイドの二人に知らせる。
「行きますよぉ。」
「【スイングダウン】!」
「コオオォォン!?」
と、ここでアステロイドとミカヅキが到達し、ミカヅキの振り下ろした戈とアステロイドの横に振りぬいた斧が百目狐に直撃してその体を大きく吹き飛ばす。
「コオォォ……」
「やりましたぁ。」
「いや待て……来るぞ!」
吹き飛ばされた百目狐がゆっくりと立ち上がり、体勢を整えるために霧の外に出た俺たち三人の中心にまで一瞬で駆けてくる。
「くっ……」
「間に合わないか!」
既に百目狐の全身の目は開かれ、目の前には臨界点間近な光球が浮かんでいる。
そんな百目狐の動きにミカヅキは姿を隠そうとし、俺はアイテムポーチからアイテムを取り出そうとするが間に合いそうにない。
「私が出ます。【エレメントライズ】【カバーリング】」
そんな中でアステロイドが斧を構えつつ前に出て、アステロイドが放った祝福によって俺とミカヅキの身体が保護される。
「【無……化:ス……ーレム】」
「オオォォン!」
そして、百目狐の全身から光が放たれる直前にアステロイドの全身が何かに覆われ、覆われきった次の瞬間には周囲一帯が百目狐の攻撃による光に包まれた。
「くっ……」
「大丈夫ですか!?」
以前一撃でPT一つを全壊させた攻撃であるが、アステロイドの【カバーリング】のおかげか俺とミカヅキに目立った被害は無い。
「俺は大丈夫だ。それよりもアステロイドが……」
俺はアステロイドの様子を窺う。
確かにアステロイドの防御力は俺やミカヅキとは比較にならないほど高いが、それでどうにかなるほど百目狐のあの攻撃は甘いものではないだろう。
「アステロイドなら大丈夫です。」
だが、ミカヅキは何故か心配していなかった。
そして俺も何故ミカヅキがそれほど心配していなかったのかすぐにその理由を知ることになった。
「ふふふ~いい攻撃ですねぇ~でも、ちょっと威力が足りなかったですねぇ~」
百目狐の攻撃によって舞い上がった粉塵が晴れていくのと同時に普段よりも間延びしたアステロイドの声が辺り一帯に響き渡る。
「な……。」
「あれが修行の成果と言ったところです。」
その姿は先程までの全身金属鎧の姿から大きく変わり、まるで岩の様な鎧を纏うようになっていた。
ただ、岩の様な鎧と言ってもどちらかと言えば丸みを帯びたフォルムであり、人で言う所耳が有る部分からは角のような飾りが生え、その角の根元と肩にはストーンゴーレムの体に刻まれていたのと同じような文字列が刻まれた円盤が設置されて緩やかに回転していた。
また、微かに見える部分や匂いの動きからして、胸と両足の踵にも同じような円盤が体に食い込むような形で設置されているだろう。
そしてここまで来て俺はアステロイドが何の祝福を使ったかを理解した。
「さて、ヤタさんにミカヅキさん~」
「ええ分かっています。」
「なるほどな。そう言う事か。」
今のアステロイドの姿はかつて俺が戦ったストーンゴーレムそのもの。そして百目狐の攻撃が放たれる直前に微かに聞こえた祝福の名称から考えても俺の考えは間違っていないだろう。
つまりはだ……
「一気に攻め立てますよ……」
「はい!」
「おう!」
アステロイドが前に一歩踏み込む。
「この【無機化:ストーンゴーレム】の力を使って!」
アステロイドはストーンゴーレムに変身したのだ。
大方の予想通りと言えば予想通りな変身でございます。




