129:霧の湖-4
俺は右手から左手へメイスをパスし、逆手でメイスを収納すると同時に右手に『剥ぎ取りの手』を装着する。
「ブ……」
「ヒ……」
牛頭と馬頭が俺に攻撃をするために動き始める。
続けて両手を地面に着き、足元に倒れている茸から素材を剥ぎ取ると同時に≪四足機動≫発動条件を満たす。
「モオオオォォォ!」
牛頭の斧が振り下ろされると同時に前に飛び出し、一歩目で『剥ぎ取りの手』を外して腰につけて二歩目でトップスピードとなって牛頭の斧を避けると同時に先の事を考えずにひたすら前へと進み始める。
「ヒイイイィィィン!」
そして、俺が前に進み始めると同時に馬頭が刺叉を俺に向かって突き出して霧を固めたような魔法の弾を散弾の様に撃ち出す。
「うおらああぁぁぁ!!」
俺は今居る足場から次の足場へと飛び移るが、その過程で体に馬頭が撃ち出した弾丸が掠って俺のHPを削ってくる。
だが、それを俺は耐え切って全力で逃走を始める。
「ブモオオォォ!!」
「ヒヒイイィィン!!」
後ろから牛頭と馬頭の声が聞こえてくる。
匂いが分かりづらいため正確な位置は分からないが、恐らくは俺を追って来ているのだろう。
それでも俺に出来るのはとにかく走り続ける事である。
「!」
そしてしばらく走ってだいぶ距離を稼いだと思われるところで、突然周囲から狙われているような気配を感じる。
「間に合え!」
俺が感じ取った気配は頭、左胸、首、右上腕、左手、右太腿の6か所。
それを感じ取った俺は右手を支点に全身を浮かせ、射線から可能な限り自らの体を離す。
「ぐっ……!?」
「「「ゲコゲコゲコ……」」」
俺の身体があった場所をショットフロッグの放った弾丸が突き抜けていくと同時に周囲から蛙の鳴き声が何重にもなって聞こえてくる。
そしてその中で元々左胸を狙っていた弾丸が俺の左腕に命中し、痛みと共に俺のHPを削ってくる。
「「ーーーーー!!」」
遠くから牛頭と馬頭の俺を追って来ていると思しき声が聞こえてくる。
周囲には複数のショットフロッグの匂い。と同時にショットフロッグが攻撃を行った以上はヌマヒトガタも恐らくは動き出しているだろう。
俺は一瞬だけこのまま逃げ続けて逃げ切れるかを考える。
結論。馬頭とショットフロッグの弾幕に牛頭とヌマヒトガタの直接攻撃が重なった場合は確実に飽和攻撃となるため、【獣人化:ウルグルプ】を使っても切り抜けるのは物理的に不可能と判断。
「なら、こっちだ!」
俺は痛む左腕を無視してアイテムポーチから帯気水を取り出して呑み干すと、手近な湖面から水中へと移動する。
「「「ゲコゲコゲコ……」」」
「ヒヒイイィィン!」
俺が水中に飛び込むと同時に湖上を大量の弾幕が行き交う。
どうやら間一髪だったらしい。
「!?」
だが、困難はこれで終わらない。
雪山が近くにあるためなのか湖の水は異様に冷たく、SPゲージと満腹度に影響が表れ始める。
どうやら、霧の湖で泳ぐためには≪耐寒≫が必要らしい。
「……」
だが、それ以上に拙いのは湖底の方から俺に向かって接近して来ている複数の何かだ。
匂いだけで分かる。明らかにこいつは地上も水中も関係無しにこの霧の湖に生息しているザコモンスターの中で最も強い。
「!」
俺は≪四足機動≫を使って全速力で湖底から迫ってくる何かと湖上のモンスターから逃げる様に泳ぐ。
≪四足機動≫の効果もあって俺は一気に距離を離していく。
「プハッ!」
そして距離を離して湖上のモンスターたちを振り切ったところで俺は水中から飛び出して、俺は再び走り始める。
「くぁzxcvbgrt!!」
と、ここで俺が飛び出して走り出したところで湖面を割り、水が無いことなどお構いなしに大量の触手が湖上に飛び出してくる。
触手の根元に見えるのは巨大な海月たちの一部。恐らくだが、傘の直径は5mは下らないだろう。
「流石に動きは鈍いか。」 だが、流石に地上では動きが鈍るのか海月の動きは遅い。
なので俺は海月に背を向けて再び走り出す。
「げ!」
と、ここで俺はHPゲージを確認してHPに対して継続ダメージを受けていることを確認し、走りつつも慌てて攻撃が直撃した左腕を確認する。
そこに居たのは俺の左腕に齧り付く巨大なオタマジャクシ。
「くそっ!」
「ギュ!?」
俺はすぐさまこのオタマジャクシが継続ダメージの原因だと判断して左腕に噛み付いて周囲の肉ごと無理やりオタマジャクシを引き剥がし、口の中で噛み砕く。
何かアイテムが手に入るが、自分の肉も混ざっているせいなのか不味い。
が、行為そのものは当たりだったのか継続ダメージは消え、代わりに出血の状態異常が付く。
俺の記憶が確かなら出血は大きな傷が出来るような攻撃を受けた時に出る状態異常で、しばらくすれば治るがそれまでに結構な量の継続ダメージが入るはずだ。
となれば、今までの諸々のダメージも含めると拙い領域にHPが突入することになるだろう。
「持ち込んだアイテムがガンガン消えてくなこの野郎!」
俺は傷口を塞ぐために走りながらアイテムポーチから薬草酒を取り出して傷口に直接かける。
出血の直し方はとにかく傷口を塞ぐことだ。
そしてHP回復アイテムには表記こそされていないが使い方を誤らなければ全てのアイテムに傷口を塞ぐ用法がある。
「ぐっ……がっ……」
左腕が焼けるように熱い。
『電子の女帝』が言う所の現実に近づくの影響はどうやらこんな所まで来ているらしい。
「アレは……」
と、俺の視界にセーフティエリアではないが小ぶりな石造りの建物が見える。
海月は既に追って来ていないが、代わりに周囲には再びヌマヒトガタやショットフロッグの匂いがし始めている。
このまま走り続ければこれらのモンスターに感知されるのは間違いないだろう。
「なら隠れるしかない。」
そして俺は建物の中に入って≪隠密≫を持たない者なりに気配を殺す。
「……。」
周囲のモンスターの気配が徐々に薄れていく。
そして完全に戦闘状態が切れた所で俺は安堵の息を吐いた。
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Name:ヤタ
Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.20 ≪メイス職人≫Lv.17 ≪掴み≫Lv.17 ≪四足機動≫Lv.17 ≪噛みつき≫Lv.18 ≪鉄の胃袋≫Lv.17 ≪嗅覚識別≫Lv.17 ≪大声≫Lv.17 ≪筋力強化≫Lv.17 ≪闇属性適性≫Lv.6 ≪嗅覚強化≫Lv.17 ≪蹴り≫Lv.15
控え:≪酒職人≫Lv.17 ≪器用強化≫Lv.13 ≪握力強化≫Lv.15 ≪方向感覚≫Lv.16 ≪投擲≫Lv.17
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初の携帯投稿だったり