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Hunter and Smith Online  作者: 栗木下
第1章:閉ざされた世界と巨大狼
12/249

12:西の森-2

「ふううぅぅぅ……強いな……」

 俺は苦戦を強いられていた。

 ウォークアップルに?違う。ウォークアップルなら牽制の石投げからインファイトに持ち込めば相応のダメージを受けるが確実に倒すことが出来るし、減ったHPはしばらく休めば回復するから何の問題も無い。

 あの後ももう7匹ほど狩って技能石も回収してある。


「キチュウウウィゥゥ!!」

「くっ!」

 俺が今戦っている相手の名は『イトキャタピラァ』。

 人間大の巨大芋虫で、口から強靭で粘着質の糸を吐いてくる魔物である。当然ながらその姿に嫌悪感を示す女性は多い。

 イトキャタピラァの主要な攻撃は糸による足止めとその巨体を生かした体当たり、それに強靭であるはずの糸を容易に切ることが出来る牙を使った噛みつき。


「うおらっ!」

「キグチュ!」

「うおっ!」

 俺のメイスで殴られたイトキャタピラァは奇声を上げながらも体勢を立て直して体当たりを仕掛けてくる。

 俺はそれを横に移動して避けるが、普段と違って追撃はしない。

 なぜなら、


「ググチュ!」

「また来たか!」

 イトキャタピラァは体当たりの直後にこちらの位置を正確に感知して粘着性の糸をこちらに向かって一直線に放ってきたため、俺は間一髪でそれを避ける。

 この糸が俺の苦戦している理由である。

 イトキャタピラァの糸は先程言ったように粘着質で放たれた後に別の何かに触れればその何かにくっつく性質を持っている。加えて単純な腕力では千切れない程度には強靭であり、俺が使っている武器が仮に片手剣や槍の様に切る攻撃を行える武器ならばくっついても切り離すことが出来るのだろうが、メイスではそれも出来ないため一度喰らっただけでも酷い目に合う。

 というか実際に初戦は糸の直撃を受けてしまって手痛い反撃を受けた。


「うらぁ!」

「ギュッ!」

 そのためイトキャタピラァを相手にする時はテンションを上げず、冷静にヒットアンドアウェイで一撃一撃を慎重に入れていく戦い方をしている。

 くそう。こんなのバーバリアンの戦いじゃねえ。いやまあ無謀な戦いをして死に戻りは嫌だからしょうがないけど。

 だが、このままだといつまでたっても終わらない。


「ぶっつぶす。」

「ギュブォ!」

 俺はイトキャタピラァに正面から駆け寄る。当然ながらその動きに反応してイトキャタピラァは糸を吐き出してくる。

 このタイミングで糸を喰らった場合間違いなくイトキャタピラァは引き寄せからの噛みつきと言う。自身の持っている攻撃の中で最も威力の高いコンボを狙ってくるだろう。

 なら、それを逆利用してやる。


 俺は吐き出された糸を左手で受け止める。すると次の瞬間に俺の≪筋力強化≫では抗いきれない程の力で俺はイトキャタピラァに引き寄せられ、イトキャタピラァはそんな俺に噛みつこうと醜悪な口を大きく開いて待ち構える。

 もちろん、俺には噛みつきを素直に受けてやる気などない。


「うらぁ!!」

 俺は空中で左腕を後ろに回すことによって糸を引っ張る。すると支えの無い空中でそんな事をしたため必然的に俺の右半身が前に出てくる。そしてその勢いによって俺の右手に握られているメイスがイトキャタピラァの顔面に叩きつけられ、その衝撃で口が閉じて糸が切られる。


「ハッ!ざまぁ!」

 好機と見れば一気に攻めかかる。それが火力も防御能力も低いと言われるメイスを使う俺の戦いに必要な事。

 だから俺は大抵のプレイヤーに嫌悪感を与え、内心で≪噛みつき≫が使う人の殆どいないスキルになった原因であろうイトキャタピラァの首に掴みかかってその位置を固定し、敢えて……


 噛みつく!


「ピギュアアアアァァァ!」

 微妙に張りのある皮を俺の歯が容易に食い破り、その下にあるイトキャタピラァの肉にまで歯が到達する。

 俺はイトキャタピラァのあげる奇声を無視して首を捻り、左腕を引き、一気にイトキャタピラァの首の肉を食いちぎる。

 口の中にクリーミーな味わいが広がる。だが、食事と言うのは視覚でも楽しむものなので、どちらかと言えば普通の感性を持っている俺には少々キツいものがある。

 だが、この程度でバーバリアンプレイを諦めたら男が廃る!

 芋虫が何だ!虫が何だ!タンパク質には変わりねえだろうがぁ!!


「うおおおおおおおぉぉぉ!!」

「ギチュアアアアアァァァッァ!!」

 俺はメイスによる重い攻撃と噛みつきによる軽い攻撃、それに左手の掴みによる攻撃の阻害を繰り返してイトキャタピラァを消耗させていく。

 無駄にクリーミーな味わいにも少しずつ慣れてきたし、虫を食べる覚悟もついた。それに攻撃の手段が増えたおかげでさっきよりも明らかに戦いやすくなっている。

 こうなればもうこの戦いの流れは俺の物だ。


「トドメ!!」

「グチュウウゥゥ…!」

 そして、最後の一撃。メイスで頭を勢いよく殴打した所でイトキャタピラァは一啼きしてからドサァという音と共に倒れた。


「ふう。何とかなったか。あれだな。このプレイスタイルを貫くなら相手の見た目とか気にしてたら駄目だな。」

 俺はメイスをしまい、イトキャタピラァからアイテムを剥ぎ取りつつそんな事を独り言で喋る。

 というか実際芋虫ぐらいで止まってたらこの先≪噛みつき≫を使いこなすのは無理だろう。居るのかは分からないがこの先明らかに有毒そうな魔物に噛みつく必要だって出てくる可能性があるわけだし。


「さて、だいぶ消耗したし、さっき見つけたセーフティポイントにでも行くか。」

 剥ぎ取りを終えた時点で辺りは大分暗くなってきている。だが、狩れた魔物の数は昨日よりもだいぶ少ない。ウォークアップルには確実にHPを削られ、イトキャタピラァには踏ん切りがつくまで苦戦を強いられていたからだ。

 俺は今の自分がいる場所から西の森の入り口まで日が暮れるまでに辿り着くのは難しいだろうと考える。

 なので、先程見つけたセーフティポイント。各エリアにつき一つ以上有る安全地帯の方がここから近いのを思い出してそこに移動することにしたのだった。

Q:何で≪噛みつき≫が不遇?


A:貴方は生の芋虫を噛めますか?


まあ、そんなところです。


07/29 誤字訂正

10/20 誤字修正

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巨大芋虫に嚙みつくのは流石に猛者過ぎるww
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