102:坑道-1
「暗いな。」
坑道に入って最初に感じた感想がそれだった。
坑道の中は入口や外の雪山に通じる道の周囲、それに数十m間隔ごとに灯された小さな松明しか明かりが無く、坑道と言うだけあって入り組んでいるので基本的には暗闇ばかりである。
なお、通路の幅としては広い所で5~6mで狭い通路では2m程である。
「とりあえず≪嗅覚識別≫を全開にしておくか。」
そんな坑道で俺は敢えて灯りとなるような物は出さずに≪嗅覚強化≫込みの≪嗅覚識別≫によって周囲の状況を把握しようと努める。
「……。」
まず生物が移動する関係で坑道の地面には雑多な臭いが染み込んでいる。それこそプレイヤーだけでなくモンスターの臭いもだ。
そこに加えて採取ポイントからはそこにしかない物がある関係で特有の匂いを放たれているため、その位置を把握することが出来る。
続けてそれらがどのような空気の流れに乗って移動しているのかを嗅ぎ取る事によって周囲の地形全体を把握。
最後にこの状態を意識し、維持し続ける。
「よし行くか。」
そして俺は坑道の中を進み始めた。
---------------
「人じゃないな……何となく炭っぽいか?」
採取ポイントでアイテムを回収しつつ坑道をしばらく進んでいると曲がり角の先が少し明るくなっており、同時に炭の様な匂いを俺の鼻は感じ取った。ただ、明かりは徐々に近づいてきている気がする。
ちなみに現在の姿勢は暗闇で誰も見ていない+地面の匂いを嗅ぎやすい+瞬間的な瞬発力に優れている+レベル上げという4つの理由から≪四足機動≫が発動できる体勢。つまりは四つん這いである。
「……。やるか。」
敵の正体はわからない。
が、周囲に他の匂いはしないので数は一匹と見ていいだろう。それに移動スピードも遅そうだ。
というわけで、俺は≪四足機動≫を発動したまま曲がり角から飛び出てまずは敵影を確認する。
そこに居たのは背中に真っ赤な火を灯らせた黒い巨大蛞蝓。
うん。キモい。別に噛み付けるけど。
「ウニ……」
「ふん!」
俺は壁を蹴って蛞蝓に接近するとすれ違いざまに蛞蝓に噛みついて、そのまま蛞蝓の後ろに移動。続けてメイスを抜いてその勢いそのままに蛞蝓の背中の火を消すように叩きつける。
「ウニュア!?ウニュ!」
蛞蝓は俺の一撃によって背中の火を消されると、メイスが離れた所で力んで再び自らの背中に火をつける。と、同時に周囲に火の粉を撒き散らして俺に多少のダメージを与えてくる。
どうやらこの蛞蝓は自分の意思で明かりを付けているらしい。何と言うか面妖な生物である。
「あ、別にいいか。」
まあ、動きも遅いし特に気にする事ではないのでそのままボコって終了である。と、同時に周囲は再び暗闇に包まれる。
そして剥ぎ取り。こんな物が手に入った。
△△△△△
コクスラグの粘液 レア度:2 重量:1
コクスラグの真っ黒な粘液。べたつくだけでなく可燃性の物体が含まれているのか良く燃える。
▽▽▽▽▽
可燃性……これは本格的な火属性武器を作れるようになるかもな。
「とりあえず、先に進むか。」
そして俺は再び≪四足機動≫を使って暗闇が支配する坑道の中を移動し始めた。
--------------
「コクスラグ以外はレッドスライムにゴブリンか。」
その後も採取ポイントで乾燥したトウガラシっぽいアイテム(明らかに臭いが違ったので効果は分からなかったが初めから別枠に分けられていた。)を見つけたりしつつ、暗闇から急襲することによって俺は敵を狩っていき、今は坑道の途中で腰を下ろして休憩中である。
と言ってもセーフティポイントではないので≪嗅覚識別≫による警戒を欠かす気は無いが。
で、コクスラグは先ほど戦った背中から火を噴く蛞蝓だ。動きも遅いので攻撃のタイミングに合わせて逃げるだけで簡単にノーダメージ撃破が出来る。ドロップ品は粘液以外だと炭とか目とか種火が手に入った。
レッドスライムは名前から分かるとおりブルースライムと同じくグリーンスライムの強化版だ。ただ、属性は氷ではなく火である。
こちらもまあ、特筆するようなことは無いな。普通に戦って倒せる。強いて何か特別な点を言うなら≪噛みつき≫を使って攻撃した時に食事効果としてレベル3の≪耐寒≫を30分だけ得られるぐらいか。後、味はイチゴな。
ドロップ品としてはグリーンスライムと同じく体液や薄皮などが手に入る。
ちなみにこいつも核が光っているのでどこに居るかは分かり易い。
最後にゴブリン。こいつらはRPGとかで有名なやつらなので説明はほとんどいらないだろう。身長1mちょっとで緑色の体表をし、集団で行動してそれぞれがそれぞれの武器を持っている。
ただ、現状ではこいつらが坑道で最も厄介なモンスターだろう。
なにせ常に4~5体で固まって行動し、スケルトンほどではないが連携行動もとってくるのだ。
おかげで俺の戦法としては物陰からまず松明を持ったゴブリンを噛み殺し、松明を足で踏み消してから突然の暗闇によって恐慌状態に陥ったゴブリンたちを一匹ずつ噛むか、殴るか、投げるか、蹴るかという戦術である。
「とりあえず、アイテムはだいぶ集まって来たし一度職人神の神殿に戻るか。」
で、現在時刻は分からないが俺の所有するアイテムの種類と数はかなり増えてきており、その内持ちきれなくなりそうなのでここら辺で帰るべきだろう。
ちなみ現在俺の周囲には明かりも何もない完全な暗闇の状態である。
「じゃ、行く……ガアッ!?」
そして俺が移動を始めようと立ち上がった瞬間。背中側に一瞬何かの匂いを感じると同時に俺は背中を切られた。HPゲージを見ると今の一撃だけで2割以上減っている。
「クソッ!何が!」
匂いは既に無い。が、俺は背中側に何者かがいると考えてメイスを振るう。
だが何にも当たらない。
「どうなってい……っつ!?」
再び背中側に何かの匂いがして俺は慌てて前に飛び出す。すると俺の背中が有った場所を何かが勢いよく通り過ぎる様な風切り音がする。
「そこか!」
俺は左手を出してその何かを掴むとその何かに向かってイワジュウジモンを叩き込む。
「グオン……!?」
イワジュウジモンの属性エフェクトである光が飛び散りその何かの姿が一瞬だけ露わになる。
その容貌を一言で表すならば死神。それが一番あてはまるだろう。
具体的に言うならば黒い襤褸を来た頭蓋骨と両腕だけの黄色い骸骨が黄色い刃の鎌を持っている。
そして何かの……いや、こうしてきちんと嗅ぎ分ければ硫黄と分かる匂いは鎌から漂っている。恐らくだがこのモンスターは攻撃の瞬間以外は音も匂いもしないモンスターなのだろう。おまけに骸骨なので恐らく熱源も無し。それに黒い襤褸なので明かり無しでは≪暗視≫があっても視認は難しいかもしれない。
「手前がそうか。」
だが、どれほど隠密に特化していようが正体が分かり、こうして掴んでしまえば問題は無い。
「オラオラオラァ!」
「グオオォォ……」
俺はそのままメイスを連打して死神モドキを一気に打ち倒す。
「うし。」
死神モドキが襤褸と鎌だけを残して消え去る。
そして俺は剥ぎ取り用ナイフを取り出して襤褸を突いてみる。するとこんなアイテムが出て来た。
△△△△△
サルファーサイスの襤褸 レア度:2 重量:1
サルファーサイスの纏う黒いボロ布。その布は一切の光を反射せず、音を吸収する。
▽▽▽▽▽
何と言うかミカヅキが好みそうなアイテムが出て来た。
それにしてもあそこまで気配が無いと坑道での厄介なモンスターランキングを変えないといけないな。サルファーサイス。戻ったらスレに注意勧告をしておくか。
そして俺は出口に向かって歩を進めた。
サルファーサイスは設定として攻撃の瞬間以外は臭いも音もしないようになっています。
10/09ルビ振り




