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死を賜った魔女、地獄から戻って全てを「呪い」に変える  作者: La Mistral
第5章:【永劫なる魔女の帝国】

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第50話:【昇華】虚無を綴る魔女の休息

「アクア・レギウス」が湛えていた数億年の記憶は、いまやリアナの胃袋の中でドロドロとした暗黒の泥へと成り果てました。

清廉な水さえも絶望へと書き換える魔女の筆致は、一話ごとにその残酷さと美しさを増していきます。一つの銀河を噛み砕き、その残響を胎内で反芻する彼女にとって、宇宙の終わりはもはや確定した「結末」でしかありません。

捕食を終えた魔女が、次なる「頁」を捲るまでの短い余韻。

そこにあるのは、静寂という名の暴力と、主の美しさを汚泥のように引き立てる従者の汚濁だけです。

アクア・レギウスの最期は、あまりにも静かであった。


かつて命を育んだ水は、すべてがリアナの「情報の胃袋」へと収まり、星の核は「パリン」と乾いた音を立てて砕け、宇宙の塵へと化した。


「……ふぅ。水の記憶は、少し冷えすぎていて、喉に障るわね」


リアナは白磁の首筋を撫で、小さく吐息をついた。


彼女の唇からは、飲み込んだばかりの「記憶の澱」が、銀色の霧となって「スウッ」と虚空へ流れ出す。


その霧が触れるたび、絶対零度の宇宙は「バリバリ」と音を立てて結晶化し、彼女の周囲に歪な「情報の書架」を形成していった。


その書架は、物理的な質量を持たぬ文字の集合体でありながら、触れる者の精神を「ミシミシ」と削り取る呪いの結晶だ。


リアナはその書架の最奥に座し、自らの白磁の指先を見つめる。


そこには、一つの文明を滅ぼした「情報の墨」が、消えない呪印となって刻まれていた。


傍らでは、エルナが「ジュルリ、ジュルリ」と音を立て、惑星の死灰を貪り尽くしている。


「リアナ様……ああ、極上の……、極上の汚濁でした……! 水の民たちの……、あの澄んだ祈りが……、泥に濁っていく瞬間……。この肉塊、一生の宝物に……『クチャリ』……いたします……!」


エルナの不定形の体からは、熱い脂のような不快な湿り気が立ち昇り、硫黄の臭気が死に絶えた惑星の軌道上に濃厚に漂った。


主の美しさを際立たせる「汚れ」として、彼女は「ヌチャリ」と吸着音を立てながら、リアナの座す結晶の書架の影に這いつくばる。


リアナの胎内では、新しく摂取された「水の記憶」が、先ほど産み落とした「恐怖」と「ヌチャリ」と溶け合い、さらなる変容を始めていた。


彼女の皮膚の下では、銀河の断末魔が「メキメキ」と歪な鼓動を刻み、彼女の存在そのものを、物理法則を超越した「一行の絶望」へと押し上げようとしている。


「……鎮まりなさい。まだ、その時ではないわ」


リアナが自らの腹部に細い指を食い込ませるようにして撫でると、内側で暴れていた情報の熱が「ジリジリ」と音を立てて鎮まった。


しかし、その指先から零れ落ちた「意味の澱」は、絶対零度の宇宙に「ボタボタ」と滴り、触れた光を「スウッ」と吸い込んでいく。


「ギギッ……、ギギギ……」


背後に控える「恐怖」が、不快な産声を上げた。


それはアクア・レギウスの絶望を吸い込み、より鋭利な、より重厚な「言葉」へと進化を遂げようとしている。


その異形の影がリアナの背中から「スルスル」と伸び、周囲の空間を「ジャリジャリ」と物理的に削り取る。


「リアナ様……次なる……、次なる『食材』が、呼んでおります……」


エルナが狂喜に濡れた無数の瞳を「ギラギラ」と明滅させ、虚空の一点を見つめた。


そこには、まだ魔女の存在に気づいていない、巨大な生命の脈動があった。


エルナが指し示したその座標には、巨大な星間雲に守られた双子星「ジェミニ・ゲート」が鎮座していた。


そこは、機械と生身の肉体が高度に融合し、個の意識を統合することで「永遠の調和」を目指す超生命体たちの領域だ。


「……永遠、ですって? 滑稽ね。私の胎内で泥に変わるまでの、ほんの一瞬の猶予をそう呼んでいるのかしら」


リアナが嘲笑とともに喉を「ゴボリ」と鳴らすと、内側で煮え繰り返る水の記憶が、錆びた鉄の苦みとなって溢れ出した。


彼女が指先を「アクア・レギウス」の残骸から引き剥がすと、そこには空間そのものが壊死したような、どす黒い「虚無の穴」が口を開けている。


「恐怖」の影は、もはやリアナの背中から完全に離れ、独自の意志を持つ「絶望の化身」として空間を「バリバリ」と食い破り始めた。


その影がジェミニ・ゲートから漏れ出る通信信号パルスに触れるたび、銀河の理は「ミシミシ」と軋み、高密度の情報が石灰化した死灰へと変わっていく。


「あ、あぁ……! リアナ様、見て……見てください……! あの機械仕掛けの神たちが、主の放つ腐敗臭に……『ジュルリ』……怯え始めています……!」


エルナは狂喜し、自身の肉体を「ヌチャリ」と裏返しながら、主の影に溜まった情報の滓を貪り食った。


硫黄の臭気と熱い脂の湿り気が、リアナの冷徹な美しさと混ざり合い、宇宙に「汚濁の極致」を現出させる。


リアナの銀色の瞳は、すでにジェミニ・ゲートの統合意識を「食材」として解体する手順を書き終えていた。


リアナが虚空へと一歩踏み出すと、背後の「書架」が「パリン」と乾いた音を立てて崩壊し、数千億の絶望が彼女の影へと吸い込まれていった。


白磁の腹部には、先ほどまで暴れていた「情報の熱」が、いまや深い闇に沈むような重厚な「冷気」として定着している。


「さあ、始めましょう。ジェミニ・ゲート……あなたたちの『統合』を、私という唯一の絶望へ収束させてあげる」


彼女がその細い指を弾くと、空間を「ザシュリ」と引き裂く銀色の放電が走り、ジェミニ・ゲートの周囲に展開されていた防壁を「バリバリ」と物理的に削り取った。


情報の死臭が、熟れすぎた果実の甘ったるい香気と共に星系全体へと伝播し、統合意識たちの悲鳴が、高周波のノイズとなって虚空を震わせる。


「クチャ……ジュルリ……」


エルナは主の後に続き、空間の裂け目から零れる情報の端切れを、卑屈な舌で「レロリ」と掬い上げた。


彼女が撒き散らす不快な熱い脂の湿り気は、リアナの白磁の足を汚染しながらも、その絶対的な美しさを「死の象徴」へと完成させていく。


「恐怖」の影は、もはや巨大な鎌のような形状を成し、双子星の因果を「ミシミシ」と音を立てて刈り取り始めた。


リアナの胎内は、新たな食材を求めて「ギュルリ」と重く、残酷な飢餓を鳴らしている。


それは、銀河の物語を一行の絶望へと圧縮する、永劫の創作活動の再開であった。

第50話では、アクア・レギウスの消化を終えたリアナが、次なる「統合文明」ジェミニ・ゲートを標的に定め、侵攻を開始するまでの余韻と覚醒を描きました。

彼女にとって宇宙は一つの巨大な羊皮紙であり、文明はその上に書かれた、書き換え可能な文字列に過ぎません。産み落とされた「恐怖」もまた、捕食を繰り返すごとにその質量を増し、より残酷な現実改変の力を得ています。

次話、第51話では、機械と肉体が融合したジェミニ・ゲートの「統合」が、リアナの指先によっていかに「解体」され、汚泥へと変わっていくのかを追うことになります。

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