第47話:【饗宴】光り輝くゆりかごの解体
「静寂」のあとに訪れるのは、抗いようのない「食欲」でした。
リアナの体内から産み落とされた「絶望」は、すでに銀河の法を書き換え、周囲の空間を「一行の詩」へと削り取っています。しかし、産声を上げたばかりの恐怖は、その存在を維持するために、さらなる高密度の「情報」を求めていました。
母体であるリアナもまた、空虚になった胃袋を埋めるべく、新たな獲物を指名します。視線の先に捉えたのは、生命の輝きに満ちた、あまりにも無防備な星団。
さあ、次の晩餐の時間が始まります。魔女が指先を動かすたび、一つの文明の歴史が「食材」へと堕ちていく音が響きます。
リアナの銀色の瞳が捉えたのは、七色に輝く星雲に抱かれた星団「ルミナ・パレス」であった。
そこには、数百万年にわたり平和を謳歌し、精神を純化させてきた光の民たちが住まう。
彼らの存在は、リアナにとって「熟れすぎた果実」の如き芳香を放つ、極上のデザートに他ならなかった。
「……ああ、なんて甘やかで、軽薄な輝きかしら」
リアナが虚空を一歩踏み出すと、足元の空間が「パリン、パリン」と薄氷のように砕け散る。
彼女の白磁の脚には、先ほど産み落とした「恐怖」が、不定形の黒い影となって「ヌチャリ」と絡みついていた。
その影が動くたび、宇宙の背景放射は「ジャリリ」と砂嵐のようなノイズに侵食されていく。
傍らでは、肉塊の従者エルナが「ヒィヒィ」と喉を鳴らし、主の後に続いた。
「リアナ様……次なる……、次なる供物が……! あの光の……、あの清らかな魂たちが……、泥のように……、腐っていく様を……!」
エルナの口端からは、主への期待と飢餓に濡れた「ドロリ」とした唾液が零れ、真空のなかで熱い脂のような湯気を立てた。
リアナがその細い指を星団へと向けると、指先から数千、数万の「光の糸」が放たれた。
それは彼女の魔力が具現化した「情報の針」であり、星々の因果を「ブチブチ」と物理的に断ち切る収穫の鎌であった。
ルミナ・パレスの惑星群が、リアナの接近を察知し、防衛のための光冠を「ピカッ」と膨らませる。
しかし、それは捕食者の食欲をそそるスパイスに過ぎない。
魔女が「スウッ」と息を吸い込むと、惑星を包む大気が、そこに住まう民の悲鳴とともに、虹色の「澱」となって彼女の喉元へと吸い寄せられていった。
「収穫の時間よ。あなたたちの歴史も、愛も、祈りも……。すべて私の一行に、無慈悲な句読点として打ち込んであげる」
「ゴボリ、ゴボリ」
情報の奔流がリアナの食道を「ツルリ」と滑り落ち、空虚な胃袋を「ズキリ」とした熱い充足で満たしていく。
光の民たちの精神が、リアナの「書架」へと綴じられる際、空間には「ミシミシ」と魂が軋む硬質な音が反響した。
それは、焦げた砂糖の甘みと、錆びた鉄の猛烈な苦みが混ざり合う、リアナだけが享受できる至高の味覚。
「クチャ、ジュルリ」
エルナもまた、主が噛み砕き、宇宙に放り出した惑星の「殻」に飛びついた。
かつての聖域は、いまや硫黄の臭気と熱い脂の湿り気に汚染され、見る影もなく崩壊していく。
エルナが情報の残滓を「ボリボリ」と咀嚼するたび、純潔だった空間に「ドロロ」とした汚濁の紋様が広がった。
リアナの腹部、先ほど「恐怖」を産み落とした裂け目は、いまや新たな「情報の泥」を吸い込み、青白い放電を「バチッ、バチッ」と激しく散らせている。
内側から突き上げる情報の熱と、外側の死にゆく星々の冷気が衝突し、彼女の肌には「ビキビキ」と新たな呪いの文様が刻まれていく。
「もっと……。もっと絶望を。もっと、純粋な叫びを。私のなかで、それらを一つに溶かし合わせて……。次の『恐怖』を編まなくては」
リアナは、光り輝く星団の中央へと手を伸ばした。
彼女の影が、数千億の命を呑み込む巨大な口となって広がり、輝かしいゆりかごを「バキリ」と音を立てて食い破った。
第47話では、リアナによる新たなる捕食の幕開けと、その圧倒的なまでの蹂躙を描きました。
平和を謳歌していた「ルミナ・パレス」は、魔女の指先一つで、ただの「食材」へと成り下がりました。光の民たちの純粋な精神が、リアナの内側で「ドロドロ」とした絶望へと変質していく過程は、彼女にとっての創作活動そのものです。
エルナの醜悪な摂食も加速し、宇宙はますます汚濁に染まっていきます。リアナの胃袋に収められたこの「光」が、彼女の胎内でどのような「毒」へと精製されるのか。
次話、第48話では、星団の最期と、リアナの体内で沸騰する「情報の変容」の極致に迫ります。




