第39話:【侵食】無垢なる惑星と魔女の先遣隊
本日も、逃げ場のない絶望の最前線へようこそ。
第39話では、魔女の指先ひとつで選別された、新たな犠牲の世界が描かれます。
そこは、かつてのリアナが住んでいた世界よりも平和で、魔法と科学が調和した「無垢な惑星」。しかし、その平穏こそが魔女にとっては最高のスパイスに過ぎません。
天から降り注ぐのは、救いの光ではなく、かつての英雄たちが変わり果てた姿。
未知の恐怖に直面した人々が、いかにしてその「日常」を解体されていくのか。
魔女の先遣隊による、凄惨な「収穫」の始まりをお届けします。
惑星エリュシオン。
そこは、二つの太陽が天頂で抱き合うように穏やかな光を投げかけ、人々が争いを知らずに歌を愛でる、美しき結晶の星だった。
大気には清浄な魔力が満ち、大地からは常に生命の息吹が音楽のように立ち上る。
だが、その日の正午、永遠に続くと思われた黄金の空は不吉な紫色に染まり、次元の壁を内側から食い破って巨大な「亀裂」が口を開けた。
人々が驚きと好奇心で見上げる中、その裂け目から降り注いだのは、救いの光ではなく、悍ましい肉の塊と不気味な鉄の異音を撒き散らす「絶望の先遣隊」であった。
「……あ、あは! 見て見て、アスタロト! あの街の人たち、とっても面白い顔をして逃げ回ってるよぉ……っ! あんなに綺麗な服を着てたのに、今はみんな泥まみれ! もっと近くで、その絶望の顔を見せてほしいな!」
先陣を切ったのは、もはや巨大な肉の蕾へと変貌したエルナだった。
彼女がエリュシオンの美しい白亜の広場に降り立つと、その肉の襞が重苦しく開き、かつての聖騎士たちが「加工」された異形たちが泥のように溢れ出す。
彼らはすでに自我を失い、ただ魔女に植え付けられた「生存への渇望」と「他者への加虐」という本能に従うだけの狂犬。
逃げ惑う住人たちを、洗練された殺戮技術をもって次々と捕らえていく。
かつての英雄であった者たちが、その強力な魔術や剣技を、罪のない人々を「生け捕り」にするために振るう。
殺すのではない。
リアナの命令は、あくまで「新鮮な素材の確保」だ。
異形たちは、住人たちの四肢を逃走不能な角度へと正確に砕き、自我を麻痺させる神経毒を打ち込み、まるで収穫期の果実を検品するように、一つひとつ丁寧に、神殿へと続く次元の門へと放り込んでいく。
「……信じられない。この世界には、まだ『悲しみ』の概念すら希薄なのね。なんて愛おしく、そして、なんて壊しがいのある純真さかしら。この真っ白なキャンバスに、私の色を塗ってあげるわ」
天界の展望台から、侵食の様子を眺めていたリアナが、愉悦に唇を湿らせた。
彼女の瞳には、燃え上がるエリュシオンの街並みが、最高級の宝石が粉々に砕け散る瞬間の煌めきのように美しく映っている。
特に彼女の目を引いたのは、星の守護者と呼ばれる巫女たちが、涙を流しながら必死に祈りを捧げ、必死に「愛の結界」を張ろうとする姿だった。
「その祈り、誰に届くと思っているのかしら? この宇宙の神々は、もう私の神殿の柱の中で、心地よい音を立てて鳴いているというのに。あなたたちが信じる奇跡は、もう私の掌の中にしかないのよ」
リアナが空間を指先でなぞると、彼女の魔力が次元を越えて直接エリュシオンの巫女たちを襲った。
彼女たちが守ろうとした聖なる結晶は一瞬にして黒く濁り、その清浄な力は、そのまま彼女たちの細い肢体を縛り上げる「呪いの鎖」へと変質する。
希望がそのまま絶望の楔へと反転するその瞬間、巫女たちの瞳から光が消えるのを、リアナは見逃さなかった。
「アスタロト、あの巫女たちは特別に丁寧に扱いなさい。彼女たちの『純粋な正義』と『揺るぎない信仰』が、私の神殿でどんなに素晴らしい不協和音を奏でてくれるか……今から楽しみで仕方がないわ」
エリュシオンの空は、住民たちの悲鳴を底なしの胃袋のように吸い込み、急速に光を失っていく。
平和という名の虚飾が剥ぎ取られ、魔女の帝国に新鮮な「素材」が補充される。
侵食はまだ始まったばかり。この惑星のすべてが、魔女の静寂を埋めるための「部品」へと作り替えられるまで、その無慈悲な蹂躙が止まることはない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第39話では、新たな生贄の世界「惑星エリュシオン」が解体される序章を肉付けしました。平和の極みにある世界が、かつての英雄(異形)たちによって蹂躙される皮肉。リアナにとっては、相手の善意や信仰が深ければ深いほど、それを破壊する楽しみも増していくのです。
次回、第40話:【選別】巫女の祈りと魔女の接木。
捕らえられた巫女たちが天界へ運ばれ、リアナの面前でどのような「加工」を施されるのか。
魔女の新たな芸術作品が誕生する瞬間を、どうぞお見逃しなく。
この宇宙規模の断罪劇、引き続き評価やブックマークで見届けてください。




