第38話:【遠征】宇宙(そら)の彼方と魔女の眼光
本日も、終わりのない深淵へようこそ。
第38話では、この世界のすべてを「素材」へと作り変えたリアナが、その冷徹な眼差しをまだ見ぬ「外」へと向けます。
一世界の支配では満足できない、魔女の無限の渇き。それは救済の名を借りた、宇宙規模の侵食の始まりです。
完成された絶望の帝国から、次元の壁を越えて放たれる魔女の軍勢。
新たな獲物を捉えたリアナの冷酷な決断を、圧倒的なスケールで描き出します。
天界の神殿に響き渡る悲鳴の旋律は、もはや安定した背景音、あるいは心地よい子守歌へと変わり、リアナの底知れぬ退屈を埋めるには至らなくなっていた。
彼女は玉座から音もなく立ち上がり、神殿の最奥に位置する「次元の展望台」へと足を向ける。
そこは、この世界の理の外側――まだ絶望の色彩を知らぬ無垢な星々が瞬く「外宇宙」を覗き見るための、虚無への窓であった。
「アスタロト、見て。あんなにもたくさんの光が、まだ何も知らずに輝いているわ。自分たちがいつまでも安全だと信じて、愛や希望なんていう、脆くて下らない概念を抱きしめながら」
リアナが展望台の縁に白く細い指先をかけると、その指先から漏れ出した漆黒の魔力が、次元の境界線にガラスが割れるような鋭い亀裂を生じさせた。
視線の先には、美しい緑に包まれた未開の惑星や、精緻な機械仕掛けの文明を誇る異星が、まるで宝石箱の中身のように浮かんでいる。
そこには数億の命があり、まだ一度も魔女に捧げられたことのない、数億の「未知の悲鳴」が眠っているのだ。
「……あ、あはは! お姉様、新しいおもちゃ、いっぱいあるね! あの光ってる星、全部ひとつずつ握りつぶしたら、どんな音がするのかなぁ……っ! 楽しみで、胸がドキドキしちゃう!」
エルナの肉塊が、歓喜に全身を波打たせながらリアナの足元に縋り付く。
彼女にとっても、この世界の素材はすでに搾り尽くされ、新鮮な反応を返さない「使い古し」ばかり。
新たな生命をその手で解体し、自我が粉砕される瞬間の爆発的な快楽を、彼女の歪みきった魂は激しく求めていた。
「ええ、エルナ。まずはあの一番輝いている星から始めましょう。あそこの住人たちには、私たちの『完成した音楽』をいち早く届けてあげなきゃ。自分たちがどれほど無力で、全宇宙に逃げ場など存在しないのだと、その魂に刻み込んであげるのよ」
リアナが両腕を優雅に広げると、神殿の広場に配置された「生きた楽器」たちが、主の昂揚に呼応して一斉に共鳴を始めた。
柱に埋め込まれた異界の代行者たちの神経が限界まで引き絞られ、王たちの喉が血を吹き出しながら絶叫する。
その凄まじい密度の負のエネルギーが、リアナの魔力という触媒を得て、空間を無理やり抉じ開ける巨大な「侵食の門」を形成していく。
門の向こう側からは、未知の世界の、何も汚れを知らない穏やかな風が流れ込んできた。
だが、その清浄な風も、魔女の神殿に触れた瞬間にどす黒い毒気に汚染され、腐り果てていく。
リアナは背後に控えるアスタロトを振り返り、その冷酷な唇を三日月のように吊り上げた。
「アスタロト、軍勢を出しなさい。私たちの分かちがたい『平和』を、あの無知な星々に分けてあげるのよ」
魔王アスタロトが静かに頷き、その巨大な影を広げると、神殿の暗がりから、もはや人間としての形を留めない異形たちが次々と這い出してきた。
かつての高潔な騎士や慈悲深い聖職者たちが、魔女の果てなき実験によって作り替えられた、死ぬことのない「絶望の伝道師」たち。
彼らは次元の門を潜り、幸福な夢を見る異世界へと、その醜悪な爪を伸ばし始めた。
天界の神殿は、いまや一世界の中心などではなく、全宇宙をその暗黒で飲み込むための「侵食の心臓」へと進化したのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第38話では、復讐の舞台を次元の壁を越えた「外宇宙」へと拡張しました。
一つの世界を完璧に支配し、すべての素材を使い切ったからこそ生まれる、魔女の底なしの虚無感。それを埋めるために別の文明を蹂躙するという、救いようのない次元侵略の幕開けです。
次回、第39話:【侵食】無垢なる惑星と魔女の先遣隊。
平和を享受していた人々が初めて目にする、天から降る「地獄の軍勢」。
魔女の新たなコレクションとして、彼らがどのように「加工」されていくのか。
引き続き、この終わらない断罪の旅路を見届けてください。




