ep.1:【断罪】裏切りの火刑台
初めましての方も、前作から追いかけてくださっている方も、目にとめていただきありがとうございます!
第2作目は、前作の『万能薬師』とは打って変わって、少しダークで、けれど最高にスカッとする「魔女の復讐劇」をお届けします。
絶望の淵に立たされた主人公が、どうやって王国を、そして裏切った者たちを追い詰めていくのか。
ぜひ、最後まで見届けていただければ幸いです。
「魔女め! 火に焼かれて、その穢れた魂を浄化するがいい!」
鼓膜を突き破らんばかりの怒号。冷たい石畳に顔を押し付けられた私の耳に、かつての婚約者・エドワード王子の声が突き刺さる。
広場を埋め尽くす民衆からは、罵声と共に容赦なく小石が投げつけられていた。こめかみに当たった石が皮膚を切り、熱い血が頬を伝う。
「お姉様、どうしてあんな恐ろしい魔法を使ったのですか……? 私、ずっとお姉様を信じていたのに……っ」
王子の隣で、絹のハンカチを握りしめ、さめざめと涙を流しているのは義妹のエルナだ。
(ああ、本当に……反吐が出るほどの名演技ね)
心の中で冷たく吐き捨てる。
私がこの十年、身を削るようにして国のために注いできた癒やしの魔力。それを「自分の聖女の力だ」と偽って手柄を横取りしたのは、他でもない彼女だ。
それどころか、用済みになった私を排除するため、彼女は自ら怪我を負い、「姉に禁忌の呪いをかけられた」と嘘の告発をした。
愛を誓ったはずのエドワード王子も、真実を確かめようともせず、ただ美しいエルナの涙を信じて私をここに送ったのだ。
足元には、乾燥した薪がうず高く積み上げられている。
鉛色の空を見上げれば、そこにあるのは重く淀んだ曇天だけ。「隣国の冷徹皇帝」が差し伸べてくれたような救いの手は、今の私にはどこにもない。あるのは、鉄の鎖が肌に食い込む鈍い痛みと、愛した人々からの蔑みの視線だけだった。
「処刑を始めよ! この女の存在そのものが、我が国の恥だ!」
王子の冷酷な合図。放たれた松明が薪に触れた瞬間、赤い舌が這い上がり、私の足を舐める。
熱い。焼けるような、引き裂かれるような激痛が全身を駆け巡る。
けれど。
「……あ、あはは……っ、あはははは!」
喉の奥から、乾いた笑いが溢れ出した。
死を目前にして、私は猛烈な滑稽さを感じていたのだ。こんな紙切れよりも薄っぺらな愛を信じ、こんな腐り果てた国を必死に支えてきた自分が、あまりにも馬鹿らしくて。
皮膚を焼く熱さが限界を超えた時、その熱は逆流し、私の芯を氷のように凍りつかせていく。
(ああ、そう。私を魔女と呼ぶのなら……望み通りにしてあげるわ)
その瞬間。私の魂の奥底で、何かが「パキリ」と音を立てて砕け散った。
かつて聖女として授かっていた清らかな力を、自らの意志で粉々に踏みにじる。
代わりに入り込んできたのは、どす黒く、重く、果てしない泥のような力。
「だったら、本当の魔女になってあげる。――あなたたちが、二度と安眠できないほどのね」
私の低い呟きと共に、周囲を囲んでいた赤々とした炎が、一瞬にして禍々しい「漆黒」へと変貌した。
熱を失い、代わりに周囲の生命力を吸い取るような冷たい闇の炎。
「な、なんだ!? 炎が、黒いだと……!? 騎士、騎士を呼べ!」
エドワード王子の顔が、初めて恐怖に歪む。その醜い顔が見たかった。
私はメラメラと燃え上がる黒炎の中から、ゆっくりと立ち上がる。鎖はすでに、影のように霧散していた。
逃げ惑う民衆と、恐怖のあまり失禁して腰を抜かしたエルナを、私は高みから冷たく見下ろした。
泣き叫びなさい。後悔しなさい。
ここからが、あなたたちの地獄の始まりよ。
第1話をお読みいただきありがとうございました!
ついに覚醒してしまった魔女……。
聖女として尽くしてきた彼女が、全てを投げ捨てて選んだ「黒い炎」の行方はどうなるのか。
次回、第2話「【深淵】地獄の門番との契約」。
炎の中から消えた彼女の前に現れたのは、美しくも恐ろしい「あの男」でした。
本日中に第2話も投稿予定です!
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