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似ている転校生

無事、誰にも会わずに帰宅すると父の車がない事に気が付く。まだ帰ってきていないのかと携帯を見ると案の定「今日は帰れない」と連絡が来ていた。

それに返事を返しながら汚れを洗い流す為に風呂場に向かう。

スッキリした幸は救急箱を持って自身の部屋に戻ると酒呑童子が窓を開け、外を眺めている姿が目に入った。興味が唆られる物でもあったのかと純粋に気になった幸はこっそりと酒呑童子の背後から覗く。しかし、窓の外に居たのはここ最近で見慣れてしまった鬼火だった。

閻魔が送った伝伝火だと察し、中に入れるといつもの様に大きく燃え上がり閻魔の姿が映し出される。


『結果を聞くまでもない。常闇姉弟は無事冥界に辿り着いた』


閻魔の言葉を聞いて幸は安堵の溜息を一つ吐くと、床に座りながら俯き口を開く。


「閻魔……出来ればでいい、たまには二人の時間を作ってやってくれ」


地獄にも種類がある。その人の罪によって行き先が変わる故、二人が同じ場所に行くとは限らないのだ。無理なお願いをしているのは百も承知だったがどうしても一緒に居させてあげたかった。


「安心せい、奴らの罪は同じじゃから離れる事は無い」


人間の魂もあまり奪っていなかったのかそこまで辛い地獄でもないそうだ。後は彼女らの気持ちと行動次第だろう。きっとすぐに罪を償って新しい人生を歩み出す。

今度は辛い環境でない事を願って幸は救急箱と向き合う。


「そう言えば人間に見られたがいいのか?」


酒呑童子の言葉で今まで忘れていた中里達の事を思い出した幸は消毒液の染み込んだガーゼを手に持ったまま固まる。

戦っている姿は見られていないが中里達に起こった不可解な現象を救ったのは幸で逃したのも幸自身だった。あれが一体何だったのか問い詰められては困る。


『あやつらの記憶はこちらで消しておこう』


一体どうしたものかと頭を悩ませていると閻魔が軽々と行って退けた。そんな事が出来るのかと驚きながらも一安心していると幸はある事を思い出す。


「あ、それと閻魔に頼みたい事があるんだ」

『頼みたい事とな』

 

今までの幸はその場にあるもので何とか凌いできたが今後も都合良くあるとは限らない。この先フード男の様に強い奴らが相手となるのなら()()は必ず必要になる。


「セフルを探して欲しい」

「セフル?」

 

酒呑童子は幸が何を言っているのか分からない様子だったが閻魔は理解したのか頷き了承していた。


「頼んだ、じゃ……俺は寝る」


手当も終わった事で急に来た睡魔に襲われる。しかし、酒呑童子は寝る気分ではないのか眉を顰め、不満気な表情をする。

 

「もう寝るのかよ」


「もう」と言うが時刻は深夜二時をすぎていた。体力も妖気も限界を迎えた幸には今すぐ睡眠が必要だった。それに、寝なければ今日の学校に間に合わなくなってしまう。流石に二日連続で休めば両親が心配するだろう。


「あー、これで動画なりゲームなり勝手に遊んでくれ」


相手をしている余裕が無い幸は自身のタブレットを渡し、簡潔に説明した後に布団に包まった。数分もしないうちに聞こえてくる静かな寝息だけが部屋に響く中で、残された酒呑童子はタブレットを興味深くいじり出す。それを閻魔は物珍しそうに眺めるだけの空間となった。


眩い光が部屋に差し込んできた所で目を覚ました幸が一番最初に見た光景は床に寝転びながらチェスのアプリでコンピューターと勝負をしている酒呑童子の姿だった。


「……ずっとやってたのか」


タブレットを渡してから約四時間ずっとやっていたらしいが勝敗画面を覗いた所、一勝もしていなかった。現に今もキングが端に追いやられており、どうするか悩んでいる様子だったが多分負けるだろう。


「……あ、風呂勝手に使ったからな」


手当もしたのか酒呑童子の体に包帯が巻かれ、救急箱の中身は乱雑になっていた。これでは風呂場も怪しいと思った幸は後で確認しに行く事を決め、救急箱を直すついでにズレてしまった包帯を巻き直す。数時間しか経っていないので当たり前だが傷口は対して変わってはいなかった。だが、服で隠れるので誰かに見られる事はないだろう。

一番厄介なのは酒呑童子に付けられた左頬の殴り傷だ。どう頑張っても隠す事が出来ない為、治っている事を願ってガーゼを取ると完璧とまではいかないが目立たない程にまで治っていた。


「これなら大丈夫か」


付けた張本人は未だコンピューターに勝てない様で悔しそうに再戦し続けていた。この様子だと一勝するのに時間が掛かるだろうと横目で見ながら準備を始める。

 

「外出てもいいが人間にはバレるなよ」

「分かってるよ」


少し心配だったが冥界や魔界に帰る事が出来ない以上行く宛てもないだろうと考え、幸は学校に向かった。

教室に入ると中里は何事も無かったかの様に友人と楽しく話していた。本当に記憶が消えているのか疑っていると「今日有名な洋館の心スポ行ってくる!」と得意げに話していたのを聞き、安堵と呆れが同時に押し寄せる不思議な気持ちになったが取り敢えず記憶が消えた確証を得た幸は窓際の一番後ろにある自身の席に座る。

すると、タイミングよく予鈴が鳴り、担任の教師が姿を見せる。一日の始まりでもあるホームルームを聞く為に、視線を担任に向けるとやけに落ち着きの無い様子だった。

不安や緊張という悪い意味ではなく、どちらかと言えば喜びや嬉しいといったプラスな感情だ。それには他の生徒も気付いた様で担任に問いただしていたがうまく誤魔化されていた。


「えー、ホームルームを始める前に今日は転校生を紹介します」


担任の「転校生」という言葉にクラス中が騒めき出す。それもそうだろう。転校生というだけでも珍しいが、時期も微妙なのだ。

大体は年度や学期の変わり目に合わせて予定を組む事が多いが今は夏休みに入る少し前、それも高校生になって初めてのだ。

もちろんどの家庭にも事情がある為、おかしくは無いのだがそんな細かい所を気になってしまうのが人間の性だろう。

まだ見ぬ人物に生徒達はいろんな憶測を勝手に話し出す。それを担任が静かにさせ転校生を教室に呼ぶと生徒達は口を閉じ、扉の開く音が部屋中に響き渡る。


「は……っ」


現れた人物に開いた口が塞がらなかった───似ているのだ。

しかし、学校にいる事自体がありえない。ましてや見た目まで完璧な人間の姿になっているなんて奴にそんな力はないはずだ。

他人の空似かもしれないと頭を軽く振り、もう一度見ると転校生は幸を見ながら愉快そうに口元を吊り上げる。

 

「お前……っ!!」


やはり空似などではなかったと勢いよく立ち上がってしまった幸は冷や汗を流しながら紹介された「鬼城朔夜(キジョウサクヤ)」という人物を見つめる。


「蓮見くんと……知り合いだった?」


担任の戸惑った声が幸を現実に引き戻す。教室内は静まり返り、全員の驚いた視線を浴びている事に気が付いた幸は黙って椅子に座る。

その行動を愉快そうに見ていた鬼城が指を指しながら初めて口を開く。


「俺、幸の隣がいいんだけど」


聞こえてきた発言と声で他人の空似なんかではないと確信した。

担任は鬼城の申し出を了承し、幸の隣にしだり顔で座る。一方で何が何だか理解が出来ていない幸はホームルームが早く終わる事を願って視界に入れない様に外を眺め続ける。


ホームルームが終わると同時に隣に座っている鬼城を連れて教室を出ようとした途端、都合良く担任から校内を案内するよう頼まれたので案内はせず屋上に一直線に向かった。


「お前っ!これはどういう事なんだ!!」

「うるせーよ」

「酒呑童子が人間に紛れ込むなんて聞いた事がないぞ……」


頭を抱える幸に酒呑童子は顔を背けながら不満そうに文句を言い出す。


「家に居たってつまんねーし……」

「別にずっと居ろとは言ってないだろ」


人間にバレない様にしろとは言ったが家から出るなとは一言も言ってはいない。行きたければ外でも冥界でも魔界でも好きにすれば良い。

だが、拗ねて聞く気がない酒呑童子にこれ以上文句を言っても無駄だと判断した幸は話題を変える。

 

「どうやって人間になったんだよ」

 

立派に生えていた二本の角は綺麗さっぱり無くなっており、長かった髪も短く整えられて人間界で流行っているオシャレな髪型になっていた。

酒呑童子だと最初から知らなければ完璧に人間だと思っていただろう。


「閻魔が何とかしてくれた」

「はぁ?」


閻魔が何やってんだよと思う反面、何でも出来るなと素直に感心してしまった。しかし、ただ人間にしてくれと頼んだ所で閻魔が素直に願いを聞くとは思えない。


「一体なんて言って人間にしてもらったんだよ」

「そんなの簡単だ。お前と離れている間に何かあったら困るだろ」


得意げに言い放つがそもそも学校に行っている間動く事が出来ない幸の代わりに酒呑童子を助っ人として人間界に送り込んだ筈だが、一緒に同じ学校に行ってしまえばどちらも動けなくなり何の対処も出来なくなってしまう。

それを閻魔は理解して酒呑童子を人間にしたのだろうか───いや、きっと忘れているだろう。やはり酒呑童子をこちらに寄越したのはただ単に厄介払いだったのだ。

重たい溜息がこぼれ落ちる。


「それに、お前右腕使えないだろ」


酒呑童子の言葉に俯いていた幸は顔を上げる。医者ではないから何とも言えないが恐らく骨の一部が砕けているだろう。少し動かすだけでも痛みが走り、不用意に動かす事が出来ない。

だか、元が骨だったからなのかこのくらいなら数日で自然に治ると確信している自分がいた為、治るまで誰にも気付かれない様に自然に振る舞っていた筈なのだがまさか酒呑童子に見抜かれるとは思いもしなかった。

幸の怪我もあったからなのか閻魔はあっさりと返事をくれたらしい。目の前の酒呑童子は閻魔の事を「ちょろい」と小馬鹿にしていた。


「それと、閻魔からお前に渡してくれって頼まれた」


そう言うと酒呑童子はポケットから一枚の紙を取り出し、幸に渡す。明け方に話したばかりでもう情報を掴んだのかと仕事の速さに感心する。


「やっぱりまだここにいたか」


紙を受け取り確認すると、自身が考えていた通りの内容が書かれていた。

幸に渡す前に読んでいたのか酒呑童子は意味が分からないといった様子で疑問を投げかける。

 

「そこってお前の家だろ?今更そんなの調べて何になるんだよ」

「家の場所を調べてもらったわけじゃねえ」


紙には幸が死神だった時に使っていた住処の場所とちょっとした情報が書かれていた。


「閻魔と話してた時も言ってたけどよ、一体何を探してんだ?」

「今後戦う奴は常闇姉弟の様に話し合いで解決出来る相手じゃねえ───殺し殺されの域に達する」


そんな中、幸みたいな妖気の少ない半端者が生き残る為には一つしかないのだ。


「得物が必要なんだ」

「まさか……死神の鎌」

「ああ、まだ屋敷で俺の帰りを待っているらしい」


ずっと待っているだろうとは思っていたが実際にそうだったと知ると喜びから頬が緩んでしまう。

だが、ここで大きな問題点がある。死神の屋敷は魔界にある為、簡単に行く事は出来ない。


「酒呑童子、お前は魔界に行く方法を何か知ってるか?」

「昔は魔界と人間界を繋ぐ(ゲート)を得意な奴に創らせて行き来していたが、」


「得意な奴」と言う事は酒呑童子の力では行けないという事だ。多種多様の鬼を従わせたカリスマの王は流石だなと期待はずれの返答に肩を落とす。


「だよな……はぁ、仕方ない。アイツにだけは頼みたくなかったがそうも言ってられないか」

「アイツ?」


またしても幸の含みのある言い方を問いただそうとした酒呑童子だったが、タイミング悪く誰かが屋上に入って来てしまい話は中断となった。いつの間にか休み時間になっていたのか生徒が数人ほど屋上に集まり始めたので二人は教室に戻る。


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