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闇を操る者

先程下りてきたばかりの階段を駆け上がり、中里達と出会った隣の部屋に向かうとあまり物が置かれていない広間の真ん中で中里が泣きながら地面に這いつくばって友人の足に縋りついていた。

他の女子二人も泣いたり腰を抜かしたりとリアルな反応にただ事ではないのだと理解する。状況を確認すべく、中里に目を向けると下半身が暗闇に飲み込まれているかの様に何も見えなくなっていた。


「何かに掴まれてるのか」

「あれは幽霊なんかじゃねえな」


廊下に転がっていた箒の棒を手に取り、走って中里の足元目掛けて突き刺すが何かに当たった感触を感じれないまま闇は静かに中里から離れていった。

一体何だったのかは不明だが襲った本人がまだ居るのは確かだ。

 

「お前ら早く逃げろっ!!」


未だ驚愕の光景に腰を抜かして動こうとしない四人に幸は声を荒げる。その一言で我に返ったのか竦む足を必死に動かし、走って部屋を出て行く。

それを見届けてからやけに暗い部屋に意識を向ける。


「俺らの獲物を勝手に逃がしやがって」


突如聞こえてきた声に警戒し、目で探りを入れる。すると、地面から顔が見えない程の長い髪を垂れ流した四本腕の大男が姿を見せる。瞬時にこいつがこの屋敷を拠点としている魔妖怪なんだと理解し、幸と酒呑童子は身構える。

二人を敵だと認識した魔妖怪は自身の腕を活用して、闇から刀や斧を取り出し構える。

妖気からして恐らく中級妖怪。隙のない構えと異質感からただ物ではない事だけは分かる。

いつ襲って来てもおかしくはないこの状況に冷や汗が頬を伝う。


「おやめ」

 

緊迫した空気がただ追う中、女性特有の高い声が部屋中に響き渡る。その声を聞いた目の前の魔妖怪は構えていた武器を瞬時に消し、後ろを振り返る。


「バレへんよう動いとったんやけどなあ」


その視線の先に目を向けると、艶のある短い黒髪を揺らしながら下駄の音を響かせた人物が大柄魔妖怪の横に立つ。一見着物を着こなした普通の人間の女性に見えるが、明らかに大柄魔妖怪よりも妖気の量は上だ。


「弟者、人間共を追い」

「了解」


弟と呼ばれた大柄魔妖怪は地面の中に潜り込んでいく。人間共とは中里達の事を言っているに違いない。それに気付いた幸は急いで追いかけようと走り出すが───何かに足を掴まれ動きを封じられる。


「あんさんの相手はウチやさかい」

「くそ……っ!」

「アイツは俺が追う」


酒呑童子は弟を追って部屋を出て行く。中里達の事を酒呑童子に任せるのは不安が残るが致し方ない。今は他人の心配よりも自分の心配をした方が良いだろう。

先程から崩れない女の笑顔に恐怖を感じる。


「こんな所で死神はんにお会いするなんて、ウチ感激やわ」

「……何故俺の事を知っている」


幸から妖気を感じるとはいえ、死神の時と全てが同じな訳では無い。今までだって誰かに気付かれた事はなかった。初めての事に跳ね上がる心臓を必死に抑える。

しかし、その質問には答えるきが無いのか笑顔を向けられるだけだった。

 

「……お前らは一体何者なんだ」

「自己紹介が遅れました。ウチらは常闇姉弟(トコヤミキョウダイ)、闇に生きる者」


記憶を辿るが常闇という名前は一度も聞いた事がなかった。恐らく死神が死んでから名を馳せたのだろう。


「ウチが姉でさっきのデカブツが弟。似てへんやろ?」


片手を口元に添え、上品に笑う。

すると、足元から微かな振動が伝わり、一階に居る二人がやり合っている事を知らせてくれた。


「その弟さんは始まってるが、お前はいいのかよ」

「ちょいとウチとお話しましょうや。あんさんも聞きたい事ぎょうさんあるやろ?」

「……なら、足を離せ」


未だ表情は崩さないまま、足に絡みついていた物を外すと黙って見つめられる。恐らく質問を待っているのだろう。


「……今のは何だ」

「そっちの方が気になりますの?まあ、ええですよ。さっきも言うたけどウチらは闇に生きる者」

「つまり、闇を操っていると」


暗闇を自由に操る事が出来るのなら、中里の下半身を覆っていたのも地面から現れたのも武器を自由に出せるのも納得がいく。


「質問は終わりやろか?」

「何故、魔王を復活させようとしているんだ」


その質問を待っていたと言わんばかりに微笑む。

 

「魔王様が居てはった世界がウチは好きやったから手伝っとるだけや。死神はんも過ごしやすかったんとちゃいますか?」


以前の幸であれば確かに住みやすかったと答えたかもしれない。魔王が消滅し、結界が張られた事によって簡単に霊魂を喰べる事が出来なくなってしまった。そのせいで共食いをしだす者も現れ、今の魔界は常に殺伐としていた。

だが、魔王の存在に怯えながら生きるのも嫌だったのは確かだ。


「醜いモノは消しさり、常に美しい世界を保つ」


想像しているのかうっとりとその光景に浸っていた。しかし、幸は冷たい目線で睨む。魔王が居た世界に「美」という言葉など一切なかった。気に食わなければ即排除。生き残る為、常に胡麻を摺り機嫌を損ねない様にしていた。醜いのはその光景に過ぎない。

常闇姉は一体どこを「美」と捉えているのか全く理解が出来なかった。


「ウチらは一刻も早くその世界になる事を望んどります」

「……気になったんだが、その喋り方もお前の美しいとやらなのか」

「あら、触れてくれはりますの?感激やわ」


人間界で有名な方言を話す常闇姉に問う。人間の真似をする魔妖怪に今まで会った事がなかったからなのか、余計に気になってしまった。


「人間で最も美しいのは着物を着こなす舞妓はん」


舞妓が好きだから着る物や話し方を真似ていた様だ。人間界の伝統的文化の一つを魔妖怪が好んで真似ている事に驚く。


「魔王様が復活なさったら舞妓はんだけはウチが面倒見るさかい心配せんといて」

「俺がそっち出身じゃなくてよかったな」

「ふふ、ウチもまだまだやさかい。堪忍したってな」


幸は全く気にしないが方言を真似て話すと偽物だと非難されがちだ。


「まあ、それは今どうでもいいか。何故、魔王の事を俺に話した」

「仲間は多い方がええやろ?」


人間でも元死神だと言えば魔王も快く受け入れてくれると常闇姉は言う。

つまり、霊魂集めに幸を引き入れようとしているのだ。だが、魔王復活によるメリットが幸には無い。

 

「断る」

「ええんですの?今のあんさんはウチには勝たれへんよ」


幸が生き残る為には常闇姉の仲間になるしか無い。だが、大切な人が居なければ幸だけ生き残った所で何の意味もない。

よって意見を変えるつもりはないのだ。

 

「そうですか……残念ですわ。邪魔する奴は誰であろうと許しまへん───【陰闇の自由(シェイド•フリーリ)】」


常闇姉の背後から触手の様な自由に動き回る闇が姿を現すと、幸目掛けて勢いよく突っ込んでくる。それを後ろに跳躍しながら避け、触手を観察する。幸が居た場所に触手が突き刺さり地面に大きな穴を開けていた。


「やべえな……」


地面をも粉々にする程の威力がある触手が何本もあるとなると避けるだけで精一杯だ。どうするか考えながら着地をすると幸の足元から触手が伸び、足に絡み付いてくる。逃げる事が出来なくなってしまった幸に触手は刀の様に鋭利な形に姿を変え、心臓目掛けて一直線に襲いかかる。触手の素早すぎる動きに上手く反応しきれず、触手はいとも簡単に───幸の体を貫く。

持っていた棒が手からずり落ち音を立てて転がっていく中、幸の息が浅くなり地面に真っ赤な血溜まりが出来ていく。


「もう終わりなん」

 

立ったまま動かなくなってしまった幸に常闇姉はつまらなそうに言ってのける。終わってしまった事は仕方が無いので後で魂を回収するべく幸をそのままの状態にし、弟の助太刀に向かおうとした途端───床の軋む音が聞こえ何事かと振り向く。

すると、刺さったままの触手を掴み無理矢理引き抜く幸の姿があった。


「あら、その状況で急所を外させるとはやっぱり流石は死神はんやわ」


抜けた触手を地面に叩きつけ、血を吸い込んで重い肩を押え鋭く睨みつける。幸は間一髪の所で体の重心をずらし、急所は免れたのだ。だが、完全には避けきれず右肩を貫かれ重傷を負ってしまった。

その光景に常闇姉は驚きながらも嬉しそうに笑いながら触手を全て消し、幸が次に取る行動を楽しみに待っていた。その態度に腹が立ち、落ちた棒を拾い上げ常闇姉目掛けて一気に距離を縮ませる。強く握り締め、振り下すが常闇姉は当たる寸前に地面の中に消えていく。


「闇はウチらの一部やさかい」

「くそ……っ」


姿が見えないまま声が部屋中に響き渡る。これではどこにいるか判断がつかない。

すると、背後から気配を感じ、瞬時に避けるが先を予測されていたのかすぐに横から触手が風を切る勢いで重い一撃が左脇腹に入る。態勢を崩した幸に追い討ちをかけるかの如く、触手がまたしても鋭利な刃物へと姿を変えて迫ってくる。流石に二度も刺されては身が持たない。

しかし、逃げても闇がある限り追い続けてくるだろうと考えた幸は持っていた棒に妖力を流し込み強化させる。そして、地面に勢い良く突き刺し穴を開けて一階に逃げ込む。


「逃げても無駄やで」


逃げる幸を楽しんでいるのか常闇姉も触手も追っては来なかった事に安堵するがこのまま動かない訳にもいかない。だが、肩と脇腹を負傷した幸に鬼ごっこをする体力も残されてはいない。常闇姉がこちらに来る前に急いで作戦を考える為、床に座り込み先程までの戦いを思い返す。常闇姉を倒すにはアイツの武器でもある闇をどうにかするしかない。

闇を消すには───


「明かり……」


しかし、この屋敷に電気は通っていないし幸達は目が効くからという理由でライトすら持ってきていない。中里達のライトを借りればとも考えたが常闇姉を連れた状態で会えば人質になりかねない。


「魔法陣を使えば」


いや、光を放つ魔法陣を速攻で創ったからといって今の幸に手書きで書いている余裕はない。頭をフル回転させるがどれもデメリットの方が大きすぎる。

何も思いつかないまま項垂れていると、部屋の外から下駄の音が聞こえてくる。


「まずい……っ」


足音に迷いは無く、一直線に幸の居る部屋に向かって来ているのが分かる。逃げ道を失ってしまった。今からでも二階に戻ればとも思ったが一度座ってしまったからなのか足に力が入らず腰が上がらなかった。

ここで死んでしまうのかと思い耽る。祖父が亡くなったばかりだと言うのに自分まで死んでしまえば両親はどう思うのだろうか。最後の会話がメッセージでのやり取りなんて嫌だなと思いながら目を瞑る。

すると─── 急に腕を何かに引っ張られる。


「な……っ!」


一体何事かと引かれた方に目線を向けるとそこには薄く透けた子供の人間が人差し指を口に当て、廊下に目線を向けていた。その目線に気付き、幸も同じく扉を見つめると古びた扉が音を響かせ開いていく。

こうなれば常闇姉の隙をついてこの部屋から出るしか逃げ道はない。そう思った幸は急いで物陰に隠れようとしたが子供幽霊に強く掴まれ、動く事が出来なかった。

まさか、常闇姉弟の仲間だったのかと目線を向けると柔らかく微笑まれる。

───その顔に悪意は感じなかった。


「どこに隠れてはるんですか」


愉快そうに部屋に入ってきた常闇姉に目線を向け、見つかる覚悟を決める。見つかってしまったのなら仕方がない。幸の元にまっすぐ向かってくる常闇姉から目を離さず睨み続ける。緊張感が幸を覆い、汗が頬を伝う。

あと五メートル、三、二、一───もう手を伸ばせば届く距離にいると言うのに常闇姉の様子がおかしい。


「どこいったんや……」

 

幸の目の前で立ち止まった常闇姉は一言小さく呟き、幸の横を通り過ぎてどこかに消えてしまった。

何が起きたのか全く理解が出来なかった幸は驚きのあまり唖然とする。


「なんで……」


暗闇で目が効く常闇姉に見つからない訳がない。だが、幸はどこにも隠れていなかった。常闇姉には幸が見えていなかったのだろうか。


『これだよ』


すると、今まで幸を掴んでいた子供幽霊が一本の蝋燭を目の前に出す。蝋燭は小さな火を揺らしながら蝋を溶かし燃えていた。


「蝋燭?」


しかし、蝋燭一本で姿を消す事が出来るのだろうか。未だに理解が出来ない幸に子供幽霊は蝋燭を差し出す。


『アイツらは明かりが見えないんだ』

「明かりが見えない?」


確かに常闇姉は幸の姿を認識していなかった。それは子供幽霊が持っていた蝋燭の明かりの範囲に入っていたから。だとすると、この蝋燭があれば常闇姉弟に勝利する事が出来るやもしれない。


『お兄さんはアイツらを退治しに来たんだろ?』

「君は?」

『僕はここにずっと前から住んでる幽霊。でもいつの間にか怖い奴らが住み着いちゃって』


最近になって常闇姉弟が住みつき困っていた様だ。なんとかしてほしいと悲しげな表情で言う子供幽霊から蝋燭を受け取り、真剣な顔つきで見つめる。


「絶対なんとかして見せる」


その言葉を聞いた子供幽霊は嬉しそうに笑っていた。

しかし、一本では出来る事が限られてしまう。せめて後数本は欲しい。


「他に蝋燭はあるか?」

『あるよ!』


幸は蝋燭が仕舞っている場所を聞き、明かりを照らしながら移動する。

───反撃開始だ

 

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