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幽霊屋敷

あの後、ボロボロになって動けない幸を酒呑童子が家まで運んでくれた。両親を起こさないよう静かに風呂に入り、手当てをしていると既に夜が明けて空が明るくなっている事に気が付く。忌引きで休んでいた学校が今日から始まる事を思い出した幸だが無理だと早々に諦め、手当に集中する。

しかし、目の前から暇そうな視線を感じ、集中力が一瞬にして切れたので気になっていた事を目の前の人物に問う事にした。


「なあ、お前の本来の力は閻魔に取られたのか?」


ひと目見た時から妖気の量が少ないと感じていた。だが、油断させる為に押さえ込んでいる奴も居るので酒呑童子もその一人なのだと思っていたが戦ってみて確信に変わった。隠していたのではなく、あれで全部だったのだと。


「ああ、今の俺に使える技は火円舞追奔しかない」


床に胡座を掻いて座っていた酒呑童子は自身の右手を見つめながら悔しそうに言う。幸から言わせれば火円舞追奔も相当の妖力を使う為、本来の力が戻った酒呑童子は本当に危険人物だったのだと改めて認識する。


「それで俺は何をすれば良いんだ?」

「閻魔から聞いてるんじゃないのか?」


首を横に振る酒呑童子だったが幸も実際何をすれば良いのか細かくは聞いていなかった。とりあえず大まかに説明し、今後どうするかを話し合う。


「俺は学校に行かなきゃいけないんだ」

「その間に起きた問題を俺がなんとかするって事だな。だが、どうやって見つけるんだ?」

「……確かに」


爪邪の時は偶然祖父の魂を持って行かれたから気付けた事だが、それが無ければ今でも魔王が復活するなんて知る事はなかっただろう。霊魂を集めている魔妖怪の妖気を辿って探す方法もあるが感じ取れる範囲が限られているので難しい。


「閻魔と連絡を取る方法はないか?」


冥界から送られてきた酒呑童子に聞けば腕を組み、少し考える素振りをしたかと思えば渋い表情をしだす。何を考えているのかと様子を伺っていると首を横に傾げながら二つの鬼火を出し、一つを窓から外に飛ばす。


「それは?」

「冥界で連絡を取る時に使っていた【伝伝火(デンデンビ)】だ」

「伝伝火……」


閻魔と話した時に使っていた鬼火もこの伝伝火だったのだろう。人間界で言う電話と似た様な物らしいがネーミングセンスが微妙すぎる。


「てか、なんでちょっと渋ったんだよ」


閻魔との連絡手段があるのなら悩む事をせず、すぐにやってくれれば良かったのだ。


「……一度も使った事がなかったから、」


使いたくなくて躊躇っていたのではなく、使い方が分からず他の鬼達が使っていた様子を思い出しながら見様見真似で試したので上手く繋がるか不安だったのだろう。酒呑童子は他の鬼達と連絡を取るほど冥界に関わってはいない。

その事を察した幸は暖かい目で酒呑童子を見やる。


「な、なんだその目は……っ!」

「いやーなんも」


あんなに挑発して煽っていたのが嘘の様に思えてくる。感情に浸っていると、馬鹿にされていると思った酒呑童子は幸の左頬を抓る。今さっき貼ったばかりのガーゼが歪むがお構いなしだ。


「いっ、いだい……っ!」


手加減はされているのだろうが殴られた後なだけに普通に痛い。痛がる幸を見れて満足したのか酒呑童子は手を離し、顔を背ける。目に涙を溜めながら頬を抑えるていると、鬼火が音を立てて燃え盛る。


「なんだ」

「成功、したのか……」


二人は食い気味に鬼火を見つめると、中から身に覚えのある人物の姿が映し出される。


『あー聞こえとるか?』

「すげ……」

「ま、俺にかかればこんなの余裕だ」


成功した事によって酒呑童子の調子が戻る。先程まで不安そうにしていたくせにと思ったが、また頬を抓られてはたまったものじゃないので口にはしなかった。


『なんとかなった様じゃな』


炎越しで見ていた閻魔は少し距離が縮まった二人を見て、安心したように息を吐く。最初からそっちでなんとかしいれば幸が満身創痍になる必要はなかったのだと拳を握るが相手が閻魔なので静かに下げる。


『早速で悪いんじゃが今すぐここに行ってくれ』


すると、鬼火の中から一枚の紙がはらりと宙を舞ながら出てくる。


「写真?」

「なんだ?」


拾い上げ、確認すると幸には身に覚えのある薄汚れた屋敷が映し出された写真だった。

 

「ここって確か……廃墟じゃなかったか?」


数十年前に住んでいた住人が謎の死を迎え、親戚も居なかったのか引き取りてが見つからず建物は放置されていた。だが、気味が悪いと近所からの苦情が相次ぎ、仕方がないので建物を取り壊そうとしだが事故が多発し───中止となった。


「俺は行った事ないがだいぶヤバい心霊スポットだとか」

「なんだよ、幽霊が怖いのかよ」

「ちげーよ、そんな所に行くのは刺激を求めている奴らだけだ」

『その心霊スポットとやらに行った人間達が戻って来ないという話は聞いた事があるか』


幸は首を横に振る。幽霊に対して怖いという感情を抱いた事はないが認識されると付け回されてしまうので関わる事はしなかった。その為、幽霊に関しての情報は一切取り入れていない。


「それと今回の事で何か関係あるのか?」


心霊スポットに行って帰って来ないのは礼儀を弁えない輩が霊の怒りを買い呪い殺されただけだ。何か関係があるとは思えなかった幸だったが閻魔は話を続ける。

 

『お主と連絡を切った後、情報が入ってな。人間界に何体か魔妖怪が潜り込んでいるそうなんじゃ』


一匹見つけたらなんとやらと言うが本当にいるなんて。冥界と天界共が張っている結界が心配になってくる。

 

「と、言うことはその屋敷に……」

『魂がこちらに来ない以上、可能性が高い』


確かに魔妖怪にとって心霊スポットは格好の狩場なのかもしれない。刺激を求めてやってきた人間達を襲い、霊魂を奪う。やって来た人間が戻って来ないと噂になれば好奇心でまたやって来る。

永久機関が完成してしまうのだ。


「閻魔に一つ聞く」


すると、黙って聞いていた酒呑童子が真っ直ぐ閻魔を見つめながら問う。


「今の俺達に勝てる相手なのか」


酒呑童子の言葉に幸は黙る。お互い本来の力が戻っていない状態な上に幸に至っては酒呑童子との戦いで満身創痍だ。魔妖怪が何体いるのか、どんな奴がいるのかも分からない程の情報不足で今の幸達に勝算はあるのだろうか。


『正直、ワシにも分からぬ……すまん』


閻魔の謝罪を生きてきた記憶の中で聞いた事がなかった二人は目を見開く。


『ワシも無理難題を言っているのは百も承知だ、じゃが……っ!』


「二人を信じている」そう言葉を続けようとした途端、勢い良く立ち上がった幸と酒呑童子に言葉を遮られる。

 

「誰が無理って言ったよ」

「癪に障る言い方をするな」


閻魔自身そういう意味で発言したわけではないのだが「無理難題」という言葉に、今の自分達には出来ないと言われている様で二人は腹を立てる。

 

『ワシ、今めっちゃ良い事言おうとしてたんじゃが……』


そんな閻魔の声は意気込む二人には届かず消えていった。だが、意図せぬ方法でやる気が出たのでとりあえず良しとしよう。


『すまぬが頼むぞ』


閻魔との通信が切れ、部屋が静まり返る。すぐに行った方が良いのだろうが外から聞こえてくる人の声に気付き、窓の外を見る。


「とりあえず……寝るか」


流石に明るいウチに動くのは人の目があるので夜に行く事にし、今は少しでも妖力を回復させるべく、睡眠をとる。酒呑童子も同じ意見なのか反論はなかった。


「あ、そうだ……母さんに言わなきゃ」


寝る前に適当な理由を母に伝え、学校を休まなくてはならない。本来なら直接一階に居る母に言いに行くのだが、今の幸の頬には大きなガーゼが貼ってある。取ったとしても傷がある為、誤魔化しようがない。

申し訳ないが携帯を使って文字で伝えるしかなかった。案の定心配の連絡が飛んできたが「少しゆっくりしたい」と伝えると「何かあったら言ってね」という文字と「おやすみ」というスタンプが送られてきた。それに「ありがと」と返し携帯を机に置く。


「俺も寝る」


連絡が終わるまで待っていたのか酒呑童子が床に横になって寝始める。体を痛くしないのだろうかと思ったが、下に敷く物がなかったので申し訳程度にクローゼットからブランケットを取り出し静かに掛けて自身もベッドに潜り込む。


あれから数時間後。誰かの動く気配を感じた幸は目を覚ますと窓を開け、外を眺めていた酒呑童子の姿があった。


「ん……なんかあったのか」

「起きたか、お前の父親と母親がどこかに行ったぞ」


寝起きで回らない頭を起こし、携帯を見ると十八時が過ぎていた。疲れていたとはいえだいぶ寝てしまったがおかげて妖気は回復した。


「爺ちゃん家行くって」


父と母から来ていた通知を確認すると、遺品整理がまだ終わっていなかったらしく二人で行ってくるとの事だった。


「誰か部屋に来なかったか?」

「一度、母親の方が部屋の前まで来たがお前の返事がなかったから戻っていった」

「そうか、」


心配かけさせてしまったなと反省し、今度何かしてあげようと考えていると腹が鳴る。そういえば今日は一日何も食べていなかった事を思いだす。

 

「腹へった。お前もなんか食べるか?」


何を食べるかは知らないが酒呑童子もこっちに来てからは何も口にしていない。腹が減っているだろうと聞けば頷き、一階まで付いてくる。冷蔵庫を開け、中を確認すると母が幸の為に作ってくれたご飯が入っていた。


「これ、アイツ食えんのかな」


本人に確認しようと冷蔵庫から取り出し、視線を向けると酒呑童子は机に置いてあった饅頭を手に取り食べ始めていた。


「なあ……ってもう食ってるし」

「これだけでいい」


一つ目が食べ終わり、次の饅頭に手をつけていた。祖父の家に行った際にたくさん貰ってきた物なので全然構わないが鬼も饅頭を食えるのかと内心驚く。

幸が食べ終わる頃には饅頭が入っていた箱はほぼ空になっていたが満足したのか茶を啜り喉を潤していた。

片付けを済ませ、自身の部屋の窓から外に出る。時刻は二十一時。外に人は居ないが補導をされては困るので屋根を伝って行く。


「妖気は回復したのか」

「ああ、回復はしたが……勝てるかどうかは分からねえ」

 

閻魔に強気で言ったが策は全くない。なんとかなってくれと祈りながら目的地に急いで向かう。


「ここだ」

「ほお……美しい建物だな」

「まあ、この辺では珍しい洋風のデザインだしな」


酒呑童子の言う通り美しくはあるが数十年も放置されているだけあって雰囲気もある。門に手を掛け、軽く押せば軋む音を響かせながら開いていく。心霊スポットになっただけあって、鍵を壊して侵入した輩が居たのだろう。器物破損という罪を犯してまで肝を試したいのかと呆れるが、自分もこれから不法侵入という罪を犯す為、黙る事にする。

両開きの扉も簡単に開き、中に入るとまず目に飛び込んできたのは二階に続く大きな両階段だった。


「広いホールだな」


アンティーク風のデザインで統一され、落ち着いた雰囲気をしていた。こんな良い建物を放置してしまうのは少々勿体無い気もするが謎の死を遂げた家族の家となれば話は別なのだろう。


「微かに妖気を感じるが……」

「霊力と混ざって特定出来ないな」


この屋敷に居るのは確定だがどこに居るのかまでは特定出来ず、一階から探索する事になった。入ってすぐ右の部屋から入ると、漫画やアニメなどでよく見る豪華なダイニングルームだった。そこから繋がっている廊下に出ると、キッチン、応接間、客間、浴室、トイレ、書斎と一周回れるような作りとなっていた。しかし、特に変わった物は見られず途中から酒呑童子の家具や間取りへの質問攻めが始まり、ただの内見になっていた。

遊びに来た訳ではないので、未だ書斎をじっくりと眺めている酒呑童子を引きずって二階に続く階段を上がる。

しかし、上に行くにつれて違和感を感じた二人は途中で足を止め顔を見合わせる。


「話し声か……?」

「誰か居るな」


警戒しながら音を辿って行くと、踊り場から左に行った先の部屋から数人の話し声が聞こえてくるのが分かった。床の軋む音を立てずに中を覗いてみると制服を着た男女四人の人間がライトを片手に探索していた。ただ肝試しをしに来た学生なのだと分かり、張り詰めていた空気が一気に和らぐ。

鉢合わせて騒がれてもめんどくさいので、静かにその場から離れようとする。

しかし───

 

「あれ、蓮見……か?」


背後から聞こえた自身の名前を呼ぶ声に思わず振り返ってしまった。眩しい光の先に居る一人の男がこちらを見つめる。幸はその顔に何処か身に覚えがあった。

 

「お前は、中里?」


そこに居たのは同じクラスの中里俊だった。近付いて来る中里に他の三人も何かあったのかと姿を見せる。


「お前、今日学校休んだのにこんな所で何してんだよ」


学校を休んだ奴が心霊スポットに居るのは誰が見たっておかしな話だ。これがまだスーパーとかなら誤魔化しが効くのだが同じクラスというまためんどくさいタイプの人間に会ってしまい頭を悩ませる。返答に困っていると「サボり」との言葉が飛んできた為、頷いておく。


「お前もサボる事あるんだな」

「まあ、行く気になんなかった」


哀愁漂う言い方をすると目の前の数人が気まずそうに目を逸らす。学校には祖父が無くなった事を伝えていた為、クラスメイトにも幸が忌引きで数日休む事を話したていたのだろう。


「えーハスミンも一緒に行こうよ」


そんな重い空気の中、名前も知らない女子に誘われる。自分自身も知らないあだ名で呼ばれるのは不快でしかないが、正直関わりを持ちたくはなかったので中里の方を向き、断りを入れる。

 

「悪いが俺らはもう見終わったから帰る」

「お、おう……じゃあな」


自分に返されると思っていなかったのか驚きながら頷く。それを確認してから幸は酒呑童子に目配せをし、その場を去る。

別れ際に「コスプレ」という言葉が聞こえ、瞬時に酒呑童子の事だと思い笑いそうになる。何も触れてこないとは思ったがまさかコスプレしていると思われていたなんて。しかし、本人は自分の事だと気付かず先を進んで行く。

二階の探索をしたかったが「帰る」と言ってしまった手前、一階に行かなければならないので中里達が帰るのを待つ為に一度階段を下りる。

すると、一階に着いた瞬間───男女の悲鳴が屋敷中に響き渡る。


「行くぞ!」


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