問題児の協力者
ネーミングセンスに関しては何も言わないでください…
かっこいい感じにしたかったんだなと暖かい気持ちで読んでいただけると嬉しいです
「ま、魔王って…」
『お主も知っておるじゃろう』
圧倒的な力で魔界を支配した最強の妖怪───魔王
死神だった幸も数回会った事はあるが、近くに居るだけで魔王から溢れ出る妖気の圧力に押し潰され、生きた心地がしなかったのを今でも覚えている。だが、魔王は数千年前に勇者とかいう力を持った人間に倒され消滅した。
『今、魔界で魔王を復活させ様と動いている奴らが居る』
幸が倒した魔妖怪もその一人だったそうだ。それを聞いて死んだ魔妖怪の死体が無くなっていた事に納得する。
「だが、魂を集める事で魔王が復活するのか…?」
『ワシにもそこまでは分からぬが魔妖怪達にとって人間の霊魂はご馳走じゃ』
霊魂は一度口にすれば中毒のように繰り返し、欲してしまう程の美味しさだ。かく言う死神もその美味しさに心を奪われ、霊魂以外は受け付けない体となってしまった。
「喰べるって事は…肉体はすでに存在しているって事か!」
『恐らくそうじゃ』
魂を喰べて本来の妖力を取り戻そうとしている段階まできているのだ。
だが、冥界と天界が人間界に結界を張り巡らせているのでそう簡単に魔妖怪が入れる筈がない───と言いたいところだが理解してしまえば簡単に入れてしまう。結界は月日が経つと効力が弱まり意味を成さなくなる為、数十年に一度新しく張り直すのだ。その一瞬だけ人間界の結界が一斉に消え、入り込む事が出来る。もちろんその分、警戒は強くなるが死神にとって大した事ではなかった。恐らくこの間の魔妖怪も同じ方法で人間界に来たのだろう。
「俺が言うのも何だが、結界を強くした方が良いぞ」
せめて人間界に入った魔妖怪を感知できる様にした方が良いだろう。一度入り込んだ魔妖怪に人間界と魔界を繋ぐ扉を作られでもしたら結界の意味がない。
『ワシもそうしたいんじゃが人手が足らんのじゃ…そこで!』
人差し指を合わせながらソワソワし出す閻魔に背筋がゾワつく。
「…まさか」
『話が早くて助かるのお』
魔王を復活させるべく、結界の穴を掻い潜って霊魂を集める魔妖怪が増え出した。その事に頭を悩ませていた時に一人で魔妖怪と戦った人間の存在が現となってしまった。それもただの人間ではなく冥界や魔界のあれこれを一から説明せずともよく分かっている元死神となれば尚の事好都合。
「いや、待ってくれ!」
元死神とはいえ紙一枚で皮膚が切れる程か弱い人間なのは変わりない。流石に一人で何体も相手するとなれば命が何個あっても足らないだろう。それに人間の生活もある。こっちを疎かにする事は出来ない。
『魔王が復活すればお主も危険なんじゃぞ!』
「それは分かってるが、こっちにも生活があるんだ!」
急に学校にも行かず怪我をして帰って来た所を家族に見つかってみろ。それこそ大変な事になる。それに出来るだけ家族には心配をさせたくは無いのだ。
「手伝わないって言ってるわけじゃない。だが、今の俺は少し力があるだけの人間だ…魔妖怪とやり合えるだけの力は無い」
『うむ……』
この間は運良く幸でも倒せる程度の魔妖怪だっただけで最初は倒せる保証なんて無かった。ただ祖父の霊魂を持っていかれた事に腹を立てて突っ走ってしまったに過ぎない。
すると、腕を組み閻魔は目を瞑るとそのまま話し出す。
『ワシには今のお主が弱いとは到底思えん』
強さとは妖気やパワーだけでは成り立たない。冷静に判断する精神面や優れた技術も含めた事を強さと言う。
『お主が倒した魔妖怪───爪邪は下級妖怪じゃったが今のお主との妖気の差は明らかに爪邪の方が断然上じゃ』
だが、爪邪は力任せに攻撃するだけで考える頭を持ち合わせてはいなかった。その逆に幸は爪邪の攻撃を見極め、冷静かつ的確に弱点を突き渾身の一撃を食らわせた。それが勝敗の鍵となったのだ。
『その冷静さはただの人間には持ち合わせておらん』
瞬時に判断し、素早く行動に移した。並の人間には到底出来ない。
『じゃが、お主の言い分も分かる……そこでじゃ!』
神妙な顔つきで話していた閻魔が急に満面の笑みを近づけ、炎の中が顔面だけになり幸は呆気に取られる。
『ワシの使いを寄越そう』
「閻魔の使い?そんな事していいのかよ」
つい先程まで人手が足らないと言っていたが、その貴重な人材をこちらに寄越して結界が疎かになったでは話にならない。
『実はちょっと問題児でな…結界には関わっておらんから安心せい!』
「安心できるかよ!問題児ってただの厄介払いじゃねーか」
『経験を積ませるのも大事じゃ!』
よろしく頼むと言い残し、鬼火は消えていった。
それと同時に消えた鬼火の中から立派な二本の角を生やし、赤く長い髪を靡かせた一人の鬼が姿を現す。しかし、すぐ来ると思っていなかった幸は呆然と見つめる事しか出来なかった。お互い沈黙が続く中、先に口を開いたのは閻魔の使いの方だった。
「お前があの死神…か」
見定めるかのように上から下まで見られる。人間と見間違えそうな程整った顔で嘲笑うかのように見下ろされる。
「あの美食の死神が無様な死に方をしたと聞いたが、まさか人間になっていたとはな」
人間の霊魂しか好まない死神についた二つ名だった。自分自身もっとかっこいいのがあったのではないだろうかと不満に思っているが今はそれどころではない。明らかな蔑みをされた事によって幸にも火がつく。
「そっちこそ無敗の酒呑童子も今や閻魔の犬とは…情けない」
「何だと…っ」
閻魔が問題児と言っていたのも無理はない。莫大な妖気とカリスマ性から多くの鬼を従わせ暴れ回っていた鬼界の王───酒呑童子。
だが、大昔に源頼光とその四天王に倒され冥界行きとなり、晴れて閻魔の使いとなった。鬼は妖怪の中でも強い力を持つが故に問題事が多い。その為、死後は転生せず閻魔の使いとして管理される事が決まっているのだ。
「大方、言う事を聞かないお前に閻魔が何か条件を持ち出したんじゃないか」
「…お前の手伝いをすれば俺は閻魔から解放される」
「じゃあ、ちゃんと手伝ってくれるんだな」
酒呑童子程の鬼を自由にしてしまうのはだいぶ危険な行為だが閻魔には何か考えがあっての事なのだろう。そうだと信じたい…
「そんなわけあるか!お前を殺して俺は自由だっ!」
恐らく何かしらの方法で閻魔は見ている。幸をどうにかした所で閻魔から解放されるわけでは無いのだがこちらにも事情がある。
「分かった、じゃあ俺が勝ったら言う事聞けよ」
「いいだろう…っ!」
右手に妖力を溜め、真っ赤な炎を纏った拳が幸の顔面目掛けて飛んでくる。それを間一髪のところで躱し、窓から外に飛び出る。流石に家の中では両親を巻き込みかねない。ちゃんと追ってきている事を確認し、街から少し離れた駄々っ広い空き地で立ち止まる。
「逃げるのか」
「家の中では流石に出来ない」
「あの死神が人間の心配か」
面白い物を見たと笑う酒呑童子に幸はどうすれば勝てるのか考える。まず、どう考えても妖力では勝てない。かといって閻魔が言っていた冷静な判断力や優れた技術で勝てるかといえば答えはバツだ。酒呑童子は爪邪と違って下級妖怪では無い。
「考え事か、ならこっちから行くぞっ!!【火円舞追奔】!」
酒呑童子の炎が大きな円を創る。それを掴み、回転をかけながら叩きつける様に幸目掛けて投げつける。燃える音と空気を切る音が徐々に近付いてくるのを感じながら様子を伺う。まるで刃物の様に地面に生えていた草花を斬りながら燃え散っていくのを見つめる。
「チャクラムか…」
チャクラムとは輪の形をした刃物を回転させながら斬り倒す武器で円月輪とも言われている。恐らくそれをイメージして酒呑童子が自身の炎で創ったのだろう。だが、幸が知っている物よりだいぶサイズが大きい。
横回転で迫ってきた火円舞追奔を上に跳躍しながら避ける。
しかし───
「戻ってくる…っ!」
地面に着地し、火円舞追奔を見ると縦回転ですでにこちらに向かって来ていた。それを寸前で避けるが炎が前髪を擦り、少し燃えてしまった。
すると、またしても向きを変えて幸に向かってくる。回転している事によってブーメランの様に揚力が発生し、元の位置に戻って行ったのだと思ったが確実に幸を狙って来ている。
「そいつはお前の妖気に反応し、追ってくる」
相手が死なないかぎり一生追い続ける。サイズ感が大きく、炎を纏っている事によって不用意に近づく事が出来ない。避けるにしても体力の限界を感じる。一体どうすれば良いのか。
逃げながら頭をフル回転させていると、いつの間にか酒呑童子が目の前に移動していた。しかし、気付くのが遅れた幸は酒呑童子が構えていた右拳を避ける事ができず、左頬にクリーンヒットする。その勢いで幸は地面に転がり倒れ込む。
「手応えなかったな」
酒呑童子はつまらなそうに溜息を吐く。
その間にも火円舞追奔は幸に向かって迫ってくる。早く立ち上がって逃げなくてはいけないのだがどうにも力が入らない。走り回った事によって体力もほぼ残っていない。どうにか解決方法を考えなければ状況は変わらないままだが、火円舞追奔を止める方法は無い。だからと言って酒呑童子本体に攻撃した所で先程食らった威力で勝敗はもう分かってしまう。
そもそもがおかしいのだ。本物の魔妖怪と人間に転生した元妖怪とでは力の差がありすぎる。勝ち目は無いと幸は地面に身を投げる。
すると───
「焦げ跡…」
地面に生えていた草が黒くなっていた。恐らく火円舞追奔が通った事によって草が燃え、焼け跡となって残ったのだ。
「あれしかない…っ」
幸は最後の力を振り絞って立ち上がり、走り出す。
「まだ逃げるのか。そろそろ楽になった方が身の為だぞ」
聞こえてくる酒呑童子の言葉を無視して走り続ける。
死神が聞いて呆れると笑いながら自らの手を下さずとも勝手にくたばると思ったのか酒呑童子はその場に腰を下ろして勝利を確信する。
しかし、少ししてから逃げ回る幸を見て違和感を抱き始める。適当に動いているのかと思いきや急に動きを止め、火円舞追奔の動きを確認したり、変な角度で方向転換したりと幸の動きがやけにおかしいのだ。
「一体、なんだ」
何をやっているのか理解が出来なくて思わず立ち上がる。
すると、急に幸は立ち止まり地面に手をつく。
「今からお前を冥界に送り返す!」
「なんだと…っ!」
次の瞬間、周りが青く光だす。それに気付いた酒呑童子は何が起こったのか確認する様に辺りを見渡すと、酒呑童子を囲う様に五芒星が描かれていた。
なんと幸は火円舞追奔の燃え跡を利用して巨大な魔法陣を描いたのだ。
「これは冥界に魂を送り込む為の魔法陣だ。お前が一歩でも動けば呪文を唱えて閻魔の目の前に届けてやるよ」
今、酒呑童子が閻魔の元に行けば何か問題があったのだと判断され閻魔が酒呑童子に出した条件は取り消しだ。それを本人も分かっているのか一歩も動こうとはしなかった。
「火円舞追奔を解け…」
未だ変わらず迫って来る火円舞追奔。あと数メートルほどの距離。どうするべきか悩んでいるのか酒呑童子の頬から汗が伝っているのが分かる。
「クソ…っ、分かったよ」
酒呑童子が右手を翳すと、一瞬にして燃え盛り消えていった。それを確認し、幸も魔法陣に妖力を送り込むのを止めて手を離す。残り約一メートル程の距離だった為、うまく行った事に安堵し、その場に倒れる。
「俺の負けだ」
遠くから聞こえる酒呑童子の敗北宣言。そちらに目を向けると腰を下ろし幸を見ていた。今なら仕留める事が出来るのにしようとしないのは意外と筋は通す漢なのかもしれない。
「なあ、あの魔法陣は本当に冥界に行くのか?」
「もちろん、本当に行く…」
死神だからといって敵がいない訳ではない。だが、一人一人相手するのがめんどくさかった死神は冥界にどうにかしてもらおうと考え、冥界に繋がる魔法陣【冥界へ誘う】を創った。実際に何度か使ったが閻魔からのお咎めはなかった。
「まあ、約束だからな手伝ってやるがその力があれば俺なんて必要ないだろ」
「…残念だがあの魔法陣は今の俺には使えない」
「はあ?!」
【冥界へ誘う】を使うには莫大な妖力を消耗する。死神の状態であれば何ら問題はなかったが今の幸には取り扱える程の妖気がそもそも無いのだ。
つまり、幸は賭けに出ていた。ハッタリだとバレれない様に少ない妖力を流し込んで見せたが、あと一歩酒呑童子の判断が遅ければ妖力ぎれでバレていただろう。その前に火円舞追奔で丸焦げだが。
「まあ、ハッタリであれ俺の炎を使って魔法陣を描くなんざ大したものだ」
騙されて怒るかと思いきや酒呑童子は意外にも冷静だった。
「俺より弱い奴に負けたのは初めてだ」
遠くて表情は見えなかったが負けたのに声が楽しそうだったのが分かる。それに釣られる様に幸も口角を上げ、目を閉じるのだった。




