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# 伝説のエース(50歳)、没落令嬢に転生して学園無双 〜AI全自動の時代に「手動操作」で無双して何が悪い〜



## 第一章:銀髪の令嬢と、空っぽの水晶玉


「……おい、嘘だろ。レバーがないじゃないか」


豪華な装飾が施されたコクピットの中で、私は絶望的な声を上げた。

鏡に映る私は、透き通るような銀髪と、少し吊り上がった勝気な瞳を持つ美少女だ。名前はセリナ・フォン・アルスタイン。没落寸前の伯爵家令嬢である。

だが、その中身はついさっきまで音速の壁を超えて戦っていた五十路のテストパイロット――通称「銀翼の鉄人」と呼ばれた男だった。


目の前のコンソールには、操縦桿ジョイスティックもフットペダルもない。代わりに、鈍く光る大きな水晶玉が一つ置かれているだけだった。


「セリナ・フォン・アルスタイン様。適性試験を始めてください」


外部スピーカーから試験官の冷淡な声が響く。ここは王立騎士養成学園の演習場。私は今、全長十メートルの巨大人型兵器『魔導機甲アニマ』の座席に座っていた。


この世界の常識では、機体に宿る「精霊」と精神を同調シンクロさせ、頭の中で願うだけで機体は動く。パイロットの役割は、精霊にお願いをする「触媒」でしかない。


私は渋々、細く白い指先を水晶玉に触れさせた。

(……同調? 念じれば動く? 洗濯機じゃあるまいし、そんな軟弱な話があるか。大体、機械ってのは乗り手と対話して、その限界を引き出すもんだろうが)


十分が経過した。目の前のモニターには「Sync Rate: 0.00%」という非情な数字が並んでいる。


「……反応なし。同調率ゼロ。次の方、どうぞ」


試験官の深い溜息がマイク越しに漏れる。

コクピットを降りた私を待っていたのは、学園一のエリート、アルベルト公爵令息だった。彼は最新鋭の金装飾が施された機体を背に、私を蔑むように見下ろした。


「セリナ。精霊に選ばれぬ者に、この学園に居場所はない。君のような『無能』は、さっさと家領に帰って泥でも啜っているがいい。アルスタインの領地は、我が公爵家が有効活用してやろう」


「……領地を奪うのが目的か。古臭い手口だな、坊や」


「なっ、坊やだと!? 貴様、没落貴族の分際で!」


私はアルベルトの怒号を無視して、彼の後ろにある最新鋭機『アエテルガルド』を観察した。

(関節部の魔導防塵処理が甘い。冷却水のバイパスが細すぎるな。見た目ばかり派手だが、あれじゃ急制動を三回も繰り返せば、魔力回路がオーバーヒートして自壊するぞ)


「おい、聞いてるのか! この無能が!」


「ああ、聞いてるよ。そんな『全自動の玩具』に命を預けているようじゃ、本当の戦場では一分も持たないと言ったんだ」


「貴様……! ならば一週間後の模擬決闘で、その口を閉じさせてやる! 負ければ退学だ! そしてアルスタイン領の採掘権はすべて我が家がもらう!」


「いいだろう。その挑戦、受けてやる。ただし、私が勝ったらその機体の予備リアクターを頂くぞ。……あと、その安っぽい金メッキの装飾パーツもな。スクラップにはちょうどいい」


私は不敵に微笑んだ。中身が50歳のおじさんだとしても、売られた喧嘩を買わないほど丸くはなっていない。


## 第二章:鉄と油の聖域


「お嬢様……本当に、これで行かれるのですか?」


学園の隅、スクラップ同然の旧式機が眠る地下倉庫。

心配そうに私を見つめるのは、唯一ついてきてくれた老執事のバートだ。


私の目の前にあるのは、三十年前の遺物『G型作業機』。

人型というよりは、巨大なドラム缶に不格好な手足が生えたような無骨なデザインだ。洗練された現代の機甲とは程遠く、全身が錆と油にまみれている。


「ああ。精霊が居眠りしているボロ機体の方が、私には都合がいいんだ」


私は動きにくいドレスを脱ぎ捨て、動きやすい作業着に着替えた。

鏡を見るたびに、この華奢な美少女の身体に違和感を覚えるが、今はそんなことを気にしている暇はない。


「バート。学園の備品庫から、高圧魔導ワイヤーと油圧ピストン、それから大容量のジャンクションボックスをくすねてきてくれ。……あと、私の部屋にある一番硬い樫の木の杖もだ」


「杖、ですか? 魔法を使うのですか?」


「いや。削って『操縦桿』にするんだよ」


おじさんの魂が疼く。私は工具箱を広げ、魔導回路を強引に引き剥がし、廃材から削り出した部品を組み込んでいく。


この世界の『魔導機甲』は、精霊が魔法的に関節を動かしている。

だが、私はそれを信じない。

私が作ったのは、精霊の意志を完全にバイパスし、パイロットの入力を物理的な圧力として駆動部に伝える「物理制御マニュアルシステム」だ。


「精霊が動かさないなら、私が動かす。ワイヤーと油圧、そしてこの『レバー』と『ペダル』でな」


魔導リアクターから発生するエネルギーを、魔法としてではなく「運動エネルギー」として抽出し、人工筋肉に叩き込む。

最新の理論では、人間が機体の動きをすべて制御するのは不可能とされている。脳の処理速度が追いつかないからだ。


(……フン。脳で考えるから遅いんだよ。機体の反応を脊髄で感じればいいだけの話だ)


夜通しの作業で、私の白い指先は油に汚れ、爪の間には鉄粉が入り込んだ。

だが、作業機のコクピットに自作の操縦桿を取り付けた瞬間、私は震えるような歓喜を覚えた。

これだ。

この、自分の手足が機械と繋がっている感覚。

水晶玉に触れてお祈りをする「お上品な騎士ごっこ」とは違う、本物の「操縦パイロット」の感覚だ。


## 第三章:時代遅れの神業ゴッド・ハンド


決闘当日。

演習場は、歴史的な惨劇(あるいは喜劇)を見ようとする野次馬で埋め尽くされていた。


対峙するのは、太陽の光を反射して輝く黄金の騎士『アエテルガルド』。

対する私は、錆びついた茶色の鉄塊『G型作業機』。手動改造のせいで、関節からは時折プシューッと高圧蒸気が漏れている。


「……セリナ! 最後のチャンスだ。今ここで膝をつき、領地を差し出せば、命だけは助けてやる!」


拡声魔法で響くアルベルトの声。

私は狭いコクピットの中で、自作の革ベルトをきつく締め直した。

目の前には二本の武骨な樫の操縦桿。足元には左右独立したフットブレーキ。


「チェック。スロットル、バイパス。魔力バイアス、全開。……マニュアル・モード、起動」


私はフットペダルを力強く踏み込んだ。

作業機の魔導リアクターが、これまで誰も聞いたことがないような、重低音の唸りを上げた。


「開戦!」


試験官の合図と同時に、アエテルガルドが消えた。

精霊による超高速移動『ブースト・ステップ』。次の瞬間、アルベルトの光剣が私のコクピットを真横から両断しようと迫る。


(――遅い。軸がブレてるぞ、坊や)


私は右のレバーをコンマ数ミリ引き、左のペダルを瞬間的に蹴り込んだ。

茶色の作業機が、物理法則を無視したような鋭さで「真横」へスライドする。


『なっ……!?』


黄金の剣が空を切る。

アルベルトは驚愕しただろう。この世界の機動は、精霊が計算した「最適解」しか通らない。だが私の動きは、機体の重心を敢えて崩し、その反動を制御して強引に向きを変える「慣性ドリフト」だ。


『まぐれだ! 逃がすか!』


アルベルトが激昂し、連続で突きを繰り出す。精霊の演算に基づいた、回避不能の連撃。

しかし、私はそのすべてを、わずか数センチの差で回避し続けた。


私はコクピットの中で笑っていた。

ああ、これだ。指先に伝わるエンジンの振動。足の裏から感じる機体の「重み」。

AI(精霊)任せの動きは確かに速い。だが、そこには「意志」がない。


(精霊ってのは優秀だが、臆病だ。機体が壊れるような無理な機動は選ばない。……だが、俺は違う。壊れる寸前が一番速いんだよ!)


私は操縦桿を交差させ、機体のリミッターを強引に引き抜いた。

作業機の人工筋肉が悲鳴を上げ、高圧の魔力蒸気が周囲に霧を形成する。


「おじさんの教えだ。空では、先にビビった方が死ぬんだよ!」


アルベルトが業を煮やし、最大の必殺技である大上段からの振り下ろしを放つ。

アエテルガルドの機体が、黄金の光を纏って加速する。


私は操縦桿を逆に倒し、緊急排気ブローレバーを引いた。

作業機が爆発的な蒸気を噴き出しながら、敵の懐へ――剣の内側へと滑り込む。


「がら空きだぞ、坊や」


私は左の操縦桿を押し込み、右のフットペダルを底まで踏み抜いた。

作業機の右拳が、加速の重みをすべて乗せて、アエテルガルドの腹部――最も魔力回路が密集しているジャンクションを正確に撃ち抜いた。


――ドォォォォォン!


轟音と共に、黄金の装甲が飴細工のように砕け散った。

アエテルガルドは演習場の壁まで吹き飛び、無残に地面を転がった。


## 第四章:略奪と再生


演習場が、水を打ったように静まり返る。

誰もが信じられなかった。最新鋭の精霊機が、旧式の作業機に、文字通り一撃で粉砕されたのだ。


「……ふぅ。やっぱり出力不足だな。腕の回路が焼き切れた」


私はハッチを蹴り開け、外へ出た。

銀髪を風になびかせ、汗を拭いながら、私は気絶したアルベルトの元へ歩み寄った。


「さて、約束だ。……バート! 工具を持ってこい! 使えるパーツを全部剥ぎ取るぞ!」


「えっ、あ、はい! お嬢様!」


呆然とする観客たちの前で、私はドレス姿のまま、黄金の機体のハッチをこじ開けた。

そして、ためらいなく高価な魔導リアクターを引っこ抜き、金メッキの装甲を剥がしていく。


「この予備パーツがあれば、私の『G型』をもっと軽くできる。……それから、このセンサーも移植だな。少しはマシな目になる」


「セ、セリナ様……! なんという破廉恥な……! 公爵家の機体を、そんな、生魚を解体するように……!」


試験官が慌てて駆け寄ってくるが、私は一瞥するだけで黙らせた。


「これは正当な決闘の対価だ。文句があるなら、もう一度あいつを叩き起こしてやろうか?」


「い、いえ……」


私は剥ぎ取ったパーツをバートに持たせ、悠然と地下倉庫へと戻っていった。

中身が50歳のおじさんである私にとって、学園の評判などどうでもいい。

ただ、確信したことが一つある。


この世界には、まだ「本当の操縦」を知る者がいない。

ならば、私が教えてやろう。

魔法でも精霊でもない、人間の魂が機体と一つになる、その極致を。


「……まずはこのリアクターをバラして、出力を三割上げるか。ああ、楽しみで寝られそうにないな」


没落令嬢セリナ・フォン・アルスタイン。

後に世界を揺るがす「銀翼の魔王」と呼ばれる少女の伝説は、この錆びついた倉庫から始まったのである。


## 第五章:嵐の前触れ


その日の夜。

アルスタイン伯爵家の屋敷で、私はバートが淹れてくれた紅茶を飲みながら、戦利品であるリアクターの設計図を書いていた。


(……ふむ。このリアクター、出力は高いが安定性が悪いな。魔力を流すパイプの角度を、あと十五度変えるだけで効率が上がるはずだ)


「お嬢様。……その、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


バートが、震える手でカップを置きながら尋ねた。


「なんだ?」


「お嬢様は……いつから、あのような恐ろしい操縦技術を学ばれたのですか? 私は、お嬢様が生まれてからずっとそばにおりましたが、一度も機甲に触れる姿など……」


私は紅茶を飲み干し、窓の外の夜空を見上げた。

そこには、前世で私が命を懸けて飛び続けた空と同じ、深い闇が広がっている。


「……夢の中で、あるおじさんに教わったんだよ、バート。空の飛び方は、言葉じゃなくて魂で覚えるもんだってな」


「夢、ですか……」


バートは納得いかない顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。

彼は、主が変わり果てたことへの恐怖よりも、没落しかけていた家を救ってくれたことへの感謝の方が大きかったのだろう。


だが、私は知っている。

今日の一件で、私は間違いなく目をつけられた。

公爵家だけではない。学園、そしてこの国の軍部も、精霊の加護を持たない「無能」がなぜ最強の機体を倒したのか、その理由を探ろうとするだろう。


「来るなら来ればいい。全部返り討ちにして、機体を剥ぎ取ってやるさ」


私は美少女の顔で、おじさん臭い不敵な笑みを浮かべた。

次の獲物は誰か。

どんな高性能な機体が私の前に現れるのか。

そう考えるだけで、胸の高鳴りが止まらなかった。


TS転生。没落令嬢。学園。ロボット。

最高じゃないか。

俺の第二の人生フライトは、まだ始まったばかりだ。


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