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墜ちるために飛んだ ――父と太陽と、イカロスの告白――  作者: 白崎灰音


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7/9

海という母

 海は、思っていたよりも冷たくなかった。

 いや、正確に言えば、冷たさを感じる余裕がなかった。


 身体が水に触れた瞬間、すべての音が途切れた。

 風も、太陽も、空も、そこで終わった。


 私は沈んでいった。

 抵抗する気はなかった。

 泳ぐ理由も、浮かぶ理由も、もう存在しなかったからだ。


 水は重く、静かだった。

 そこには評価も、比較も、期待もない。

 ただ、均等な圧力だけが、全身を包んでいた。


 私は、その重さに安堵していた。

 初めて、自分の存在が、何かの基準で測られていない場所に来た気がした。


 ――ここでは、誰の息子でもない。


 その事実が、ひどく心地よかった。


 意識が薄れていく中で、私は考えていた。

 もし、これが母というものなら、世界は思っていたより優しいのかもしれない、と。


 母という言葉は、私の人生にほとんど登場しなかった。

 だが海は、問いかけてこない。

 答えを求めてこない。


 それが、救いだった。


 私は、物語になりたくなかった。

 教訓にも、警告にも、象徴にもなりたくなかった。


 ただ、一人の人間として、終わりたかった。


 水の底で、光が遠ざかっていく。

 太陽は、もう眩しくなかった。


 私は、ようやく静かになった。

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