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墜ちるために飛んだ ――父と太陽と、イカロスの告白――  作者: 白崎灰音


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5/9

太陽に近づいた理由

 太陽は、最初からそこにあった。

 動かず、疑われず、正しい位置にあるものとして。


 私は、太陽を見るたびに、父のことを思い出した。

 絶対的で、正解で、近づきすぎてはいけない存在。


 父は言った。

 「高く飛びすぎるな。太陽に近づくな」


 それは忠告ではなかった。

 結果を知っている者の、事務的な注意だった。


 私は、その言葉に従うべきだったのだろう。

 だが、私は別のことを考えていた。


 もし、太陽から距離を保ち、無事に飛び切ったら。

 私は生き延び、父の理論は証明され、物語は成功として語られる。


 その未来を想像したとき、胸の奥がひどく冷えた。

 私はそこに、自分の居場所を見つけられなかった。


 成功してしまった私は、何者になるのだろう。

 父の息子としての成功例。

 天才の設計が正しかった証明。


 それは、生き延びることよりも、ずっと恐ろしい未来だった。


 だから私は、太陽に近づいた。

 反抗でも、衝動でもない。


 これは、私が選んだ失敗だった。


 蝋が溶け始める感触は、驚くほど静かだった。

 翼が悲鳴を上げることもなく、ただ少しずつ、確実に機能を失っていく。


 私は、ようやく安心していた。

 これで、期待に応えなくて済む。

 証明されることも、比較されることもない。


 落ちるという結末は、私にとって唯一の自己決定だった。


 風が強くなり、身体が傾いた。

 それでも、恐怖はなかった。


 私は、初めて自分の人生を、自分の重さで感じていた。

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