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墜ちるために飛んだ ――父と太陽と、イカロスの告白――  作者: 白崎灰音


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飛翔は解放ではなく

 飛び立った瞬間、私は理解した。

 これは解放ではない、と。


 地面から離れるという行為は、もっと軽やかで、歓喜に満ちたものだと想像していた。だが実際には、身体の奥に鈍い緊張が残り、心は少しも自由にならなかった。むしろ、逃げ場が完全になくなったような感覚に近かった。


 空には、境界がない。

 それは自由の条件であると同時に、居場所を失うということでもある。


 私は、どこに向かえばいいのか分からなかった。

 父の背中はすでに遠く、追いつく気力もなかった。かといって、引き返す場所もない。空は広く、平等で、残酷だった。


 翼は、私の身体に従順すぎた。

 少し力を込めるだけで高度が上がり、気を抜けば簡単に落ちてしまいそうだった。私はその不安定さを、まるで自分自身を扱っているように感じた。


 私は、空に向いていない。

 その確信は、飛び始めてすぐに訪れた。


 それでも、私は飛び続けた。

 理由は単純だ。止まる方法を、誰も教えてくれなかったからだ。


 下を見ると、海が広がっていた。

 深く、暗く、すべてを飲み込む色をしていた。あの場所なら、失敗も成功も区別されず、等しく沈んでいくだろう。そう思うと、不思議と心が静かになった。


 私は気づいていた。

 この飛翔は、自由への挑戦ではない。

 これは、いつ終わるか分からない猶予だ。


 飛び続ける限り、私は判断を先送りにできる。

 落ちるか、戻るか、選ばずに済む。


 だが、空は優しくなかった。

 時間は確実に流れ、太陽は容赦なく近づいてきた。


 私は、選択を迫られていた。

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