表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

ep.1 雨降り

「うわ、やばい。雨だ。」

朝の陽射しは嘘のように消え、外は土砂降り。こんな日に限って、傘忘れるなんて。いやこんな日じゃなくて、いつも。私はどうして、いつも"こんな"なんだろう。

降りしきる雨の中を仕方なく走り出した。


高校に入学して早半年。最初の三か月は充実したものの、溜め込んだ重圧は莫大なものになっていた。

―委員会の資料も、友達への励ましも、母への報告も。どれも認めてもらえなかった。認めてもらえないのは、本人の意思にそぐえない私の責任。


中学での、あの華やかさはどこへやら、私の高校生活に花ひとつ咲いていなかった。

中学まではカバーできていた人間関係の重圧が、今は私を押し潰していた。


そこに、雨宿りにぴったりの小さな屋根を見つけ、少しだけ居させてもらうことにした。でもすぐにいなくなる。誰も干渉しない。私はひとりぼっちでまた走りだすんだ。


――「雨すごいな~。あ、傘ないね、そこの子。雨に濡れてて大変だねぇ。」

見知らぬ、白髪交じりのおじさんが話しかけてきた。私の名札をジロジロと見つめている。

「ん~? 伊吹高校2年の佐伯葵。君の事かな?」

「そうです。」

「あおい、ねぇ。あ、そうだ。葵の花言葉は、”大望”。君にはあるかい?」

大望、か。少し考えた。でも、きっと、そんなものない。

「ないです。これで失礼しますね。すみません雨宿りなんてして。」

「そうか……。あ、これ持ってきな。明日、返してね。」

私の右手に傘を握らせたおじさんは、建物の中へと帰った。

今更借りてしまったところで返せはしない。仕方なく使うことにした。

まだ雨は止まず、ザーザーと音を立てている。傘を介したこの出会いが、知らぬ間に私の心を動かす――なんて、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ