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第九話 サイパン島

日本の南二千数百キロメートルの太平洋上に浮かぶサイパン島は、もともと日本の委任統治領だった。


しかしおよそ半年前、付近の洋上で日米両海軍の雌雄を決するマリアナ沖海戦と、上陸したアメリカ軍とそれを迎え撃つ日本軍との間で激しい陸上戦が繰り広げられ、結果としてアメリカ軍の勝利で終わっていた。



島内の滑走路の整備はアメリカ軍の占領直後から行われ、いまや巨大な基地となっており、サイパン島のすぐ南にあるテニアン島、さらに南にあるグアム島とともに日本空襲を行うB-29の一大拠点となっていた。




そのサイパン島のイスリー飛行場。


早朝、クリストファー・リプトン中尉は私物をダッフルバッグに詰め、ブロンドの髪に略帽を身につけた。


そしてそれまで共に戦って来たB-29「機体番号:Fスクエア12、通称”バンシー(亡魂の女)”」のクルー達に別れを告げ、新しく割り当てられた兵舎に向かった。



滑走路では深夜の爆撃行から帰還したB-29が爆音を響かせて着陸を始めたところだった。




「新しく機長になった、クリストファー・リプトンだ」


リプトンは現れた「機体番号:Fスクエア31」の副操縦士ミラー少尉に名乗った。


ミラーはリプトンと同年代、二十代前半くらいの若者だった。



「ロバート・ミラーです。


話は聞いています。


他の士官三人は皆ビーチに行っていて、下士官兵は向こうの宿舎ですが、今は多分食堂だと思います」


「よろしく。


ところでグレン中尉は気の毒だった」


もともと第五二〇爆撃群の補充機だったFスクエア31の機長は、フランク・グレン中尉だった。


グレンはサイパン到着翌日に洞窟探検に行き、潜んでいた日本兵に狙撃されて顔面に重傷を負ってそしてそのままハワイの病院に後送されることになったのだ。



爆撃群本部としては代わりの機長を請求して待つこともできた。


が、検討の末、すぐに到着する新人を今までのFスクエア12に副操縦士として割り当て、代わりに爆撃群のサイパン到着以来ずっと副操縦士として飛行していたリプトンをFスクエア31の機長にしたのだった。



ミラーは肩をすくめた。



「軍医は幸運だったと言ってましたが、あの顔を見たら」


リプトンは見舞いに行った軍病院のベッドで顔全体を包帯でぐるぐる巻きにされ、片目だけを出したグレンの顔を思い出した。



「すこし変わった方でしたから、こんなこと言うのも良くないとは思うんですが、リプトン中尉に来ていただいて、正直にいうとホッとしています」


「ありがとう。


ところで、まず機体を見ておきたい」


「案内します」


ミラーは正面に停めてあるジープに向けて歩き出した。




リプトンとミラーは誘導路に接続する駐機場に移動し、乗機であるB-29の各部を主翼の四つのエンジンを始め、内部もコクピットから尾部銃座まで点検して回った。


Fスクエア31はほとんど新品で申し分のないコンディションだった。


最後に前輪の格納庫にある搭乗口から機体を降り、機首に回ってノーズアートを二人で眺めた。



Fスクエア31の機首には目と口のある緑色のブロッコリーに、吹き出しで「Mr.Broccoli,here we go!」

(ミスターブロッコリー、いざ行こう!)」

と描かれていた。



「グレン中尉の子供の頃の友人らしいです。


ちょっと変ですよね」


ミラーは絶句しているリプトンに苦笑いで伝えた。



「友人?ブロッコリーが?」


「それが誰もよくわからないんです。


リプトン中尉の好きに変えて大丈夫だと思います。


ただ描き換えるなら誰か絵心のある人間を探す必要がありますが、我々はサイパンに来たばかりなので。


誰かご存知ですか?」


「心当たりはあるが、ちょっと考えたいな。


あとで皆と相談しようか」



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