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第二十一話 写真

あの銀座での空襲の翌日、日曜日で学校が休みだった桜はほとんど一日中布団にくるまって寝ていた。


光はそうはいかず、家事の合間に少し休むくらいだったが、だいぶ慣れてきたこともあり、なんとかやりくりできた。


次の週、桜は挙動不審な様子で、自室にこもり気味だったが、学校には元気に通っていた。



ただ、通学に使っていた地下鉄は、爆撃の影響で銀座で折り返し運転になってしまっていた。


そのため、桜は上野まで路面電車で出てから京浜線に乗り換えて通っていた。




その週の土曜日の午後、東京は前日の冷たい雨が止み、清々しい青空が広がっていた。



光は玄関で来客から受け取った紙の封筒をもって二階の桜の部屋の扉をノックした。


午前中で学校が終わった桜は早めに家に帰ってきていた。



「桜、写真屋さんが写真持って来てくれたよ」


「入って」


光はドアを開け、部屋に入った。


桜は机に向かっていたが、光から渡された封筒を開けると中に入っていた写真を取り出し、並べた。



「意外にすぐできたのね」


写真は全部同じ、白黒の小さなサイズで十数枚あった。



「自分の、写真?なんでそんないっぱいあるの?」


光が不思議そうに尋ねると、桜は一枚を手に取ってじっと見つめながら答えた。



「もうすぐ学校も卒業でしょ、だからみんなで交換するの」


そう言って、桜は本棚からアルバムを取り出し、空いているページに写真を貼りつけてた。


門倉紀依や宮井桃子、そしてセーラー服姿の同級生たちの写真がすでに収められていた。



「光のところはやらないの?」


「高校はまだ一年あるし、卒業の時もあんまりやらないかも。


スマホで撮っちゃうからね」


「そっか」


光は机の写真を眺めたあと、少し戸惑いながら言った。



「あ、あのさ、俺も一枚もらっていい?」


「い、いいよ」


桜は頬を染めつつ、写真を一枚手渡した。


白いセーラー服にいつものもんぺとは違うスカート姿で、椅子に座り微笑む桜が写っていた。



「な、なにじーっと見て赤くなってるのよ!」


桜が恥ずかしさまじりに声を上げた。



「い、いや、その……それアルバムなんだ」


光は慌てて話題を変えた。



「そうそう、そうなの生まれた頃からあるよ」


桜は最初のページを広げた。


昭和二年四月十日と書かれた文字の上に白い布に包まれた泣き顔の赤ちゃんが写っていた。


桜はページをめくっていく。



「これは小学校上がる前かな」


「男の子みたいだ」


光が笑うと、桜も照れ笑いを浮かべた。



「まあね。


小さい頃は私ずっと一人っ子だったし、いつも近所のお兄ちゃん達と遊んでたんだよね」


桜はアルバムのページをめくって行く。


生垣を背景に、学生服の中学生くらいの少年が顰めっ面で幼い桜と並んでいた。



「これ本郷にいたとき隣に住んでた芳兄。


伊吹芳彦って言うんだけど、ほとんどうちの家族みたいで、私のお兄ちゃん」


ページをめくると、少年と位の高そうな軍人の写った写真もあった。



「これね。


お父様が陸軍の偉い人で、ずっと外地に行ってて数年に一度しか帰ってこなくて、家には女中さんしかいなくて。


夕飯も、いつもはうちで一緒に食べてたの。


中学時代なんて、ほとんど家族みたいに住んでたもん。


『ただいまー。桜、宿題やったか?』って感じで、ね」


芳兄と言えば、と桜は笑いながらページをパラパラとめくって行く。



「これだ!」


軍服に軍刀を下げた陸軍士官が姿勢を正して写っていた。


隣には今より少しだけ幼いセーラー服の桜が微笑みながら座っている。



「これは芳兄が航空士官学校を卒業した時の写真。


昭和十八年の春だからもう二年も前ね。


芳兄のお父様はやっぱり戻ってこれなくて、代わりにうちの家族がみんなで入間まで行ったんだよね。


航士の制服かっこいいよね!」


「な、なんかすごいお似合いというか婚約者?みたいな感じ」


「やだなー、これ私が無理言ってお願いして撮ってもらったんだよー、だから芳兄表情が硬いよね。


でもこの若さで陸軍少尉だよ、かっこよすぎるよ。


あはは」


「……もしかしてこのひと、桜の初恋の人とかだったりして?」


光は軽く笑いながら話したつもりだったが、すこしだけ心がざらつくようだった。



桜も明らかに動揺した声で答えた。



「そ、そりゃ好きか嫌いかって言われたら好きだけどさー、でもそもそもお兄ちゃん的な存在じゃない?それにあれ、高嶺の花。


男の人に使っていいのかわからないけど」


「そうなの?」


「芳兄やっぱりかっこいいし文武両道で出来過ぎ美青年だから、やっぱりモテるんだよねー、中学の時もすごかったんだよ、本人はぜんせん相手にしてなかったけどさ、プレゼントとか私が貰っちゃってたねぇ、「桜、これやる」

ってさ。


あれ今考えたらひどいよね」


これとか、と桜はペン差しにあった万年筆を取り出した。



「で、航空士官学校は惜しくも主席卒業を逃したくらい優秀さでさ、きっとどんどん出世して陸軍の偉い人が、わしの娘をどうかね、みたいに。


きっといいところのお嬢さんをお嫁さんにするんだよ。


一般家庭の私なんかとてもとても釣り合いませーん」


桜は若干照れ隠しのように一気に捲し立てた。



「そ、そうなんだ」


焦る光を、桜はちらっと光を横目で見た。



「光もしかして妬いてる?」


「ち、ちがうよ!」



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