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第8章 - 双子?

俺は宿舎の小さな机に座り、ヒットマンから渡されたカードを指で弄んでいた。「ヒットマン・アカシャ」と彼の名前がはっきりと印字され、電話番号も記されている。


フェリックスは彼を闇の組織のリーダーだと疑っているが、推測だけに頼るわけにはいかない。確証が必要だ。


ついに俺はその番号を押し、耳に電話を当てた。コール音が数回鳴った後、聞き覚えのある陽気な声が応えた。


「もしもし? どなたですか?」


「ハーヴ・オーガードだ。昨日、裏路地で会っただろう。ヘイゼルの旦那さんか?」


「ああ、ハーヴか! 昨日はヘイゼルを助けてくれてありがとうな。で、何か用か?」


俺は深く息を吸い込み、慎重に言葉を選ぶ。


「実は、ちょっと確認したいことがある。あんたが…この街で何か裏があるんじゃないかって疑ってる奴がいるんだ。」


ヒットマンは軽く笑い、余裕たっぷりの声で答えた。


「俺を疑ってるのか? 心配するな、ハーヴ。俺はただの大学講師だよ。マーリン大学で教えてるだけさ。信じられないなら、調べてみるといい。」


俺は眉をひそめる。


「マーリン大学? 専門は?」


「リサーチ&スタティスティクス(調査と統計学)だ。でも、俺の言葉を信じる必要はない。大学の公式サイトを見ろよ。俺の名前――ヒットマン・アカシャがちゃんと載ってる。大した奴じゃないって分かるはずだ。それに、俺の顔は男向け雑誌にも載ったことがあるんだぜ? どうだ、探してみろよ。」


彼はまた軽く笑うが、その声には自信が満ちている。


俺はノートパソコンを開き、マーリン大学のウェブサイトを検索する。数回のクリックで講師一覧にたどり着き、そこには確かに「ヒットマン・アカシャ」の名前と写真があった。彼の言葉通り、教えている科目も記載されている。


俺は椅子にもたれかかりながら、画面をじっと見つめる。フェリックスの推測は間違っていたのか? それでも、何か引っかかる。


「ほら、確認しただろ? もう俺を疑う理由はないよな?」


ヒットマンが再び口を開く。どこか挑発的な響きだ。


「…ああ、確かに名前はあった。疑って悪かったな。」


「気にするな。だが、俺も最近妙なことを感じているんだ。昨日ヘイゼルを襲ったあの四人組、普通じゃないだろ? 彼女はただの大学生で、危ないことには一切関わっていないはずだ。でもな、彼女を狙ったというより、たまたま巻き込まれた気がするんだ。」


俺は言葉を飲み込みながら、彼の話に耳を傾ける。


「何か心当たりでも?」


ヒットマンはしばらく沈黙した後、口を開いた。


「一つだけ、気になるものを見つけた。さっきヘイゼルの持ち物を片付けていたら、バッグの中に小さなメモを見つけたんだ。彼女は見覚えがないと言ってたが…」


俺は身を乗り出す。


「…メモ?」


「ああ。アルファベットと数字が混ざったコードだ。興味本位で地図アプリに入力したら、市街地にある一つの区域を指していた。俺にもヘイゼルにも心当たりはないが、気になるなら調べてみるといい。」


ヒットマンの声には冗談めいた調子はなく、どこか真剣だった。


その時、俺のスマホに通知音が鳴る。ヒットマンから送られてきたのは、問題の場所を示す座標だった。地図を開くと、そこには廃倉庫と記された区域が表示される。


この情報を無視する理由はない。


「わざわざありがとう、ヒットマン。確認してみる。」


「ああ、頼んだぜ。最近、この街はどうもきな臭いからな。」


電話を切り、俺は再び地図を見つめた。


何かが、ここで待っている――そんな予感がした。


「気をつけて、ハーヴ。もし何か不安なことがあったら、私に連絡して。ハザルと私は、君に命を救われたんだから。」


「おい、待て—」


通話は切れたが、胸に残る妙な感覚は消えなかった。もう一度、あの座標を見つめる。ヒットマンについてはフェリックスが間違っているかもしれない。だが、なぜそのメモがハザルの手にあった? そして昨日の四人組と何の関係が?


「フェリックスに知らせないと…」と、俺は呟いた。すぐに彼の番号を押し、電話をかける。


「もしもし?」


「フェリックス、今さっき手に入れた情報、君も興味があるはずだ。」


「ほう、何だ?」



「ちょうど、協力してくれる友人がいるんだ。君も一緒に来た方がいいと思う。」

車を運転しながらフェリックスが言う。俺は窓の外を眺めていたが、彼に視線を向けた。


「どうして? 今は休暇中なんだけど。」俺が尋ねると、フェリックスは肩をすくめて微笑む。


「他の人の助けを借りてもいいだろ?」


「やれやれ…」俺は彼を横目で睨んだ。


「頼むよ、今回は特別だ。今回の任務は悪党たちが絡んでいるかもしれない。いや、それよりも厄介な存在かも…」


「厄介な存在?」俺は眉をひそめる。


「君はイタリア人だろ? マフィアを知らないはずないよな。」


…そういえば、さっきうっかり母国語を使ってしまったかもしれない。フェリックスはそれを覚えていたらしい。厄介なことになったな。


「マフィアか…」俺には田舎の村を襲う山賊くらいしか分からない。


「マフィアは組織化された犯罪集団だよ。昨日君が倒したチンピラとは違って、彼らは知恵が回るし、組織的で、そして何よりも冷酷だ。この街に彼らが潜んでいるなら、慎重に行動しないとな。」


彼の言葉を聞きながら、俺は静かに考え込む。


「それじゃあ…前に言っていた秘密の会合と関係があるかもしれないってことか?」


フェリックスは深く息を吐くと、真剣な表情で頷いた。


「可能性は高い。だからこそ、君にも来てもらいたいんだ。君の戦闘能力は信頼している。でも、安心しろ。一人でやらせるつもりはない。」


「誰かと会うのか?」俺は疑問を口にする。


フェリックスは意味深に微笑んだ。


「会えば分かるさ。」


フェリックスは俺を街角にある小さなカフェへと連れて行った。店内は静かで上品な雰囲気に包まれ、都会の喧騒とは別世界のようだった。新鮮なコーヒーの香りが漂い、心地よいジャズが流れている。


「ここはG.S.A.P.の諜報員たちが情報を交換する安全な場所なんだ。」フェリックスが説明する。どうやらこのカフェは、G.S.A.P.の隠れた拠点の一つらしい。


「もう来てるみたいだな。」フェリックスはカフェの隅に座っている人物へと向かう。俺もそれに続いた。


そして、その女性を見た瞬間、俺の足が止まった。呼吸が止まりそうになる。


彼女は…リッサにそっくりだった。


その女性…顔立ちはリッサにとてもよく似ていた、俺の恋人だった人に。

漆黒の髪。まっすぐで柔らかな髪は、肩にかかるように三つ編みに結ばれている。


優しげな表情と、口元に浮かぶ小さな微笑み。すべてが彼女を思い出させる。

だが、ひとつだけ明らかに違うところがあった。

この女性の瞳は淡い青色。リッサの持っていた茶色の瞳とは異なっていた。


彼女は少し眉をひそめ、俺の視線に気づいたようだった。

慌てて目をそらし、胸に湧き上がる感情を必死に押さえ込む。


「ハーヴ、彼女はローズだ」

フェリックスが俺たちを紹介した。


「俺の古い知り合いで先輩でもある。情報収集の達人で、いろいろなことを知ってるんだ。」


ローズは手を差し出したが、その表情にはわずかな戸惑いが見えた。


「はじめまして、よろしくお願いします」

彼女は柔らかくも芯のある声でそう言った。


俺は礼儀正しく彼女の手を握る。


「ハーヴ・オーガード。」

短く名乗り、揺れる感情を悟られないように努めた。


しかし、ローズはじっと俺を見つめ、何かを思い出そうとするかのようだった。


「あなた…すみません、どこかでお会いしたことがある気がするんですけど…?」


胸が強く鼓動を打つ。

あり得ない。リッサはもういない。この女性が彼女であるはずがない。

でも、どうして彼女にそっくりな人間が存在するのか?


「いいえ…たぶん、会ったことはないでしょう。」

そう答えながら、小さく微笑んで見せる。


ローズは「ああ、思い出した」と小さく頷き、フェリックスの方を向いた。


「あなた、スカベンジャーの虐殺事件で生き残った兵士でしょう?それで見覚えがあったんですね。」


話をフェリックスに戻し、彼女は問いかけた。


「それで、私に何を頼みたいんですか?」


フェリックスはすぐに説明を始めた。


「俺たちは、マフィアか犯罪組織が関わっているかもしれない秘密の集会を調査している。

 君の情報網を使えば、何か手がかりがつかめるかもしれないと思ってな。

 せめて、どこから手を付けるべきか教えてほしい。」


ローズはゆっくりと頷き、目を細めながら考え込む。


「簡単なことじゃないわ、フェリックス。でも、できる限り調べてみる。

 何か手掛かりはある?」


フェリックスはスマートフォンを取り出し、ヒットマンから得た英数字コードと座標を見せた。


ローズはそれをじっくりと確認し、眉をわずかに上げる。


「これは…面白いわね。この座標は美術館よ。

 でも、もし本当にマフィアが絡んでいるなら、相手は手強いわ。」


フェリックスは薄く笑う。


「俺たちはただ、何が起きているのか知りたいだけだ。」


ローズは一瞬俺を見つめた後、再びフェリックスに視線を戻した。


「わかったわ。少し時間をくれれば調べてみる。

 でも、無茶だけはしないで。計画なしに動くのは危険よ。」


フェリックスは満足そうに頷いた。


俺はというと、まだこの状況をうまく消化できずにいた。

ローズを見るたびに、リッサとの思い出が頭をよぎる。

だが、幻想に囚われてはいけない。彼女は別人なのだから。

今は目の前の任務に集中すべきだ。


店を出る前、ローズはもう一度俺に視線を向けた。

今度は少し柔らかい眼差しだった。


「もし何か必要なら、いつでも連絡して。フェリックスが私の番号を知ってるから。」


俺は小さく頷き、控えめに微笑んだ。


「ありがとう。」


胸の奥では、得体の知れない感情が荒れ狂っていた。


それでも一つだけはっきりしていることがある――

この女性がリッサではないという事実。


だが、どうして運命は彼女と瓜二つの存在を俺の前に現したのか?


フェリックスが行こうと手で合図を送り、俺たちはカフェを後にした。


背後ではローズがスマートフォンを見つめ、真剣な表情で何かを考え込んでいる。


彼女の存在が、なぜか俺の頭から離れなかった。






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