第3章 - 新しい世界
まぶたを閉じたままの俺の目に、一筋の光が差し込んだ。ゆっくりと目を開く。
柔らかなベッドの上に横たわっていることに気づく。驚くほど心地良い。こんなにふかふかのベッドは初めてだ。俺は右側に視線を移した。
「ここは…どこだ?」
身体を起こし、半身を起こした状態で足を前に伸ばす。辺りを見回すと、見たことのない機械がたくさん並んでいた。部屋の中はひんやりとしている。
「あ、目が覚めましたか?ハーヴ・オーガードさんですね?」
突然、女性の声が聞こえた。俺はすぐに声の主へと顔を向ける。そこには一人の女性が立っていた。彼女は純白の服を着ていて、村で見かけるような質素な服装とは全く違う。
そういえば、俺の村にはまだ多くの人が暮らしていたことを思い出す。
「体調はいかがですか?」
彼女はそう尋ねた。彼女が使う言葉は、俺の家族がよく話していた言語と同じだったが、村の言葉とは違っていた。
「…大丈夫だ。」
答えながら、俺はふと疑問に思った。どうしてこの言葉が理解できるんだ?生まれてから一度も使ったことのない言葉なのに。
彼女は俺の脈を測り、瞳孔を確認し、いくつかの検査を行ったが、俺は特に抵抗しなかった。
「うん、大丈夫そうですね。ここで少し待っていてください。また後で戻ってきますから。」
そう言って彼女は背を向け、部屋から出て行こうとする。
「待て…ここはどこなんだ?」
俺の問いかけに、彼女は足を止めて振り返る。
「ここは病院ですよ。」
病院?なんだ、それは?
「ビョ…ウイン?」
慣れない響きに眉をひそめる。
「ええ、病気や怪我を治療する施設です。あなたのような患者さんを治す場所ですよ。」
そう説明されても、俺にはさっぱり理解できない。俺は確か、あの老人に出会った後に意識を失った…そう、これが初めての失神だったはずだ。
「何かあれば、いつでも呼んでくださいね。」
彼女はそう言い残して、今度こそ部屋を出て行った。
静寂が訪れる。
俺は左側に目を向けると、机の上に一枚の紙が置かれていた。手に取って目を通す。
そこには、俺に関する情報が書かれていた。
名前:ハーヴ・オーガード
性別:男性
年齢:22
誕生日:5月11日
身長:195cm
自分のことが詳細に記されているが、ほとんどはどうでもいい内容に思えた。ただ、紙に印刷された奇妙なマークが目に留まる。
「これは…G…S…A…P?」
見慣れない文字の羅列を呟く。GSAP?この不思議な場所といい、未知の言葉といい、理解が追いつかない。俺は一体どこにいるんだ…?
思考が混乱する中、ふいに老人との出会いが脳裏をかすめた。あの謎の老人に会ったあの日から、俺の運命は狂い始めた。
「ハーヴさん。」
先ほどの女性が戻ってきた。
「もう回復されていますね。立ち上がっても大丈夫ですよ。」
彼女の言葉に頷き、俺はベッドからゆっくりと立ち上がった。
彼女の目がわずかに見開かれる。
「…背が高いんですね。」
驚いたようにそう呟き、手に持っていた紙を確認する。
「では、これがあなたの服です。着替えてからロビーに行ってください。お迎えの方がいらっしゃいます。」
彼女は微笑みながら手渡してくる。俺は礼を言い、渡された袋を受け取った。
更衣室に入り、袋の中身を取り出す。
黒いシャツにカーキ色のズボン、そして革製のベルト。見慣れない服に少し戸惑いながらも、なんとか着替えを済ませる。
鏡を見ると、俺の姿が映し出される。まるで水面に映る自分の姿よりも鮮明に。
「こうか…?」
見よう見まねで服を着るが、何かが違う気がする。黒いシャツのボタンを留めていくと、腕周りが窮屈で、胸元のボタンが弾け飛んだ。
「…まあ、いいか。」
適当に袖をまくり、着替えを終えると、俺はロビーに向かった。
そこには大勢の人間が行き交っていた。彼らの服装は、俺の知る村の人々とは全く違う。奇妙な光景に目を奪われながら歩を進める。
「ハーヴ・オーガードさんですね?」
声に導かれて振り向くと、一人の男が立っていた。彼は紺色の制服を着ており、肩には「G.S.A.P.」の文字が刻まれた徽章が輝いている。
「俺を迎えに来たのか?」
「ああ、私はカエル。G.S.A.P.から来た。」
彼は淡々と続ける。
「君は特別な資質を持っている。だから、我々は君を招待した。」
俺は彼の言葉に眉をひそめる。
「もし断ったら?」
「それも自由だ。しかし、ここでの生活は君にとって新たな道を示すかもしれない。」
俺はしばらく考えた後、静かに頷いた。
「…わかった、行こう。」
カエルは満足そうに微笑み、俺を連れて病院を後にした。
車に乗り込み、未知の都市を走り抜ける。村では想像もつかないほどの高層ビル、光り輝く広告、そして未来を感じさせる風景――
ここは、俺が知る世界とはまるで違う。
そして、この場所で新たな運命が待っていることを、俺はまだ知らなかった。