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最期の晩餐? ~明日から他人になる伯爵夫妻~

作者: 木山花名美

ミステリー風味ですがミステリーではありません。

ゆるっとお楽しみください。

 

 とある伯爵邸の美しい庭。

 四季折々の花や草木が息づく此処は、伯爵夫人の部屋の中庭だ。彼女の愛情と繊細なケアにより、どれも皆、生き生きと輝いている。

 その中で、最近夫人が特に気に掛けている花木がある。花と言っても、もうそれらしき姿はどこにもなく、今はブルーベリーに似た、黒く艶々した丸い実を揺らしているだけだ。

 今日も夫人はその実を愛しげに撫で、「いよいよ明日ね……」と微笑むのだった。



 一方こちらは、同じ伯爵邸の地下室。

 暗い室内で、ランプの薄灯りだけを頼りに、伯爵が何やら作業をしていた。手袋を二枚重ねた手で、ラズベリージャムに似た小瓶を持ち、ああでもないこうでもないと試行錯誤している。

 やがて正解が見つかったのか、それを目の前でくるくると回しながら、「いよいよ明日だな……」と口角を上げるのだった。



 この夫婦はよくある契約結婚だった。人前では仲睦まじい夫婦を演じていたものの、寝室を共にしたことは一度もない、いわゆる真っ白な関係だ。

 複雑な家庭環境で育った為、極度の人嫌い……特に女性嫌いになった伯爵。一生結婚などしたくはないが、次々に舞い込む縁談話に辟易していた。彼はこれを回避する為、同じく結婚はしたくないが結婚歴は欲しいという女性と、合意の上で契約を結んだのだ。


 彼が選んだその女性は、伯爵令嬢でありながらも職業婦人だった。男性優位のこの社会で経営学を積極的に学び、趣味のガーデニングをきっかけに取得した、調香師と薬剤師の資格を生かした事業で成功していた。

 封建的な貴族社会に新たな風を吹かせた女性として、若い令嬢達の憧れの存在となったが、これを快く思わない者も多い。女の幸せは結婚して家を守ることにある、淑女たるもの男の前に立ってはいけないという説教と共に、縁談話を持ち込む親戚達にうんざりしていた。

(とりあえず一度結婚しておけば、大人しくなるかな……)

 彼女もそんな考えから、契約書にサインをしたのだ。


 その主な契約内容とは以下の通り。

 ①結婚期間は三年間とする。

 ②互いの生活に干渉しない。

 ③屋敷の外では仲睦まじい夫婦を演じる。

 ────以上。


 利害が完全に一致する二人には、これだけで充分であった。



 さて、そんな愛のない結婚生活がどのようなものだったかというと……これが意外にも、なかなか面白かった。


 まず結婚式から数日後、そこそこ見られる顔だと思っていた契約妻が、パイナップルみたいな頭と化粧っ気のない顔で、屋敷をさくさくと歩き回る姿に伯爵は驚かされる。服もねずみ色とかドドメ色とか……装飾がほとんどないそれは、使用人達の制服より地味かもしれない。貴族女性と言えば、膨らんだスカートをもったりと揺らしながら、日が暮れるような速さで歩くものだと思っていた彼には、顎が外れる程衝撃的だったのだ。

 時にはパイナップルに木の枝が刺さっていたり、顔中土だらけの時もあり。契約条項の②などすっかり忘れて、侍女にその理由を問えば、『今日は一日中、木の上で葉の観察を……』とか、『穴を掘りながら新製品の構想を……』などと返ってきた。


 そのあまりの汚ならしさに興味を掻き立てられ、ある日ついに、伯爵は柵の隙間から中庭を覗いてしまう。彼の目に映ったのは、捲ったスカートを腰の辺りで結び、池の中を素足で歩き回っては、何かを網で掬う妻の姿だった。

『あっ、あった!』とただの藻にしか見えないものを手に乗せながら、ニヤニヤと笑う妻。その汚ならしい笑顔に、何故か伯爵の胸は、生まれて初めてドキリと跳ねた。


 良く言えば媚を売らない、悪く言えば愛想がない。契約結婚には最適だとしか考えていなかった彼女の愉快な一面に、伯爵は日に日に惹かれていったのだ。



 それは彼女の方も同じだった。

 良く言えば感情の起伏がない、悪く言えば無愛想。契約結婚には最適だとしか考えていなかった伯爵に、彼女は日に日に惹かれていった。


 外出しない日でも、いつも窮屈そうなクラヴァットをきちんと締め、長い足で颯爽と歩く契約夫。そんな彼は、彼女と廊下ですれ違う度に足を止め、大道芸人さながらの豊かな表情を見せてくれる。目を見張ったり、口をあんぐりと開いたり、えっ!? と二度見したり。

(実はすごく愉快な人なのかもしれない……)と必死に笑いを堪えながら、何ともない風を装い、彼の横を通りすぎていた。


 ある日、彼女の肩に付いていたらしい芋虫に、『ぎゃあっ!!』と叫びながら飛び退いた伯爵。ぷるぷる震えながら、従者の背に隠れる姿を可愛いと思うと同時に、何故か彼女の胸はきゅんと切なくなった。

 生まれて初めての感情……得意の分析を重ねる内に、これが恋心であることを自覚してしまった。



『夕食だけは一緒に摂らないか? 契約条項②には違反するが……その……③の為に』


 そんな伯爵の提案を、夫人は戸惑いながらも受け入れた。端から見たら、どちらも表情の乏しい二人。腕を組んでいても、肩を抱いていても到底夫婦には見えず、一部では不仲説が囁かれていることを知っていたからだ。夕食の席を共にすれば、『普通の夫婦』というものに一歩近付けるのではないかと。


 ……が、そんな期待も虚しく、今夜も食堂には無機質な食器の音だけが響いている。会話らしい会話などほとんどなく、給仕の運ぶ料理を黙々と口にする二人は、『普通の夫婦』からは掛け離れていた。

 しかしその内、夫人の皿には大盛りマッシュポテトが必ず提供されるようになり、伯爵のカトラリーやティーカップは新しい物に変わる。契約条項②は密かに破られながらも、互いにそれに気付かぬまま、静かすぎる夜の一時を楽しんでいた。



 契約条項①の三年の月日は瞬く間に流れ、間もなく満了日を迎えようとしていたが、二人に延長の意思はなかった。延長したところで、相手が幸せになる訳ではない。むしろ迷惑を掛けるだけだと分かっていたからだ。

 この結婚で、二人は当初の狙い通り結婚歴を手に入れた。と同時に、貴族社会ではあまり好ましくないとされる離婚歴も。


(デメリットも大きいが……これでいい。お互いしばらくは、縁談話に悩まされることもないだろうから)


 離れた部屋で残りの日数を数えながら、それぞれ切ないため息を吐いていた。



 ところが契約満了日から遡ること一週間前、夫婦は家令と侍女から、あることを密告され……これが後に、この契約結婚の結末を大きく変えることとなる。



『最近奥様は、中庭で怪しい実を栽培されているそうです。お部屋のキッチンで、毒の専門書を見ながらそれを煮込み、旦那様が愛飲されているものと同じワインに混ぜたり……。カレンダーの契約満了日を何度も睨みながら、調合を繰り返されています』


『最近旦那様は、地下室にドクロマークの付いた怪しい薬を幾つも保管されているそうです。何でもその薬は、裏社会に通じていると噂のご友人から手に入れた物だとか。他にも女性向けの拘束具など、物騒な物を沢山……。カレンダーの契約満了日を何度も睨みながら、それらの説明書を確認していらっしゃいます』



 まさか、妻(夫)は…………俺(私)を?

 もうじき円満離婚が成立する予定だというのに、どうしてそんなことを。

 ……一つメリットがあるとすれば、離婚ではなく、死別になるということだろうか。社会的信用を失わずに、結婚歴だけを得たまま綺麗に別れられるから。


 まさか! あの可愛くてちょっと抜けている妻(夫)が、そんなことをするだろうか。

 だが(だけど)もし、そのまさかだったら……きっとXデーは契約満了日だ。舞台は……最後の晩餐だろうか。


 ごくりと息を呑む。


 妻(夫)の手を汚したくない。

 ……出来れば自分の身も守りたい。


 固く決意した夫婦。

 それから妻は中庭へ、夫は地下室へこもり、試行錯誤する日が続いていた。



 ◇◇◇


 予想通り、それから何事もないまま、ついにこの時を迎えてしまった。

 ──────契約満了日の最後の晩餐を。

 “ 最後” ではなく “最期” になるかもしれないと、二人は緊張した面持ちで食堂の扉を開いた。

 最後にふさわしく豪華で……やや奇妙な料理が並ぶ食卓。いつもと変わらぬ、夫人の皿の山盛りマッシュポテトと、伯爵専用のカトラリーが、却って不気味な雰囲気を醸し出していた。


 伯爵は食卓のワインとグラスを交互に見ると、出来るだけ冷静にこう言う。


「……なあ、今夜は君が上座に座らないか?」

「え?」


「三年間、大きな問題もなく無事に契約を履行出来たのは、君が契約内容をきっちりと遵守してくれたお蔭だ。だから、今夜は私が君を労いたい」


 “ きっちりと遵守 ”


 その言葉に、夫のカトラリーをチラリと見る夫人。契約条項の②を破ってしまったことが、今更ながら心苦しくなる。それに、この突然の席替えには、何か恐ろしい意図がある気がして。「あちらは旦那様のお席ですから……」と断ったものの、結局押しきられ、上座に座ることになってしまった。


 マッシュポテトの皿とカトラリーを置き替えた給仕を下がらせると、伯爵は自らの手でワインの栓を抜き、夫人のグラスへと注ぐ。続けて伸ばされた夫人の手を制し、自分のグラスは空のままで、ワイン瓶をコトリと置いた。


「私はいい。酒は眠りが浅くなると、医師から当分禁じられているんだ」


 残念そうに言いながら、伯爵は水で満たされたグラスを手に取った。


「では、私達の最後の晩餐に……乾杯」

「……乾杯」


 グラスを上げる二人。ごくりと水を飲む伯爵を横目に、夫人もにおいを嗅ぎつつ慎重にグラスに口付けた。舌先にほんの少しだけ触れたワインからは、丁寧に歳を取った豊潤な葡萄の味しかしない。

(大丈夫……多分普通の……いえ、すごく良いワインだわ)

 一口、ごくりと飲み込み、そっとグラスを脇に置く。そんな夫人の一挙一動に、伯爵は目を光らせていた。


「それにしても、今日のこの料理は何なんだ?」


 † 紫キャベツとサーモン、ブラックオリーブのサラダ

 † イカ墨と雲丹のグラタン

 † カボチャのパイ

 † 紫芋のポタージュ


 そして……ゆで卵の目玉、トマトソースの血、ソーセージの指など、とにかく気味の悪いオードブルの数々。


「隣国から伝わった、収穫祭を楽しむ為のメニューです。最近流行りなんですよ? 魔除けの意味もあるので、私達の門出に相応しいと思い、シェフに頼みました」


「魔除け……こんなものを食べたら、余計呪われそうじゃないか」


「ふふっ、確かにそうですね。ですが魔は魔で……毒は毒を以て制するのです」


 ピシッと走る緊張感。夫は妻を、妻は夫を。互いにその瞳の奥を探り合っていた。



(どれもこれも毒みたいな色だな……。ブルーベリーに似ているという例の黒い実は、潰すと鮮やかな紫になるらしい。だから出来るだけ紫のものは避けよう)


 そう考えた伯爵は、ワインの次に怪しい紫芋のポタージュを避け、ゆで卵とキャビアの載ったクラッカーから噛り始めた。夫人はそんな伯爵に目を光らせながら、全く同じクラッカーに手を付ける。ちびちびと、互いの様子を見ながら噛る為、全然次の料理に移ることが出来ない。やっと三つ目のオードブルを飲み込んだ時には、メインディッシュのローストビーフが到着してしまった。


(……ん?)


 夫人は首を傾げる。傍らにナイフが用意されているものの、給仕は塊肉を切り分けずに、そそくさと食堂を後にしたからだ。その様子を見て、伯爵は淡々と……でもどこか楽しげに言う。


「ああ、今日は全て自分でやるからいいと、最初に断っておいたんだ。何しろ最後の晩餐だからね」


 銀の大皿を手繰り寄せ、ナイフに手を伸ばす伯爵。ところがはたとそれを宙で止め、困ったように眉を寄せた。

 夫人は片刃のそのナイフを見て、ああと頷き、私がやりますと申し出た。右手にナイフを握ると、肉を器用に薄く切っていく。


「……すまない」

「いえ。このナイフでは切りにくいですよね」

「知っていたのか?」

「ええ、もちろん。何度夕食をご一緒したと思っていらっしゃるんですか」


 にこりと微笑む夫人に、伯爵は自分のカトラリーを見下ろした。


「もしかして……これも君が?」


「ええ。友人が開発した、左利き専用のカトラリーです。ほんの少し造りが工夫されているだけで、とても使いやすいでしょう?」


「……ああ、すごく。お蔭で、食事をより美味しく感じるようになったよ。どうもありがとう」


「いいえ。お役に立てたなら嬉しいです。……はい、どうぞ」


 薔薇の形に盛られた美しい皿を、伯爵は泣きそうな顔で受け取る。そっと置くと、今度は夫人の皿を見ながら尋ねた。


「ポテト……今日は食べないのか? 好きだろう?」

「ご存知だったのですか?」

「もちろん。何度一緒に夕飯を食べたと思っているんだ」


 僅かに口角を上げる伯爵に、夫人はマッシュポテトの山を見下ろした。


「もしかして……こうして夕食の度に出して下さるのは?」


「ああ。君の好物だからと、シェフに指示をしたんだ。焼き立てのパンよりも、パイよりもずっと好きだろう?」


「……ええ、すごく。お蔭様で、夕食の時間をより幸せに過ごすことが出来ました。ありがとうございます」


 夫人は泣きそうな顔をペコリと下げると、自分の前に、少し歪になってしまった薔薇の皿を置いた。

 ポテトとローストビーフ。最高の組み合わせね、とソースを掛けていた時、夫人の身体を異変が襲った。


(何……これ……)


 震える手でソースポットを置く。


 暑い。とにかく暑い。身体の芯を炎が駆け抜け、何度も往復しては下腹部がむず痒くなる。夫人は熱い息を吐くと、何かを求めて開こうとする身体を慌てて引き締めた。しかしその刺激でさえも、凄まじい熱となって彼女を苦しめる。


(これはきっと…………)


 “ 媚薬 ”


 何故? と涙目で夫を見上げれば、その美しい顔も苦しげに歪んでいた。はあはあと浅い呼吸を繰り返し、耳を疑うような甘ったるい声を吐き出した。


「ポテトだけじゃなくて……俺のことも……好きになって……欲しかったな」


「……え?」


「ヴェラたん……好き……大好き♡ 俺……ほんとは離婚なんてしたくないんだ。今日で……最後だなんて……お別れなんて……絶っっっ対にイヤだあ!」



 ──────誰、この人。



 夫人は熱も忘れてフリーズするが、自分が盛った毒の効果を考えれば、それが彼の本心なのだと納得するしかなかった。納得ついでに、ストレートな質問を投げ掛けてみる。


「貴方……一体どうやって……媚薬を?」


「ナイフに……ナイフの柄に……うす~く塗ったんだよん。経皮吸収タイプの……媚薬。左利きだって言えば……切ってくれると……思って。けど……言わなくても……もう知ってたんだね。へへっ、嬉しいな」


「珍しい……媚薬ね。はあっ……裏社会の……友人から……もらったの?」


「裏社会じゃなくて……裏の店ね。男女のお楽しみグッズが……沢山売っている店。愛妻家の……友人が勝手に……送りつけて……くるんだ。使える訳ないし……地下にしまってたけど……結局……使っちゃった。へへっ」


「どうして……私に……媚薬を?」


「さっき……言ったじゃん……別れたくないって。身体さえ……繋げちゃえば……って。それに……俺、君に殺されたくないし」


「殺され……?」


 それはこちらの台詞だと言いたいが、暑すぎて喋ることもままならなくなってきた夫人。ブラウスのボタンを一気に三つ外せば、白い喉から胸元にかけての神秘的な領域が現れた。欲望のまま、素直に注がれる伯爵の視線。見てはいけないとか、逸らさなければとか、そういったことが全く考えられない。そこで漸く、伯爵は何かがおかしいと気が付いた。


「あれ……そういえば俺……何でこんなに……ベラベラ喋っているんだろ。これ……はあっ、毒……なの?」


「ええ……そうよ……自白剤。貴方が……この三年間……私をどう思っていたのか……本心を……知りたくて。自分で……調合したの。貴方に……殺されたく……なかったし」


 どうやら何かがすれ違っているらしいが、伯爵の頭には霧が掛かっており、深く考えることが出来ない。ひとまず一番恐れていたことを、ストレートに訊いてみる。


「中庭で……育てていた……実か? ブルーベリーみたいな……」


「ええ……貴方、眠りが浅くて……いつも……疲れていそうだったから。体質に合う……睡眠薬を……調合しようと思って……栽培したの。それを少し……いじって……自白剤にしちゃった」


「どうやって……飲ませたの?」


「朝食の紅茶……貴方の……左利き用のカップの……底に……薄く塗っておいたの。遅効性だから……ちょうど夕方から……夜には効いてくるだろうなっ……て。特定のハーブと合わせるとね……あの実は……無色無臭無味になるのよ。身体にも……やっ、やさ……しい」


 そこまで話すと夫人は腰を浮かせ、そのままがくりと床に倒れ込んだ。


「ヴェラたん!」


 伯爵は素早く立ち上がり、真っ赤な顔で喘ぐ彼女を支えた。……息が整わない割には、自由に動く元気な身体。彼女の調合技術に感謝しながら、最後の質問をする。


「何で……何で俺に自白剤を? 何で俺の本心を……知りたかったの?」


「……好きだから。大好きだから。少しでも……ほんの少しでも……私を好きでいてくれたら。離婚も……殺すのも……思い止まってくれるかなって……はあ」


 潤んだ彼女の濃紫の瞳から、涙が一筋(こぼ)れる。


(これは……毒だ。きっと猛毒だ)


 分かっているのに、心も身体も抗うことが出来ない。伯爵は夫人を軽々と抱き抱えると、廊下を足早に歩き、初めて使う夫婦の寝室を乱暴に開いた。



(ポテトとローストビーフ……食べたかったな)


 扉の閉まる切ない音を、まだどこか冷静に聞く夫人。だが、彼の黒い双眸から注がれる猛毒に、忽ち心が蝕まれていく。心身が織り成す快楽のハーモニーに、大人しく身を任せた。




 時計の針が夜の12時を回ったその時から、二人は契約夫婦ではなく、愛という名の元に成立する夫婦へと切り替わった。

 いつまでこの気持ちが続くのか、いつまで傍に居られるのか。今、この瞬間に終わることも、永遠に続けることも出来る不安定な関係。

 それでも毒の味を覚えてしまった二人は、互いの中で今日を迎えたことに幸せを感じていた。

 危険で、愚かな、甘ったるい幸せを────



ほとんど手を付けていないご馳走は、使用人達が美味しく頂きました。

(媚薬ナイフは、事情を知る給仕が安全に処理しております)


媚薬をくれた友人は、

『どうやら私は、身体の弱い妻ということになっているらしい』

https://ncode.syosetu.com/n8961jh/

に登場するヤンデレヒーローです(*^^*)


お読みいただきありがとうございました。

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拝読させていただきました。 グイグイ読み込ませる文章はさすがですね。 前半は「素敵なカップル」かなと感じてましたが、終盤に双方の「恋愛不器用」が凄い形で炸裂しましたね。 楽しい作品でした。 読ませてい…
投稿感謝です^^ 口から砂ではなくて、何かドロッとペースト状の甘ったるくも体に悪そう(無毒)なナニかをマーライオンしてしまいそうな楽しいラブコメでした♪
[一言] 翌朝、 「ヴェラたん、あーん」 と言いながら、山盛りのマッシュポテトを一匙ずつ愛妻に給餌する伯爵さまの姿があったとかなかったとか。
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