7話 -ゲームなキャラメイク-
光源を放つ巨大モニターに触れるとそこに九十九 正義の映像が現れた。
「これでキャラメイクするのか?普通にゲームみたいなんだが」
キャラメイク画面の上にいるアヒルに向かって喋りかける。
「ガッガッガッ!そりゃそうだ。そのほうが分かりやすいだろうってことで、真似して作ってるからな」
「なんだそういうことか。それなら安心だ、ゲームなら人並みにやったことがある」
「私もあるよ」
臥龍岡 小袖が得意げに言うのを見て九十九はなんだか少し楽しくなった。最近は死にたい死にたいとばかり思っていたのでこんな浮ついた気分は久しぶりだと思う。
モニターに映し出されている自分は自分のはずなのだが、違和感がある。こんなにも生命感の無い顔をしているだろうか。まるで指名手配犯みたいに見える。その画像の下には「人間」「それ以外」という文字が表示されている。
「それ以外って選択肢があるぞ!これを選んだら人間じゃなくなるってことかよ」
「ガッガッガッ!そりゃそうだ見たらわかるだろう」
何当たり前のことを聞いてんだ、みたいな言い方。
「それはそうだけどさ」
言い方も若干腹が立つが、アヒルに言われているということが余計に腹が立つ。ゲームのような画面とタッチパネル。これを操作するだけで、自分が人間じゃなくなってしまうなんて、とても信じられない。
「そんなもん人間一択だろ」
「ガッガッ!お前がそう思うならそうなんだろ」
「なんか言い方が腹立つな」
なんだこのアヒルは俺に対してさっきから辺りがきつくないか?
「それ以外ってのちょっと見てみてよ」
気がつけば小袖が隣にいた。ふわっといい匂いがきた。
「なんでだよ」
「見てみるだけ見てみればいいじゃん。見たからってそれに決まっちゃうってことじゃないんでしょ?」
「ガッガッガッ!そう、見るだけならタダだ」
「ほら」
少し得意げな顔。言われてみればそうかもしれない、何があるのかを知ったうえでから考えてもいい。九十九は自分が人間じゃなくなる、ということに恐怖を感じていたことに気が付いた。
「わかったよ」
モニターの「それ以外」のところを指でタッチしてみた。
「うーわ」
嫌な気持になった。
オークと言えば醜くて不潔で頭が悪くて好戦的で、なによりも性欲全開のイメージがある。いくらなんでもこれはあり得なすぎる。
「オークだって」
「これは絶対に嫌だ」
さっきまで人間だった自分の映像が、腰に布を巻いただけの2足歩行のゴツイ怪物になっている。顔は豚を醜くしたような感じだが、どこか自分の顔の面影がある。
「そうだよね、ほかには?これじゃないやつもあるんでしょ?」
「ガッガッガッ!それだけだ」
「それだけってオークだけってこと?」
「ガッガッガッ!そうだ。ガッガッガッ!ガッガッガッ!ガッガッガッ!」
「笑うな!」
「ガッガッガッ!ガッガッガッ!ガッガッガッ!」
見ると小袖まで笑っている。
「オークしかないんだったら最初からオークって書けよ。なんでわざわざ「それ以外」なんて書くんだよ、意味ないだろ」
「ガッガッガッ!ガッガッガッ!ガッガッガッ!」
「いつまで笑ってんだよ!」
「ガッガッガッ!あー面白っ。何があるかは人によって違うんだよ。俺が今まで見た中で1種類っていうやつは初めてだ。いままでの奴らだったら普通は3種類くらいはあったんだけどな」
「はぁああああああ!?なんだよそれ腹立つな」
「良いじゃんオーク。なんか強そうだよ」
小袖は目から涙をぬぐいながら言った。
「ありえないありえない。やっぱ人間しかありえない」
上の方に「戻る」ボタンが表示されていることに気が付いた。
「これで前のページに戻れるのか」
「この数字って何?」
ん?たしかに俺っぽいオークの隣には数字が表示されている。物攻30、物防30、魔攻3、魔防3、スピード5、精密5、頭脳3。
「ガッガッガッ!これは基礎ステータスだな」
「本当にゲームみたい」
「やっぱりオークだけに物理に対しては強そうだな」
「やっぱりこの物攻って物理攻撃力のことだよね?そしたら魔攻は魔法攻撃のことかな」
「多分そうだろ」
「オークってめっちゃ魔法に弱いじゃん。魔法を覚えたらあっという間に殲滅されるタイプだね。魔法の全体攻撃があったらカモみたいな」
「確かにそうだな………このBPっていうのはまさか」
オークという表示の横にはBP261と表示されている。
「ガッガッガッ!それはボーナスポイントだ。それをこの基礎ポイントの数字のに好きなように振り分けて上下させることができるぞ」
「面白そう!」
小袖はテンションが上がっている。さっきまでの不機嫌そうな様子はすっかり消えていた。
「思ってたよりボーナスポイントは多いな。」
「そうね。普通のゲームだったらこんなに沢山は無いよね。せいぜい10ポイントくらいかなと思うんだけど、もしかして九十九って凄く才能あるんじゃないの?」
「そんなの分からないぞ。ほかと比べてみないと多いとも少ないとも言えないだろ。全員同じポイントかもしれないし、それにもしかしたらこれは罠かもしれない」
「罠?そうか、こんなに沢山あるっていうことは俺ってすごいんだ、見たいに思わせて実は普通ってこと?」
「そうだよ。99%で死ぬっていうあの文字を俺は忘れてないんだ」
「そうだよね。比べてみないと分からないか」
小袖は腕を組みながら頷く。
「けどとりあえずオークは絶対ないから」
戻るボタンを押すと九十九のようなオークの映像は消え、人間の九十九に戻った。それを見て九十九はほっと息を吐いた。
「それじゃあ人間を見てみよう」
モニターをタッチすると、人間の映像とステータスが表示された画面に進んだ。オークの時に比べて数字が平均的な印象だ。
「あれ?数字が違う」
小袖がモニターを指さして言う。
「ステータスは種族によって違うんだろ」
「そっちじゃなくてボーナスポイントのほう」
「は!?」
見てみると確かに違う。
人間のステータスは物攻10、物防10、魔攻10、魔防10、スピード10、精密30、頭脳30でオークとは当然数値が違う。ゲームをやったことのある人間なら違うことは当たり前で、なぜそんなことを言いだすのか不思議だったが、小袖は違う所を見ていたようだ。
「BP87!オークの時は260とかじゃなかったか?」
「ガッガッガッ!261だ。よく気付いたな、お前は結構馬鹿そうだから気付かずに行くかと思ってたぜ」
「おい!誰が馬鹿そうだよ。っていうかなんでこんなに違うんだよ」
「ガッガッガッ!勘違いするなよ人間のほうが少ないってわけじゃなくてオークのほうが多いんだよ」
「どういうことだよ」
「そのまま人間になられたら面白くないからな。そのパターンのやつはいままで何回も見てきたから飽きたんだ。だから人間以外の種族になった時には人間の時のボーナスポイントが3倍になる様になってるんだ」
「3倍か………」
九十九は87の3倍が261であるか頭の中で計算しようとして見たがすぐに諦めた。
「オークもいいかも、って思ってるんじゃない?」
小袖が楽しそうに言う。
とても楽しそうだ。