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ザー!!!!


春人はるとは夜中に目が覚めた。水が地面に叩きつけられる音がする。


…雨降ってきたな。


寝ぼけた頭で春人は思った。


ビュー!ビュー!!!


建物が揺れるくらいの風が吹いている。


ザー!!!!

ビュー!ビュー!!!


…勘弁してよ。明日朝イチでバイトなんだよ。


ザー!!!!

ビュー!ビュー!!!


ザー!!!!

ビュー!ビュー!!!


何度か寝返りを打ったが、雨も風も収まる気配がない。


…なんなんだよ、これ。春一番でもない。梅雨の時期でもない。この時期の嵐ってなんなんだろうな。異常気候か?地球温暖化か?エルニーニョか?いや、毎年こうだっけな?去年の天気なんて覚えてねーよ。


眠たい頭で春人は考えた。


なんだか知らないけど、ただでさえ夜中までゲームしてたっつーのに。やっと眠れそうだったのに。


最近、寝不足なのは自覚している。ただ、悪夢を見ないようにするには、眠気で倒れるくらいまで起きてないとスコンと眠れないのだ。


春人は頭から布団をかぶって眠ろうとした。

が、暑くてすぐに頭を出してしまう。


ザー!!!!

ビュー!ビュー!!!


ザー!!!!

ビュー!ビュー!!!


だー!!なんなんだよ、くそっ。


腕を上げた反動でそのまま起き上がると、春人は窓のほうへ歩いた。


ベランダに植木鉢置いてなくてよかったなあ。…てか植物なんて育てられる気がしねーけど。


ハハハと乾いた笑いをこぼしながら、春人は窓の外を見た。


窓には雨が叩きつけられていて、外はよく見えない。

ぼんやりと街灯のあるあたりの木が、風で斜めに揺れているのが見えるくらいか。


あー、これ、明日の朝、電車遅れるやつじゃ…


都市の電車網は繋がっているがゆえ、一つの線が止まったら他の線にも影響が出る。そこから遅延のドミノ倒しだ。電車の遅延で待たされるほどイラつくものはない。


ぼんやりと外を見ていた春人だが、ふと目の端に白い何かを捉えた。


なんだと思ってそちらの方を振り向くと、なんで今まで気づかなかったんだという至近距離に、白い服を着た少女が…


…春人のベランダの縁に立っていた。


「っ!おい!」


春人は勢いよく窓を開けた。とたんに強雨が全身に叩きつけられる。目を開けてられないほどの雨だが、必死に目を開くとベランダの外に出た。


何やってんだ!ここは8階だぞ!なんでこんなところに!


おかしい、何かがおかしい、と思いながらも、春人は少女のほうへ手を伸ばした。


「捉まれ!」

春人は少女の腰に手を回してベランダの中まで少女を引っ張った。春人の力に逆らわず、少女の体はふわりと浮いた。


…軽い?

春人は眉を顰めたが、それどころではない。


「おい!大丈夫か!何やってんだ、こんなところで!」

少女の体が飛ばされないように春人は少女を抱きしめた。嵐に負けないような大声で叫んだ春人を見て、少女は一瞬きょとんとした顔をすると、ふわりと笑った。


ドキ!


少女に見惚れた春人だが、それどころではないと少女を抱き抱えたまま部屋に入った。


ザー!!!!

ビュー!ビュー!!!


バタン


窓を閉めると外の嵐の音がいくらかマシになった。


「あー…濡れたな。タオル持ってくるから、ちょっと待ってて。」


春人はそう言うと、バスルームに向かった。洗面所の鏡に映った自分はびしょ濡れだった。


そりゃ濡れるよなぁ。雨だし。


春人は顔に張り付いた髪の毛をうっとうしそうにかき上げると、タオルを持って部屋に戻った。


「ほら、これ使っ ——」


!!!!


部屋の真ん中で、少女がふわりと浮かんでいた。白いワンピースが黒髪と共に揺れている。口元には楽しそうな笑みを浮かべ、眼は閉じている。


「おっおまっおいっ」


喉が張り付いて声がうまく出ない。

少女は春人の声にならない声に反応して、春人の方を向いた。

ゆったりと開いた眼は、トルコ石のような鮮やかなブルーだった。


「なっなんだお前!」


やっと声になった声は、思ったより大きな声にはならなかった。少女はふわりと春人のところまで浮かんでくると、春人の頬を小さな手で包んだ。


…あったけー。

違う、そんなこと考えてる場合じゃなくて。


春人が少女の手を掴もうとすると、少女はプニっと春人の頬を押した。


「おい!」


頬が顔の中心に寄って、唇がとんがる。


くすくすくすと声を出さずに笑った少女は、さらに頬を押してくる。


「おい!やめろって!」


けっこう痛い。だけど女の手を振り払うのはいただけない。たとえ幽霊であろうとも。


「やめろってば!」


春人が首を振ると、少女はパッと手を離した。窓の方を振り向いて、不快そうに顔を歪める。


…今、舌打ちしたよなあ。


少女は春人の方を向き直すと、口を開いた。何かを言っているらしいが、声は聞こえない。


「なに?何だって?」


春人が一歩近づくと、ふっと少女は消えた。


「え。」


はあ?

嘘だろ…


春人は呆然と立ち尽くす。

ブルッと震えると、そうだ、濡れてたんだと思い出して握りしめていたタオルで頭を乱暴に拭いた。

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