別世…
飛びかかった彼女はナイフを振り下ろした。
その目は、サクラの目をまっすぐ見つめている。
それを受けようと彼は大剣を持ち上げた。
しかし、ナイフは大剣に触れることは無かった。
「サクラ!」
その光景に思わず目をつぶった。
”バタバタ”
多量の液体が落ちる音が聞こえた。
次の瞬間私は
”ドンッ”
と低く鈍い音に後方へ飛ばされた。
体を起こし目に入ったものは
左肩にナイフが刺さったサクラ。
それから、全身に傷を負った彼女の姿。
「は?」
と掠れた声を発した後、全身の力が抜けたように倒れた。
サクラは、大剣を構え立っている。
後ろから複数の足音が聞こえる。
きっとシオンたちだろう。
彼女もその音に気がついたのか、その場を立ち去ろうと体を持ち上げる。
しかし、姿勢を保てず横に倒れ込んだ。
その後部屋に辿り着いたシオンがサクラを治療し宿に話をしに行った、ヒスイは彼女を拘束して国軍警備隊に引き渡す手続きをしている。
その国軍警備隊はサクラ達に酷く怯えているように見えた。
その時たまたま近くにいた私に、小さく、私だけに聞こえるような声で、
「別世…」
と呟いた。
その言葉は、頭の中の奥の奥を燻る様な恐怖と憎悪、まるで、その言葉をずっと捜し求めてたかの様な、それをこの手でぶっ壊したいような、そんな感情の布を私に被せてきた。
彼女が引き渡された後、サクラが近くに寄ってきた。
「どうした?震えてるぞ?」
「大丈夫…ちょっと、怖かっただけ」
そう口にしたら、膝から崩れ落ちてしまった。
まだ日が天に届いていないのに、もう1歩も歩けないほどに疲れていて、顔を上に向ける気力も無かった。
それを悟るかのように、サクラは手を差し伸べてきた。
私は何も言わず、その手を取り立ち上がる。
その体の傷はもう無くなっていて、ナイフの深く刺さった傷のみになっている。
「大丈夫」
そう彼は言った。
その言葉は、私に被さった恐怖を剥ぎ取るには十分だった。
「歩けるか?」
「うん、大丈夫」
シオンが、宿との話を終え戻ってきた。
「出発出来そう?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「大丈夫」
ヒスイも国軍警備隊との話を終え戻ってきた。
「じゃあ、行くぞ」
とヒスイは、先を歩いていった。
私達もそれに続く。
日が天に届く頃、街の端まで辿り着いた。
のどかな耕作地の広がる道が見える。
その近くには川が流れていて、ポツポツと小さな家が見える。
「よし、ちょっと休憩するぞ」
川沿いに行って水を飲んだ。
サクラ達は、ここまで来る途中で買った料理を分けている。
私もそこに加わって、綺麗な澄み渡った風とともに、料理を食べた。
全てを食べ終わる前に、満腹になってしまったので、それらを袋に詰め直して、少し休憩してからまた歩き出した。
次の街はまだ見えない。
その1本の道を歩いて次の街へ向かう。
その街はアルヒポリの首都。
サクラ達の住まう家があるところ。
別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世、別世……