第15話 加入
今、俺たち三人は、半壊した飯屋にて朝食タイムの真っ最中である。ちなみにその三人とは、俺とセネカ、そして無銭飲食娘のことだ。
「いやぁ、このオムライスは絶品だな」
「違う。絶品なのはこのカレー。それだけは譲れない」
「…どちらでもいいじゃないですか」
何故このような状況なのか説明するには、少しばかり時を遡らねばなるまい。
「スベテアナタノオオセノママニ」
…いかん、戻りすぎた。
朝っぱらから襲撃してきた無礼極まりない豚(正式名称不明)も立ち去り、宿屋で再び安息の時を味わおうと回れ右をしたが…なにやら背後から視線を感じる。
何事かと振り返ると、豚から金銭を騙し取った小娘がこっちを見ていた。しかもジト目で。
「貴方達に聞きたい事がある」
そう言って少しばかり息を吸い込んだ後、無機質かつ起伏のない声で続けた。
「あの豚は何度も『勇者』と言っていた。今ここには私と店主の他に貴方たちしかいない。無論私は勇者では無いし、店主はただの飯屋。」
ただの飯屋にしてはイヤにマッチョだな…。つーか未だにモーニングスター持ってるし。
「つまり……貴方達が勇者?」
……返答に困った。まぁ、セネカ…並びに赤と青のマッチョ氏+長老によると、俺はまごうことなき勇者であるそうなのだが、いかんせん俺にはその自覚が芽生えて来てくれないのだ。
実際俺は勇者なのだろうか? …などと自分に語り掛けていると、隣で無意味に笑顔を振り撒いていたセネカが一歩前に出た。
「ええ。その通りですよ。確かに彼は勇者で、魔王を倒すための旅をしています。そして僕はただの付き人です。」
セネカよ、君はハッキリ物を言うんだね。
いや…ちょっと待て……
「何かその言い方だと、お前は戦わないみたいに聞こえるんだが…?」
「はい。僕には戦闘能力なんてありませからね。あくまでただの付き人です」
ふふっ。と笑う。
「えっ……お前魔法とか使えるんじゃないの? 何か『ファイヤーー!』みたいな感じの出来んじゃないの?」
「いえ、この世界における『魔法』と言う技術は、ずいぶん昔に封印されていて一部の限られた者達しか使えませんよ」
はははっ。と笑う。
「お前はその一部の限られた者達のカテゴリーに入ってないのか?」
再び、ふふっ。と笑う。おのれ…話を逸らすな。
「じゃあ、俺がこの世界に来たとき、でっかいミミズみたいな奴に襲われてただろ? あの時は魔法か何かで助けてくれたんじゃないのか?」
…セネカの顔から笑みが消えた。なんだ?
「…あれは勇者様がご自分の力で倒したんじゃ無いんですか?」
「何言ってんだ。俺は普遍的にして一般的な一高校生だぞ。そんな真似は出来ん!」
はっはっは。と笑ってやった。
「では…何故……? あの時僕は何もしていませんよ。僕があなたを見つけた時、その魔物は事切れてましたから…」
はっはっは………は?
「ですから、僕は何もしていません」
笑わない。
「本当か?」
「本当です」
…笑えない。
あの時、あのミミズ的摩訶不思議生命体は、間違いなく頭(…と思われる部位)から血が出ていた。恐らくそれが致命傷で、俺達とは別の何者かの力によって倒されたと考えるのが妥当だ。つまり…あの場所に俺とセネカ以外に━━
「理解した」
唐突に小娘が口を開いた。なんだ? まさかお前…この謎が解けたのか!?
「つまり、貴方は勇者で、魔王討伐の旅の最中。これで正しい?」
なんだ、その事か。…あー、ビックリした。
「あぁ、不本意ながらそうなるな」
「まぁまぁ。そう仰らないでください」
セネカの顔にはいつの間にか微笑みさんが帰ってきていた。おかえり。
「不本意?」
「いろいろあったんだ…」
説明するのもかったるい出来事が。
「…不本意と言うのは引っ掛かる。しかし、貴方が勇者ならば一つ頼みがある」
「なんだ? 事前に言っておくが、俺はたいして人の力にはなれんぞ」
なんせ『勇者』なのは肩書きだけだからな。俺は先刻も言ったように普遍的一般的一高校生なのだ。
「私を貴方達の旅に同行させて欲しい」
「……へ?」
『無銭飲食娘がパーティーに加わった』
その後、半壊した店の中で良ければと言う店主の計らいによって、三人で飯にありつけることになった。しかも無料でだ!
…はい、回想終わり。これでやっと冒頭に繋がってくる訳だ。
「店主、カレーおかわり」
「はいよ」
タダにかこつけて一心不乱にカレーを流し込む小娘。ちなみにこれで17杯目、どうやら俺が回想してる間に三杯も食いやがった。そのちっこい体のどこに入っていくのか説明して欲しいね。
「ところで、なぜあなたは我々の旅に同行しようと思ったのですか?」
食後のお紅茶をすすりながら、セネカが問いかける。
「その理由なら至極簡単。貴方達が勇者だから」
…微妙に答えになっていないような気がするのは俺だけか?
「それでは、勇者でなければ着いてこなかった。と?」
「そう」
なかなか聞き上手だな。よし、がんばれ。俺はその間にこのオムライスを片付ける。
「では何故、勇者に拘るのですか?」
「それは…」
そいつは、そう言った途端、カレーを食い続ける手を止めて真剣な眼差しになった。なんだ…魔王に浅からぬ因縁でもあるのか? オムライスを掬う手に、自然と力が入る(意味は無い)。
すると、虚ろな瞳を通常時の三割増し位に輝かせ、そいつは呟いた。
「勇者と共に魔王を討伐すれば、莫大な恩賞を得られる。それが理由」
カラーン
おっと…しまった。スプーンを落としてしまった。店主! お取り替え願いたい。
「あっはっは。実に愉快な理由ですね」
笑い出すセネカ。
「私は真剣」
…だろうな。
「そういえばお前、名前は?」
「リエル。」
…理由はシャレにならんが、何はともあれ仲間が増えた。これで少しは旅も楽になるだろ。 …たいして旅して無いが。
秋田犬ですm(__)m
『リエル』
カンボジアの通貨です。要するに金ですね(笑)。
でも現在のカンボジアでは、専ら米ドルを使っているらしいです。
作者はネーミングセンスが乏しいので、基本的に色々な単語を引っ張って来ます。
…そしてその名前も微妙なものになるという不思議。
ちなみに裏話をすると、リエル以外に『フラン』という名前も候補にあがりましたが、アミダ…ゲフンゲフン…真剣に考えた末、リエルにしました。
……そう! フランは大人っぽいからやめたんです。…えぇそうです。絶対に。
それではまた次回m(__)m




