漫才「ピクトグラム」
楽しんで頂ければ幸いです。
それでは御覧下さい。
ツ ツッコミ
ボ ボケ
ツ「いやぁ。俺さ、スポーツ観戦好きじゃん?」
ボ「深夜こっそりテレビに齧り付いて二人の競技者がアンアン叫んでる姿を見ているからな」
ツ「夜の大運動会の話じゃねぇ。そして、目が悪くなるからある程度離れて観戦してるわ。それはさておき、去年の東京オリンピック見ててさ。一番気になった種目って何だった?」
ボ「綱登り」
ツ「千九百三十二年のロサンゼルスオリンピックの話じゃねぇ。後それもう廃止されてんぞ」
ボ「……」
ツ「御免! 御免ね? ボケは小学生の頃から綱登り得意だったもんね」
ボ「っ」
ツ「右の口角をぎゅぅって上げる笑い方止めろ。見てて腹立つんだよ。まぁいいや。俺は競技よりもさ、あのピクトグラムが物凄く印象に残っているんだよね」
ボ「面白かったよな。本番中、ちょいちょいミスっぽい箇所もあったけど。まぁ及第点をあげても良いでしょう」
ツ「お前、何様? その横っ面、表面積の広い鋼鉄製のスプーンでブッ叩くよ? でもさ、格好良くアレを出来たらモテると思わない!?」
ボ「街中であんな姿を披露したら大多数の女子はドン引きするぞ」
ツ「違うよ、酒の席とかで披露すればモテるかなぁって!」
ボ「じゃあ俺がモテるピクトグラムを教えて進ぜよう」
ツ「おぉ! 宜しく頼むわ! 出来ればカッコいい奴ね!」
ボ「分かった。では、先ず。これだっ!」
ツ「右手で作った拳を前に突き出す。うん! 空手のピクトグラムか! いいじゃん! 笑い方馬鹿にして御免ね?」
ボ「空手では無い」
ツ「へ?」
ボ「俺の体を時計回りに九十度回転させ。真正面から見てみろ」
ツ「お、おう。――。いやいや、これ。朝八時放送の情報番組のス、じゃん。だせぇよ」
ボ「変化するピクトグラムも珍しいだろう?」
ツ「その笑い方で言うの止めろ。鳥肌立つわ。次! 次は!?」
ボ「仕方があるまい。では、次はこれだっ!」
ツ「両手を後ろに組んで、踵を浮かして、唇を尖らせる……。うん、これはどう見ても背の高い彼にキスをせがんでいる彼女のピクトグラムですね」
ボ「口角筋を最大限に発動させて唇を尖らせるのは当然だが、目を瞑っても彼にさようならのキスを強請る乙女の心情を表現するのが難しいんだぞ」
ツ「そんな口角で言われても今一しっくりこねぇよ」
ボ「……」
ツ「ほんっっと御免! 散歩に連れて行ってくれない子犬の切ない表情浮かべるの止めて!」
ボ「次はこれだ!」
ツ「えぇっとぉ……。体操座りの姿勢をもっと窮屈にして丸まって……。お前、何してんの? お腹痛いの? 胃薬持って来ようか?」
ボ「仲間に置いてきぼりにされたダンゴ虫のピクトグラムを演じている。肩口から染み出る哀愁感が堪らんだろう?」
ツ「酒の席でそれを披露したら大丈夫? って心配されるわ。それも却下! 次っ!」
ボ「これなら確実にモテるだろう! とうっ!」
ツ「額にネクタイを巻き付けて、覚束ない足元で口は半開き。そして定まらない焦点と手土産を持っているであろう右手……。覚束ない足元で一時停止し続ける君の下腿三頭筋を褒めたいけども。それ何」
ボ「お土産として腐りかけのお寿司を持って家へ帰る。酔っ払いのピクトグラムだ」
ツ「絶対モテない! すべからくモテないから却下! 大体、酒の席で披露する予定だぞ? 皆ある程度酔っ払っているのに酔っ払った姿のピクトグラムを披露しても……」
ボ「……」
ツ「いやいや。ダンゴ虫のピクトグラム……。じゃあ無い! 体操座りして膝に顔を埋めてスンスンと泣く子供のピクトグラムだな!」
ボ「……」
ツ「うわ、うっざ。分かってくれて嬉しそうにこっちを見上げてるけどさ。その口角の上げ方で見上げられても……」
ボ「っ!」
ツ「ダンゴ虫にならないで! 漫才出来なくなっちゃうからぁ!」
ボ「チッ」
ツ「舌打ちすんなよ。俺が舌打ちしたい気分なんだぞ?」
ボ「この四つのピクトグラムを気に入った子の前で続け様にすればモテる筈だ」
ツ「はぁ? モテる訳ねぇだろ。スは兎も角。他の三つは意味不明……」
ボ「ッ!」
ツ「ダンゴ虫はやらせねぇよ? 漫才出来なくなるからちゃんと立ってろ」
ボ「ふんっ。まだ理解出来ていない貴様に大変賢い俺様がこの連続ピクトグラムの本当の意味を教えてやろう!」
ツ「宜しく頼むよ。さり気なく非常口のピクトグラムを披露しているボケ君」
ボ「全てのピクトグラムの頭文字を繋ぎ合わせてみろ」
ツ「はい? 最初はス、だろ? んで次はキス。ダンゴ虫に、酔っ払……。あぁっ!」
ボ「ス、キ、ダ、ヨ」
ツ「御免。胃液全部吐きそうになるからその口角で素敵な台詞吐くの止めて?」
ボ「……」
ツ「もうダンゴ虫にはさせねぇから。よし! じゃあやってみるよ!」
ボ「おうっ」
ツ「ス! キス! ダンゴ虫! 酔っ払い! 君の事が好きだよ! どうだ!?」
ボ「おえっ」
ツ「感情をこれでもかと籠めて恥を忍んでやったのに考案者であるお前が吐くんじゃねぇ! 絶対モテないから普通に酒を飲むわ」
ボ「最初からそうしろよ」
ツボ「どうも有難うございました!!」
お疲れ様でした。