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9話 黒衣の少年

 突然現れた謎の人物に泉水は警戒する。

 空中に浮かぶ渦のようなものから姿を現したのもそうだが、なにか不気味だ。


「どちら様かしら。初対面なら自己紹介はしてほしいかな……!」

「語る名など持っていない。私はただ目的を遂行するだけだ」


 黒ずくめの少年の眼前に青白く光る魔法陣が浮かぶ。

 綾瀬がペイルライダーを召喚する時と同じ現象だ。


「来い、アークトロール。敵を殲滅せよ」


 魔法陣から現れたのは肥大化した右腕を持つ巨躯の魔物だった。

 アークトロールは雄叫びととも突進して右腕でペイルライダーに殴りかかる。

 両腕を交差させて防御するも、その威力に片膝をついた。さっきの戦いで消耗しているのだ。


「ほう、今の一撃を受け止めるか。今までの魔物では相手にならないわけだ」

「……そう。あなたが泉水くんを狙っていた犯人なのね」


 今まで泉水を襲ってきた魔物は全てこの少年の差し金だったのだ。

 プラチナスライムにはじまりクレイゴーレムやウコバク。もしかしたら切り裂き魔もそうかもしれない。


「そうだ。君の実力に敬意を表するよ。だから私が直接出向いたのだからな」

「別に嬉しくないわ。あなたはどうして封印を解こうとしているの? 理由が分からない」


 敵の左拳がペイルライダーを襲う。回避が遅れて顔面にクリーンヒットした。

 顔を覆う装甲に亀裂が走る。反撃に手甲剣を繰り出すが、相手の巨大な右腕が無造作に掴み取った。

 とてつもない握力で腕を握られている。抵抗しても抜け出せない。


「君はこの地に封じられた魔物のことを知らないだろう。その魔物はあらゆるものを飲み込み、空間すらも食らい、全てを闇に変える。魔物が好む闇に」

「なおさら理解できない……! あなたも退魔師なんでしょう? なら魔物の恐ろしさは分かるはず!」


 だが、黒ずくめの少年はそれを否定した。


「いいや。私は魔物を信頼している。人間などより遥かにな」

「けれど魔物は人間を下等種だと思ってる。人間を殺戮するのが魔物の快楽よ」

「見解の相違だ。人間はその気になれば魔物とだって分かり合うことができる」


 魔物と分かり合うことを完全には否定できなかった。

 綾瀬自身、契約するペイルライダーとだけは信頼関係があると考えている。

 だが黒ずくめの少年はどこか異常だ。その精神状態に綾瀬は心当たりがある。


「一方的に魔物を排除する退魔師の在り方は歪んでいる。この地に封じられた魔物を解き放てば、少しは魔物が過ごしやすい世界になるだろう」

「……あなたは魔物に魅入られてる。誰かは知らないけれど正常じゃない」


 綾瀬とペイルライダーの二人はとっくに力を使い果たしていた。

 苦し紛れに残った腕の手甲剣で刺突するが、それも掴まれてしまう。

 そして思い切り地面に叩きつけられた。衝撃でクレーターができる。

 いたぶって遊んでいる。アークトロールにとっていつでも倒せる相手なのだ。


「私が正常ではない? そうかもしれないな。だが考えを変える気はない」


 アークトロールは青き騎士を何度も殴りつける。鎧が砕け、破片が飛び散る。

 とどめとばかりに空中へ放り投げると、巨大な右腕で胴を殴り飛ばす。面白いほど吹っ飛んで地面を転がった。

 ペイルライダーの身体がうっすら透けて光の粒となり消えていく。


「さつき……すまない……」

「ペイル……! 召喚を解除すればまだ死なないはずよ。ごめんなさい……」

「そうだな……だが私より……自分の心配をしろ……ぐっ」


 綾瀬は倒れたペイルライダーに駆け寄って手をかざす。

 青白い魔法陣が浮かび、瀕死の騎士は姿を消した。


「まだ続けるのか? もう魔力もほとんど練れていないようだが」

「……約束したから。泉水くんを守るって……!」

「いい覚悟だ。ならば私も容赦はしない……やれ!」


 アークトロールは雄叫びを上げると、巨大な右腕を地面に叩きつけた。

 すると黒い衝撃波が地面を砕きながら綾瀬に迫る。綾瀬は結界札を投げつけて見えない障壁を張った。

 衝撃波は障壁と衝突するが勢いは死んでいない。そのまま綾瀬を吹き飛ばす。


「……綾瀬さん!」


 泉水は綾瀬のところまで走って抱きかかえた。頭を打ったのか気を失っている。

 黒ずくめの少年が近付いてくるのも構わず、泉水は自分の無力を呪った。

 なぜいつも見ていることしかできないのだろう。大切な友達がこれほどまで懸命に戦っているのに。


「君が『鍵』を受け継ぐ者だな。こっちへ来い。抵抗しなければ命は保証する」

「……嫌だ。悪事の片棒を担ぎたくない」

「……ならば死ぬか? 君を殺せば封印は解ける。私はそれでも構わない」


 その時、泉水は目を疑った。空間が穴のように歪んで、人が姿を現した。

 薄紫色の髪を腰まで伸ばしゴスロリファッションに身を包んだ幼い少女だ。


「ふむ……そこまでだよ。この戦いは終わりにしたまえ」


 綾瀬の師匠、冥道が突然現れたのだ。

 隣にはドレスを纏った細身の魔物が控えている。

 瞬間移動のように現れたのはその魔物の能力だろうか。


「あなたは……冥道くらら。だが退魔師としては引退した身のはず」

「よくご存知だ。優秀な弟子が傷つくところを見ていられなくなってね」

「……流石にあなたが相手では分が悪いな。今日は退くとしよう」


 空間に渦巻く真っ暗な闇が現れる。黒ずくめの少年はその中に消えていった。

 泉水は安堵すると遅れてやってきた恐怖で全身が震えるのを感じた。


「泉水くん、災難だったね。場所を移そう……まずはさつきを病院に運ぼうか」


 冥道が指を鳴らすと泉水の視界が一瞬で変わる。気がついたら病院の前にいた。

 やはり瞬間移動のような能力を使っている。冥道の魔物の足元に魔法陣が浮かぶと、魔物は姿を消した。

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