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33話 その後とこれから

 アビスの封印を巡る一連の事件は終結した。

 そんな泉水たちを迎えてくれたのはいつもと変わらない日常だった。

 家を出て通学路を歩いていると綾瀬と出会ってお互いに挨拶をする。


「……泉水くん、なんで笑ってるの?」


 まったく気がつかなかったが、自然と笑みがこぼれていた。

 綾瀬は不思議そうにしながら泉水の隣を歩く。


「あ……いや。やっと平和が訪れたんだなって思うと嬉しくて」

「そっか。それもそうだね。泉水くんはずっと危険な目に遭ってきたから」


 事件の首謀者であるクラミツハの三人。特に黒須がどうなったかについて。

 結果だけを言えば、洗脳状態にあったため罪はないと判断された。

 真の首謀者である魔物カリギュラはアビスの分身だった存在だ。

 つまり封印されていたアビスそのものが黒幕なわけで、ならば黒須には罪がない。冥道の口添えもあり退魔師の資格も剥奪されずに済んだ。


 だが両親とは未だに和解できていない。

 黒須自身が、両親にはもう会えないと思い込んでいる節がある。

 たしかに魔物に魅入られた息子を放り出すような父親だ。簡単に許してはくれないだろう。

 だが一方で窮地に陥った泉水を助けてくれた一面もある。

 話し合えば許してくれるのではないかと、泉水は楽観視しているのだが。


 黒須は今、冥道の家で厄介になりながら学校へ通っている。

 失った時間を取り戻すようにゆっくりと周囲に馴染もうとしていた。

 クラスは違うが泉水とだってもう友達だ。部活も同じで休み時間によく話す。


 雷花と甲斐については、今は普通の生活を送っている。

 だが魔物に魅入られた黒須と違い、二人は自分の意思で封印を解こうとした。

 というわけで冥道にこってり絞られて反省させられたらしい。


 ちなみに大鳳高校に転校してきた真央は、事件が終わり黒橡女学院に戻った。

 そして事件の主な被害者である泉水にも大きな変化あったのだ。


「泉水くん、今日も師匠のところへ行くんでしょう? 私も一緒に行く!」


 部活が終わると、校門の前で綾瀬が待ち受けていた。

 なぜか冥道に呼ばれているらしい。師弟関係なので何かあるかもしれない。


 泉水は事件が終わってからというもの、たびたび冥道の家へ通っていた。

 退魔師になる修練を積むためだ。魔力はもう練れるので専門知識の勉強が多い。

 あの戦いを経て泉水は自分を守ってくれた退魔師の姿に憧れるようになった。

 自分にその能力があるのなら、みんなのように誰かを守れる人間になりたいと思ったのだ。


 そして泉水にはその資質がある。退魔師業界は慢性的に人手不足だ。

 後進の育成に余念がない冥道は泉水を逃さなかった。今や立派な弟子の一人だ。


「ああ……冥道さんが言っていたな。皆を集めてほしいと」


 泉水と一緒にいた黒須が綾瀬の話を補足する。

 黒須曰く、何か重要な話があるとのことだが詳細は聞かされていない。

 三人で冥道邸へ向かうと、すでに真央と雷花が家の中で待っていた。


「やーやー先輩方。元気してた?」

「失礼ですよ。皆さんお久しぶりですね」


 雷花は椅子をぐらぐらと後ろに傾けながら紅茶に口をつけていた。

 砂糖とミルクを大量に入れて、元の味はすでに分からなくなっている。

 泉水は真央と事件以来会っていなかったが、相変わらずの慇懃な振る舞いに安心すら覚えた。


「ああ。雷花も元気そうで何よりだ。ちゃんと学校へは行ってるか」

「零士は心配性だな。行ってるよ。すっげー……退屈だけどな」


 家出少女から学校へ通うようにまでに更生して良かったと泉水は思う。

 雷花は授業がつまらなくて仕方ない、いつも眠いと言っているが。

 それなのにテストの成績だけはトップクラスらしいのが不思議な話だ。


「んなことよりさ、もうそろそろ夏休みだろ。早く休みになんねーかな」

「雷花、あなたはその話ばかりですね。何を言っても夏休みは早く来ませんよ」

「だってしょーがねーじゃん。楽しみなんだから! 海とか夏祭りとか……流しそうめんどっかでやってねぇかな」


 そうだ、と言って雷花は傾けていた椅子を元に戻し、ぱちんと手を打った。

 今朝のニュースでやってた情報が脳裏によぎったのだ。


「夏休みにみんなでさー、ここに集まって流星群見ようよ。大鳳市は星がよく見えるし丁度いいだろ?」


 ばっと両手を広げて雷花はそう話した。ペルセウス座流星群というやつだ。

 三大流星群のひとつで、夏休みの時期に活動が極大になる。

 大鳳市は星がよく見えるのだ。天体観測と洒落込むのも良いかもしれない。


「なんともロマンチックな話だねぇ……だけど知ってるかい。流れ星は不吉の象徴でもあるのだよ」


 幼い少女のようでありながら、いやに大人びた声が響いた。

 雷花は本能的に驚いてしまい突然黙り込んでしまう。

 思い出したのだ。数日間に渡って叱られ説教されたあの出来事を。


「三人とも御機嫌よう。よく来てくれたね」


 冥道がリビングにやってきたのだ。隣には眼鏡を掛けた女性が一緒にいた。

 スーツ姿で会社員めいた怜悧(れいり)な印象を受ける。年は二十代といったところか。


「師匠……その方はどなたですか?」


 泉水はもちろん、他の人たちも初対面のようだったので確認する。

 急に人を集めたことと何か関係がありそうだ。


「はじめまして。私は退魔局の若葉と申します。あなたがあの泉水さんですね」

「あ……はい。泉水です」


 退魔局。退魔師を目指す者ならばその存在は知っておかなければならない。

 もちろん泉水も知っている。退魔局は魔物退治を行う公的機関のことだ。

 ほとんどの退魔師はこの組織に所属し、支援を受けたり給料が支払われる。


 そして退魔局は退魔師になるための認定試験も年に一度行っている。

 冥道の弟子となった泉水も今年試験を受ける予定である。

 その歴史は古く、陰陽寮が前身だと言われている。

 冥道は得意気な様子で若葉に説明した。


「彼こそがアビスを倒した期待の新人、泉水勇樹くんだ。よく覚えておきたまえ」

「それはもう。目に焼きつけておきます」

「え……いやいやっ。僕は大したことなんて何も……!」


 ペイルライダーが強かっただけだ。泉水自身は特別なことをしたわけではない。

 その彼だって戦いが終わった後は契約を解除して綾瀬の相棒に戻っている。

 あまり期待されても困る。泉水は途端にプレッシャーを感じることになった。


「先程のお話、失礼ながら聞いてしまいましたが、まさに今回の一件は『流星群』が関係しているのです」

「はぇ……マジで?」


 雷花は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

 その時、ちょうどインターホンの鳴る音が聞こえた。

 来客である。遠野と甲斐の二人がやって来たようだった。

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