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29話 救うための戦い

 アビスを封印していた設備をペイルライダーが調べる。

 どうやらこれ自体が一種の魔法陣のようなものらしい。

 中央の台座に『鍵』を乗せ、四つの柱に魔力を充填することで起動する。


「でも僕には魔力がないよ……封印は施せない」


 遥か頭上に浮かぶ黒い球体はどんどん大きくなっていく。

 泉水は無力感とともにがっくりとうなだれた。

 そこでペイルライダーが柱のひとつに触れてこう言う。


「私の魔力を使おう。君は台座に寝ていればそれでいい」

「大丈夫なの……? 残りの魔力は……」

「まだ問題ない。連中が戻ってくる前に再封印するぞ」


 その時、真っ暗に渦巻く空間が出現する。

 中からは黒須が歩いてくる。雷花はいなかった。


「もう戻ってきたのか……早いお帰りだな」


 ペイルライダーがそう言って臨戦態勢に入る。

 遠野を倒すと言っていたが、黒須がここに戻ってきたということは。


「遠野さんは……どうしたんだ!? まさか……!」

「奴は邪魔な存在だった……だから私が直接始末したよ」


 その冷たい一言に泉水はショックを受けた。

 ならば真央はどうなったのか。聞かずにはいられなかった。


「なら真央さんは……真央さんはどうしたの!?」

「雷花に任せたが……どうなったかは私も知らないな」


 泉水の中で不安が強くなっていく。

 真央と雷花、どちらが勝ったのか。そして二人とも生きているのだろうか。

 一方、黒須も倒れている甲斐を見て状況を理解する。彼にとって甲斐が負けるのは予想外の展開だった。


「まさかこうなるとはな。君を少々見くびっていたよ。考えを改めよう」

「……黒須くん、僕は君とだって戦う覚悟だ……!」


 それが甲斐との約束だ。その甲斐は魔力を消耗した影響で気を失っている。

 黒須は洗脳されているだけで、本当は悪事を望んでいるわけではないはずだ。

 これからはじまる戦いは黒須を救うための戦いでもある。


「……甲斐、雷花。君たちを私の目的に巻き込んですまなかった」


 泉水の言葉を無視して、黒須は仲間たちに謝罪した。

 そして手をかざすと青白い魔法陣が地面に浮かぶ。

 現れたのは肥大化した右腕をもつ巨躯の魔物、アークトロール。


「私の中に残っていた甘さとともに……泉水くん、君を確実に殺す!」


 アークトロールが雄叫びをあげて突っ込んでくる。

 巨大な右腕を振りかぶって、ペイルライダー目掛けて必殺の拳を放つ。

 破壊力こそあるが見切った。右腕の外側へサイドステップで回避。


 関節の都合上、外側に逃げられたら追撃のしようがない。

 ペイルライダーは後退しつつ腕からクナイ状の刃を連射した。

 巨大な右腕でガードするが射出された刃が刺さって、光の粒が飛び散る。


 不本意ながら一度は負けた相手だ。対策は考えてある。

 拳の届かないアウトレンジから攻めて一方的に倒す。

 それがペイルライダーの考えた対アークトロールの答えだ。


「私の目は誤魔化せない。泉水くん、君は魔力が練れていないな。つまりペイルライダーは弱体化している!」


 黒須は今の攻防でペイルライダーと泉水の状態を見抜いた。

 本来のペイルライダーの能力なら力技でアークトロールに勝てるはずだ。

 チマチマと射程距離の外から攻めるなんて真似は必要ない。


「そんな状態で私と戦う!? 笑わせるな! 死を告げる青騎士の名が泣くぞ!」


 アークトロールが右腕で地面を叩くと衝撃波が発生する。

 だがペイルライダーは横っ飛びで回避しながら刃を連続で射出する。

 黒須は結界札を投げて障壁を形成、アークトロールを守る。


「ならば……こうだ!」


 連続で地面を叩く。複数の衝撃波が泉水に襲い掛かった。

 これならば結界札の使えない泉水をペイルライダーは守らざるを得ない。

 だが泉水は魔力探知を活かして攻撃のタイミングを読んでいた。


「ペイルライダー、気にせず攻撃を続けて!」

「分かっている!」


 泉水は迫る衝撃波をすべて先読みで回避した。

 アークトロールの衝撃波はすでに何度か見ている攻撃だ。

 だからタイミングさえ分かっていれば泉水でも簡単に避けられる。

 濃霧の中、龍神形態のアルカンシェルの攻撃を避け続ける方がよっぽど難しい。


「まだだ! 動きを止めてやれ!」


 黒須が叫ぶとアークトロールはまたもや右腕で地面を叩く。

 今度は地面が大きく揺れて、泉水とペイルライダーの動きが止まる。

 遠野戦でも使った、局地的な地震を発生させる技『極震(きょくしん)』だ。


 この隙にアークトロールは右腕でペイルライダーに殴りかかる。

 絶大な破壊力を秘めた拳が青騎士に命中せんとしたその時。


「ペイルライダーッ! 右腕に組みつくんだ!!」


 その指示で泉水の意図は理解できた。

 ペイルライダーは拳の一撃を受け流しながら巨大な腕に組みつく。

 いわゆる腕ひしぎ十字固めの形で。そして、右腕に思い切り体重をかけた。

 するとアークトロールはバランスを崩して地面に倒れる。


「なに……こんな馬鹿なことがっ!?」


 黒須も驚かざるを得ない。

 なぜこんなにも簡単に寝技に持ち込めたのか。それには理由がある。

 アークトロールは右腕が極端なほど巨大なぶん、重心も右に傾いていた。

 アンバランスな身体の構造上右側に倒れやすいのだ。


「良い判断だ、泉水。お前と戦うのは二度目になるが……」


 組みついたまま相手の右腕の肘に剣を突き刺し、腕を切断する。

 すかさず馬乗りになると手甲剣で顔面を貫いた。


「……これが本当の結果だ。よく覚えたまま死んでゆけ」


 アークトロールが光の粒となって消滅していく。

 黒須は死にゆく魔物の姿に思わず目を背けた。


「……惨いことを。よくも私の仲間を殺してくれたな」

「君は魔物を信頼しているんだったな。だが私は魔物が嫌いだ」


 魔物を嫌うペイルライダーと人間を見限った黒須は対照的な関係だった。

 黒須は新たな魔物を召喚すべく手をかざす。その動作の意味をペイルライダーは察した。


「まさか……複数体の魔物と契約しているのか……!」

「そのとおり。今から召喚する魔物こそ私の真の相棒だ……!」


 地面に青白く光る魔法陣が浮かび、黒き鎧を纏った魔物が出現した。

 虚空から真紅に染まった剣を取り出すとペイルライダーを睥睨(へいげい)する。


「俺はカリギュラ。お前があのペイルライダーか……評判ほど力を感じないな」


 泉水はその圧倒的な魔力量に肌がひりひりと痛むのを感じた。

 二人の戦いは今まさに第二ラウンドへと突入したのだ。

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