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2話 魔物との遭遇

 よく晴れた空に太陽の光が射し込むなんでもない朝。

 泉水(いずみ)は眠気を残したまま家を出て通学路を歩いていく。


「おはよう、泉水くん」


 声をかけて現れたのは高校で同じクラスの綾瀬だ。

 家の近所に住んでいてよく一緒に登校する。


「あ……おはよう綾瀬さん」


 彼女は父親の転勤で引っ越してきた泉水に、なにかと親切にしてくれる。

 銀髪のショートカットをかきあげながら近づいてきて、肩を並べて歩く。


「知ってる泉水くん? 最近、夜になると起きる切り裂き魔事件」

「はじめて聞いたよ。そんなのニュースでやってた?」

「ニュースにはなってないよ。うわさだようわさ」


 綾瀬はくすくす笑った。彼女には謎めいたところがある。

 なにかの秘密を隠しもっているような。泉水はそんな気がしてならなかった。


「くら~いところを歩いていると、切り裂き魔が現れるんだって。そいつは血を見るのが大好きで……狙われたら最後死ぬまで切り刻まれちゃうらしいよ」

「朝からどきどきするなぁ……そんな話を聞くと予備校に行けなくなるよ」


 泉水は怖い話が苦手だった。

 高校一年生になってもいまだに一人で寝るのが怖いと思うくらいだ。

 予備校の帰りは夜道。今日は切り裂き魔に怯えながら帰ることになるだろう。


「そっか。それなら気をつけてね。本当にいるかもしれないよ、切り裂き魔」


 不意に綾瀬の表情が険しくなる。その声色は真剣そのものだ。

 それが泉水の恐怖をより駆り立てて急ぎ足で学校へ向かう動力源になる。

 学校へ着いて昼休みになった頃、友達の理藤(りとう)に朝の話をすると彼はこう言った。


「魔物の仕業かもな。この街には出るんだよ。人間じゃない奴がさ」


 この街には魔物という化け物が現れることがあって、よく事件を起こすらしい。

 切り裂き魔もその魔物ではないのかと言うのだ。

 恐怖を払拭したくて話したのにかえって恐怖が倍増した。


「そんな……じゃあ本当に魔物に出会ったらどうすればいいの……!?」

「大丈夫だよ。この街には退魔師がいるからな。なんとかしてくれるよ」


 話はそれで終わった。授業が終わり、部活へ行き、そして予備校の帰り道。

 泉水はずっと後ろに誰かがいるような気配を感じていた。

 しかし意を決して振り向いてもそこには誰もいない。それを繰り返す。


「気のせいだよ……気のせい、気のせい」


 なんてひとりごとを呟いて自分を落ち着かせる。

 振り向いても誰もいないのだから、結局は一人で勝手に怖がっているだけだ。

 だがどうしても綾瀬と理藤に植えつけられた恐怖を拭い去れない。

 街灯が点滅する薄気味悪い路地を通るときに、それは極限まで膨れ上がった。

 泉水はにわかに急ぎはじめ、やがて小走りで通り抜けようとする。

 すると点滅していた街灯が消えて辺りの闇が濃くなった。足元に影が広がる。


「うわっ!」


 驚いて反射的に声を上げると、足が何かに引っかかって転倒した。

 とっさに受け身を取ったおかげで怪我はせずにすんだが、泉水は見てしまった。

 道路の影から何かがせり上がってくるのを。それに引っかかって転んだのだ。

 それは人間程の大きさの黒いカマキリのようだった。顔には複数の眼があり、手に鋭い刃を備えている。


「う……うわぁぁぁぁ!!!!」


 気がつけば絶叫とともに走り出していた。

 魔物だ。理藤の言う通り魔物は本当に存在していたのだ。

 魔物は身体を首まで影に沈めると、影の中を泳ぐみたいに追いかけてくる。

 速い。あっという間に距離が詰まって、魔物は手に生えた鋭い刃を振りかぶる。

 その時だった。両者の間に奇妙な紋様が描かれた一枚の札が落ちてきたのだ。

 その札は目に見えない障壁を生み出し、刃から泉水を守った。


「なるほど。あなたが切り裂き魔事件の正体ってわけね。影にひそんで忍び寄って、その手の刃で切り刻むわけだ」


 札を投げ入れたのはその声の主だ。声の主は塀の上に立っていた。

 同じ高校の制服である濃紺のセーラー服に、銀髪のショートカット。

 綾瀬だ。綾瀬は塀から飛び降りると、泉水をかばうように魔物と相対する。


「あ……綾瀬さん、なにがどうなって……」

「話は後で。泉水くん、危ないから動かないでね」


 泉水は訳がわからなかったが、綾瀬は質疑応答の時間にストップをかけた。

 魔物、切り裂き魔は影から飛び出すと奇怪な鳴き声をあげて威嚇する。


「……召喚!」


 綾瀬が手をかざして叫ぶと、道路に青白く光る魔法陣が浮かぶ。

 瞬間、泉水と綾瀬の目の前に青い鎧を纏った騎士が現れた。

 切り裂き魔の刃が騎士に迫る。騎士はガントレットで防いで手甲剣を伸ばす。

 袈裟斬りで放たれた手甲剣が命中した。血のように光の粒が飛び散る。

 たまらず塀の影の中へ逃げると、さながら水中の魚のように高速で影から影へと逃げていく。


「……逃がさんッ!」


 騎士はすかさず影の中に手甲剣を突き刺した。影に刀身が深く沈んでいく。

 さらに空いている片手からも手甲剣を伸ばして、もう一本の刃を突き刺す。


「グェェェッ……アァァァ!!!!」


 影の中から切り裂き魔の悲鳴が響く。

 騎士は構わずにその身体を引きずり出すと真っ二つに掻っ捌いた。

 引き裂かれた切り裂き魔の肉体は光の粒となりやがて完全に消滅する。


「さて泉水くん。怪我とかはないよね?」


 騎士と切り裂き魔の戦いが終わったところで、綾瀬はにこやかに言った。

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